海水と真水の塩分濃度の違いから電力を作り出す新エネルギーを実用化しようと日本とノルウェーで研究開発が進んでいる。太陽光や風力のように天候に左右されず、事実上無尽蔵に存在する夢のエネルギーだ。
自然エネルギーはコスト高や効率の低さなどで普及が遅れており、新顔への期待は高い。
漬物で発電?--。
新エネルギーの研究現場に一石を投じた発電法は、キュウリやナスの塩漬けができる仕組みを使う。野菜の水分が抜けて、しわしわになる力を電力に変える。
日本のプロジェクトを主導する東京工業大学の谷岡明彦教授は「浸透圧発電」と呼ぶ。海水と真水の塩分濃度の差に着目した。水は通すのに塩分は通過できない膜で海水と真水を仕切る。塩分の濃い海水側に真水が移動する「浸透」という現象が起きる。
海水と真水を送り続けると、海水側の流量が増えて流れに勢いが増す。タービンが力強く回り、発電する。
水力と言えば水力発電があるが、これは高低差で水に勢いをつける。水に勢いをつけるという意味で原理は一緒だが「浸透圧発電は、高低差のない平地に水力発電所をつくるようなもの」(谷岡教授)という。
東工大と長崎大、水処理メーカーの協和機電工業 (長崎市)の研究グループは、福岡市に実証プラントを建設して実験を進めている。海水から真水を作る施設で出た塩分濃度が約2倍の濃縮海水と下水処理施設で発生した真水を使う。ポンプでプラントの心臓部で
ある直径30センチメートル、長さ1・4メートルの8本の筒に流し込む。内部には浸透膜が組み込まれていて海水の流れに勢いかつく。流量が5~8割は増える。使った海水と真水は海や河川に戻す。
協和機電の坂井秀之社長は「筒1本で300メートルの落差がある水力発電所と同等の発電能力がある」と話す。ポンプの駆動に電力を使うが、それ以上の電力を発生するので発電所として機能する。1~2キロワットの電力を発電することに成功した。
一方、ノルウェーの電力大手、スタットクラフトも実験施設をつくって実用化に向けた研究を進めている。同社と技術提携した日東電工は、厚さがわずか0・1ミリメートルほどの薄い浸透膜がカギを握るとみる。琵琶湖を望む小高い丘の上にある同社滋賀事業所(滋賀県草津市)で研究開発を急いでいる。
浸透圧発電では海水と真水の濃度差を保ち続けることが重要だ。「海水中の塩分が真水に移動するのを防ぎつつ、真水は効率よく海水側に浸透させる技術が必要」と日東電工メンブレン事業部の広瀬雅彦開発部長は説明する。
海水から塩分を取り除いて真水をつくる浸透膜で培った技術をもとに浸透圧発電向けの膜の開発に挑む。広瀬部長は「来年には新しい浸透膜を(ノルウェーの実験施設に)供給して検証したい」と意気込む。
日本とノルウェーのグループが開発を競う浸透圧発電は天候に左右されない。実質稼働率は85%以上と太陽光や風力の4倍以上だ。
東工大などのグループの試算によると、1キロワット時の発電コストは9~26円で太陽光の同40円を下回り、風力の同14~24円に匹敵する。
海水と真水を同時に調達できる河口付近などへの建設が想定される。谷岡教授は「日本の河川流入量を考えると潜在能力は600万キロワットと原子力発電所5、6基分に相当する」と言う。
とはいえ発電所を造るには課題も多い。膜が実用に耐えるのか、大型のプラントを確実に動かせるのか。さらなる技術革新が必要だ。
東工大などのグループは、東レと東洋紡、山口大学を新たに加えて3年後をメドに商用プラントの建設を目指している。スタットクラフトと日東電工のグループは15年に2000キロワット級の実証プラントを建設する計画を掲げる。
東日本大震災による福島第1原発の事故によって原発の安全神話は崩壊。太陽光など自然エネルギーへの期待は高まる。日本は領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせると世界6番目という海洋国家の側面を持つ。海洋資源を活用する浸透圧発電のデビューが待たれる。
