月曜日の午後に隣町の診療所の若い先生から、58歳女性が紹介されてきた。その日の午前4時ごろから浮動性のめまいがあり、歩行できるがふらついていた。指鼻試験で測定障害を認めて、小脳性運動失調の疑い(小脳梗塞の疑い)とされた。意識は清明で麻痺はない。
当院内科の若い先生に地域医療連携室から連絡が来て、対応を相談された。簡単に所見をとって、すぐに頭部MRI検査を行うことにした。
ただし問題があった。この患者さんは健診の頭部MRI(脳ドック)の時に、閉所恐怖症があり、MRI室に入ると耐えられずに検査中止になっていた。それでもMRIの拡散強調画像だけでも撮らないと判断でできない。
患者さんは山間の町からタクシーで当院に来るので、40分くらいはかかる。もし小脳梗塞があれば、大きさによっては脳外科のある病院への転院搬送を要する可能性もあるが、まだ時間的に余裕はあった。
来院してさっそく頭部MRIを開始した。ちょうど拡散強調画像を撮り始める時に放射線室に行ったが、患者さんは下肢を動かしていた。何とか拡散強調画像を撮り終えて、FLAIR画像を撮り始めると、動きが激しくなり画像が乱れた。そこまでで検査を断念した。
拡散強調画像では脳幹(橋)の左右に高信号域を認めて(ADCでは低信号)、脳幹梗塞と診断された。当院の神経内科医に連絡して、神経内科で入院となった。
この患者さんは、高血圧症・脂質異常症(高コレステロール血症)・喫煙のリスクファクターを持っている。大脳にも陳旧性のラクナ梗塞があった。
小脳徴候は小脳障害だけでなく、大脳や脳幹への求心路や、小脳からの遠心路が障害されても出現する。紹介した若い先生の小脳性運動失調疑いの判断は見事なものだなあ、と感心した。
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