文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

「ルチア・ジョイスを求めて」宮田 恭子著…日経新聞9月25日20面より

2011年09月25日 23時13分49秒 | 日記
娘の視点からみた著名な小説家 評・法政大学教授 結城 英雄

ルチア・ジョイス(1907~82年)は著名な小説家ジェイムズ・ジョイス(1882~1941年)の娘。統合失調症を病み、経済的にも精神的にもジョイスに大きな負担をかけた。

本書『ルチア・ジョイスを求めて』は、そうした娘の視点からジョイスの文学的功績を照射する試みである。副題は「ジョイス文学の背景」。家族を探ることにより、作家の隠された側面が見えてくることも少なくない。妻の側から論じられたジョイス伝と同じく、やはり面白い。

ジョイスはアイルランドの首都ダブリンを若くして離脱し、トリエステ、チューリヒ、パリと大陸の都市を移り住んだ。使用言語も英語に加え、イタリア語、ドイツ語、フランス語へと変わり、しかも住居も転々として落ち着くこともなかった。

文学の地平を開拓しようとする偉大な文学者には好都合であったかもしれないが、家族にとっては不遇な流浪であったと思われる。娘ルチアの統合失調症は、そうした根無し草的な生活環境から発現したのかもしれない。生涯の残り半分ほどを精神科病院で過ごしている。

にもかかわらず、ルチアの狂気は天才と紙一重であった。本書はその「天才」を探る旅でもある。著者はジョイスの孫スティーヴンとの交流を手始めに、ヨーロッパのジョイス関係者とも親しく接し、アメリカのバッファロー大学の「ジョイス・コレクション」からその多くの証拠を入手している。

資料を解読する手並みも巧みだ。そしてルチアの才能を愛でるかのように、狂気を病んだ一人の芸術家として、ジョイス文学の背景からその存在を前景化してみせる。

実のところ、ルチアは舞踊や装飾文字において並々ならぬ才能を示していた。本書ではそうしたルチアの才能の開花を丹念に探り、パリを拠点とする同時代の著名な芸術家との交点にスポットを当て、ルチアを媒介としたジョイス文学の背景が論じられている。

そのうちでも、アイルランドの写本『ケルズの書』と『フィネガンズ・ウェイク』との関連はとりわけ興味深い。ルチアを探る旅はやはりジョイスを語る旅なのだろう。

「絵筆のナショナリズム」柴崎信三著 フジタと大観の戦争画とその後…日経新聞9月25日20面より

2011年09月25日 23時12分59秒 | 日記
日本屈指の人気を誇った洋画家、藤田嗣治と日本画家、横山大観を戦争にどう対処したかを軸に対比している。日中戦争から太平洋戦争に至る時期、藤田は戦争画の制作に積極的にかかわり、大観は富士山や桜を描いてナショナリズムを鼓舞し、絵の売り上げで戦闘機を軍に献納した。

本書は、戦争に協力した点では共通する2人の行動原理を明快に描き分けている。女性ヌードで名声をつかんだ藤田が戦時の祖国で活躍するにはそうした軟弱な題材を自ら封じ込めなければならなかった。

一方、大観は富士山や花の美に国粋主義を重ね合わせ戦意高揚をねらう絵を描いた。敵対する西洋を足がかりに飛躍した藤田が日本に回帰するには屈折が必要だったのに対し、伝統絵画を引き継ぐ大観は美をめぐる先入観をたやすく利用できる立場にいたといえる。

特に戦後の2人の対照的な境遇と行動を比較したくだりは迫力がある。藤田は戦争協力者とみなされ、失意を抱いたままフランスへと去った。

大観はGHQ(連合国軍総司令部)に召喚されたが、なぜか罪を問われず、日本画の大家の地位を守り抜いている。大観が追及を免れた真相は闇の中だが、著者はその行動を「率直にみて醜態」と記している。

戦後60年以上たってもなお続く戦争画をめぐる論議を進展させるには、大観が許された経緯もカギとなる。

「旅するウナギ 1億年の時空をこえて」黒木真理・塚本勝巳〈著)…朝日新聞9月25日13面より

2011年09月25日 23時12分21秒 | 日記
どこでどのように生まれるのか 評・辻 篤子 本社論説委員

おなじみなのに、謎に包まれている。ウナギは、そんな生き物の代表格に違いない。卵を持った親も生まれたばかりの子どもも見当たらない。どこでどう生まれるのか。紀元前4世紀、ギリシヤの哲学者アリストテレスは 「ウナギは泥の中から自然発生する」とした。

著者たちが天然のニホンウナギの卵をとらえたのはそれから実に2千年余り、2009年のことだ。本書は、科学がどうウナギの謎に挑んできたか、人や社会はどぅかかわってきたか、多面的にこの不思議な生き物に迫る。写真や絵を中心にしたつくりは、見るだけでも楽しい。