(新井重徳、生川暁)
自然エネルギーはコスト高や効率の低さなどで普及が遅れており、新顔への期待は高い。
漬物で発電?--。
新エネルギーの研究現場に一石を投じた発電法は、キュウリやナスの塩漬けができる仕組みを使う。野菜の水分が抜けて、しわしわになる力を電力に変える。
日本のプロジェクトを主導する東京工業大学の谷岡明彦教授は「浸透圧発電」と呼ぶ。海水と真水の塩分濃度の差に着目した。水は通すのに塩分は通過できない膜で海水と真水を仕切る。塩分の濃い海水側に真水が移動する「浸透」という現象が起きる。
海水と真水を送り続けると、海水側の流量が増えて流れに勢いが増す。タービンが力強く回り、発電する。
水力と言えば水力発電があるが、これは高低差で水に勢いをつける。水に勢いをつけるという意味で原理は一緒だが「浸透圧発電は、高低差のない平地に水力発電所をつくるようなもの」(谷岡教授)という。
東工大と長崎大、水処理メーカーの協和機電工業 (長崎市)の研究グループは、福岡市に実証プラントを建設して実験を進めている。海水から真水を作る施設で出た塩分濃度が約2倍の濃縮海水と下水処理施設で発生した真水を使う。ポンプでプラントの心臓部で
ある直径30センチメートル、長さ1・4メートルの8本の筒に流し込む。内部には浸透膜が組み込まれていて海水の流れに勢いかつく。流量が5~8割は増える。使った海水と真水は海や河川に戻す。
協和機電の坂井秀之社長は「筒1本で300メートルの落差がある水力発電所と同等の発電能力がある」と話す。ポンプの駆動に電力を使うが、それ以上の電力を発生するので発電所として機能する。1~2キロワットの電力を発電することに成功した。
一方、ノルウェーの電力大手、スタットクラフトも実験施設をつくって実用化に向けた研究を進めている。同社と技術提携した日東電工は、厚さがわずか0・1ミリメートルほどの薄い浸透膜がカギを握るとみる。琵琶湖を望む小高い丘の上にある同社滋賀事業所(滋賀県草津市)で研究開発を急いでいる。
浸透圧発電では海水と真水の濃度差を保ち続けることが重要だ。「海水中の塩分が真水に移動するのを防ぎつつ、真水は効率よく海水側に浸透させる技術が必要」と日東電工メンブレン事業部の広瀬雅彦開発部長は説明する。
海水から塩分を取り除いて真水をつくる浸透膜で培った技術をもとに浸透圧発電向けの膜の開発に挑む。広瀬部長は「来年には新しい浸透膜を(ノルウェーの実験施設に)供給して検証したい」と意気込む。
日本とノルウェーのグループが開発を競う浸透圧発電は天候に左右されない。実質稼働率は85%以上と太陽光や風力の4倍以上だ。
東工大などのグループの試算によると、1キロワット時の発電コストは9~26円で太陽光の同40円を下回り、風力の同14~24円に匹敵する。
海水と真水を同時に調達できる河口付近などへの建設が想定される。谷岡教授は「日本の河川流入量を考えると潜在能力は600万キロワットと原子力発電所5、6基分に相当する」と言う。
とはいえ発電所を造るには課題も多い。膜が実用に耐えるのか、大型のプラントを確実に動かせるのか。さらなる技術革新が必要だ。
東工大などのグループは、東レと東洋紡、山口大学を新たに加えて3年後をメドに商用プラントの建設を目指している。スタットクラフトと日東電工のグループは15年に2000キロワット級の実証プラントを建設する計画を掲げる。
東日本大震災による福島第1原発の事故によって原発の安全神話は崩壊。太陽光など自然エネルギーへの期待は高まる。日本は領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせると世界6番目という海洋国家の側面を持つ。海洋資源を活用する浸透圧発電のデビューが待たれる。
(新井重徳、生川暁)