【バンコク=高橋徹】「輸出から内需主導への転換」を掲げるタイ新政権の経済政策が、相次ぎ実行段階に入ってきた。ガソリンの価格引き下げや自動車、住宅購入への大型減税を実施。
10月には農家からコメの高値買い上げを始める。生活費引き下げと収入引き上げで国民の実質可処分所得を増やし、国内消費を喚起する狙いだ。
バラマキ施策による政府の一時的な歳入減・歳出増は、経済成長がもたらす先行きの税収増で補う構えだが、目算が狂えば財政悪化を招きかねない。
インラック首相は8月23日の施政方針演説で「高い輸出依存はリスクが大きい」と内需拡大に取り組む考えを表明。まず手を付けたのが燃料の値下げだった。補助金原資として販売業者に支払いを義務付けてきた「国家石油基金」への納付金を免除、8月末から店頭価格が1~2割下がった。
車や住宅を初めて買う国民を対象に大型減税も始動。今月16日にスタートした自動車向けでは、Iトンピックアップトラックと排気量1500CC以下の小型乗用車の物品税(3~25%)を10万バーツ(約27万円)を上限に払い戻す。
乗用車で売れ筋のトヨ夕自動車「ヴィオス」は最大2割安く買える。これらの施策はいずれも1年程度の時限措置。その間に国民所得が底上げされれば、時限措置撤廃後も消費ブームは続き、内需主導の経済成長が軌道に乗るとの青写真を描く。
ただ政権公約の目玉、法定最低賃金の引き上げは調整が難航している。政府は人件費負担が増す企業への「アメ」として、現行30%の法人税を来年1月から23%に軽減することを先行決定した。
にもかかわらず、都県別に1日159~221バーツの最低賃金を全国一律300バーツに改定するという公約に対し、経済界の抵抗が予想以上に強かった。
新政権が閣議承認した2012年度(11年10月~12年9月)予算は、アピシット前政権案に比べ歳出を3・6%増額したものの、景気拡大を当て込み歳入も4・2%引き上げた。この結果、予算上の赤字は3500億バーツと前政権と同額に据え置き、財政悪化批判に配慮した。
日系企業に影響大きく
【バンコク=高橋徹】タイ新政権の経済政策は、日系企業の経営にも大きな影響を与える。すでに約7千社が進出済みなうえ、円高対応や東日本大震災後の生産拠点分散の受け皿として、インフラや裾野産業の集積するタイヘの投資を一段と加速してきたからだ。
自動車向けの大型減税は、タイ新車市場で9割のシェアを握る日本車各社には追い風だ。同国市場は昨年、過去最高の80万台に達したが、減税効果で「今年は90万台超え、来年はIOO万台の大台突破が確実」(ホンダ・
オートモービルータイランドの藤本敦社長)。
ただ、別の日本車メーカー幹部は「内需拡大の代わりに、賃金引き上げに協力しろというメッセージ」と漏らす。
一方、労働集約型で輸出頼みの工場は、賃上げの影響が直撃する。水産加工大手の極洋はバンコク近郊で回転ずし用のすしネタを合弁生産、全量輸出している。
従業員には同地域の法定最低賃金(215バーツ)を上回る平均250バーツを支払っているが、300バーツとなれば労務費は2割上昇する。
10月には農家からコメの高値買い上げを始める。生活費引き下げと収入引き上げで国民の実質可処分所得を増やし、国内消費を喚起する狙いだ。
バラマキ施策による政府の一時的な歳入減・歳出増は、経済成長がもたらす先行きの税収増で補う構えだが、目算が狂えば財政悪化を招きかねない。
インラック首相は8月23日の施政方針演説で「高い輸出依存はリスクが大きい」と内需拡大に取り組む考えを表明。まず手を付けたのが燃料の値下げだった。補助金原資として販売業者に支払いを義務付けてきた「国家石油基金」への納付金を免除、8月末から店頭価格が1~2割下がった。
車や住宅を初めて買う国民を対象に大型減税も始動。今月16日にスタートした自動車向けでは、Iトンピックアップトラックと排気量1500CC以下の小型乗用車の物品税(3~25%)を10万バーツ(約27万円)を上限に払い戻す。
乗用車で売れ筋のトヨ夕自動車「ヴィオス」は最大2割安く買える。これらの施策はいずれも1年程度の時限措置。その間に国民所得が底上げされれば、時限措置撤廃後も消費ブームは続き、内需主導の経済成長が軌道に乗るとの青写真を描く。
ただ政権公約の目玉、法定最低賃金の引き上げは調整が難航している。政府は人件費負担が増す企業への「アメ」として、現行30%の法人税を来年1月から23%に軽減することを先行決定した。
にもかかわらず、都県別に1日159~221バーツの最低賃金を全国一律300バーツに改定するという公約に対し、経済界の抵抗が予想以上に強かった。
新政権が閣議承認した2012年度(11年10月~12年9月)予算は、アピシット前政権案に比べ歳出を3・6%増額したものの、景気拡大を当て込み歳入も4・2%引き上げた。この結果、予算上の赤字は3500億バーツと前政権と同額に据え置き、財政悪化批判に配慮した。
日系企業に影響大きく
【バンコク=高橋徹】タイ新政権の経済政策は、日系企業の経営にも大きな影響を与える。すでに約7千社が進出済みなうえ、円高対応や東日本大震災後の生産拠点分散の受け皿として、インフラや裾野産業の集積するタイヘの投資を一段と加速してきたからだ。
自動車向けの大型減税は、タイ新車市場で9割のシェアを握る日本車各社には追い風だ。同国市場は昨年、過去最高の80万台に達したが、減税効果で「今年は90万台超え、来年はIOO万台の大台突破が確実」(ホンダ・
オートモービルータイランドの藤本敦社長)。
ただ、別の日本車メーカー幹部は「内需拡大の代わりに、賃金引き上げに協力しろというメッセージ」と漏らす。
一方、労働集約型で輸出頼みの工場は、賃上げの影響が直撃する。水産加工大手の極洋はバンコク近郊で回転ずし用のすしネタを合弁生産、全量輸出している。
従業員には同地域の法定最低賃金(215バーツ)を上回る平均250バーツを支払っているが、300バーツとなれば労務費は2割上昇する。