だが、なんといっても圧巻は、著者たちがウナギの卵に迫っていくくだりだ。卵探しは20世紀初め、ヨーロッパの研究者が姶めた。日本の研究チームによって成果が上がり始めたのはほんのこの十数年のことだ。

産卵場所は海山のある海域、時期は新月の夜と仮説を立て、候補地を絞り込んでいった。成果が全く上がらない14年の空白にも耐えた。

仮説は当たり、産卵場所はマリアナ海溝の世界最深部にもほど近い海山のある領域のわずか10立方キロの範囲だった。広大な太平洋の中では小さな小さな点でしかない。

ウナギの旅にも改めて驚く。レプトセファルスと呼ばれる薄い葉っぱのような幼生は北赤道海流に乗って西に向かい、フィリピン沖で北上する黒潮に乗り換えて東アジアにやってくる。

シラスウナギとなって川をのぽり、約10年かけて成長すると、いぶし銀のような光沢を持つ銀ウナギとなって再び産卵場への旅に出る。復路はまだよくわからないそうだ。

海と生命と科学の壮大な物語にたっぷりひたったら、東京・本郷の東京大学総合研究博物館で開かれている「鰻覧会」をのぞくのもいい。その足でうなぎ屋へ?

「パリ五月革命 私論」転換点としての68年 西川長夫〈著〉…朝日新聞9月25日13面より

2011年09月25日 23時11分38秒 | 日記
自己の根源問う「私」の革命 著者 西川長夫さん(77)

1967年からほぼ2年間、フランス政府の給費留学生としてパリ近郊に滞在し、68年の「五月革命」の現場に居合わせる。当時書かれたメモやノートをもとに、40年以上の時を経て編まれたドキュメントだ。

五月革命からは「生涯を決定するような影響を受けた」というが。「考えれば考えるほどわからなくなるところもあって、本にまとめるまでこれだけの時間がかかってしまった」と振り返る。

68年。パリだけではなく、カリフォルニア、メキシコ、プラハ、東京……。世界中の街頭で若者たちの反乱があった。「20世紀で唯一の世界革命」とさえ言われたこの年、何が起きていたのか。

「それまでの革命は、政権を奪うのが目的で、権力自体を疑うことはなかった。権力を取ることが何を意味するのか、突きつめては考えていなかった」

ソ連の社会主義への幻想はすでになく、社会党や共産党による政権交代を期待していたわけでもない。「68年の革命は、自分の置かれている立場を根源的に疑うものです。それは、自己否定でもあり、自己肯定でもある。最後は自分を頼るしかないからです。68年の革命は『私』の革命なのです」

フランスで頻発する郊外暴動や高校生の街頭デモに、意識されない「68年の形を変えた再現」を感じるという。サルコジ大統領が「68年の清算」を掲げるほどに、五月革命の存在感はフランスでは今も大きい。

「フランス人は68年の記憶をはっきり持っている。一方で日本社会はそれを見事に圧殺しました。これは忘却と記憶の抗争なのです」

「評伝 ジョージ・ケナン」ジョン・ルカーチ著…日経新聞9月25日21面より

2011年09月25日 23時11分02秒 | 日記
「米国の良心」としての知識人 評・立教大学教授 佐々木卓也

ケナンは、冷戦期アメリカの対ソ「封じ込め」戦略を提唱した人物としてよく知られている。しかし本書は、ワシントンで一時大きな影響力を振るった外交戦略家としてのケナンに主眼を置くのではなく、彼のほぼ1世紀にわたった人生の思索の軌跡を概観することで、ケナンの政治外交論、歴史観、そして哲学を探る試みである。

それは筆者がアメリカにとって、「歴史家であり評論家でもあるケナン」がより重要な知的遺産を残したと考えるからである。

本書はケナンの独自の見解、とくにアメリカの力に対する抑制的な評価、諸外国のナショナリズムへの確信、民主主義制度に寄せる不信と権威主義的体制への共感、宗教的信条にもとづく核廃絶論、アメリカの冷戦勝利論の一蹴、さらには北大西洋条約機構の東方拡大への反対を明らかにする。

そこには一貫して外交の軍事化への懸念、アメリカの独善性への戒め、そして何よりも人間の叡智に対する健全な懐疑心がある。

ケナンはマッカーシズムが猖獗を極めていた1953年春の講演で、「許し、思いやり、理解に対する人間の能力に訴えるのではなく、嫌悪と恐怖に対する能力にのみ訴える」勢力を批判し、「精神の寛容、善良な性質、品性、健全さ」の保持を説いた。

彼はこの後国務省からの退職を余儀なくされ、学究生活に入るが、この勇気ある異論は半世紀後、齢1OO歳になろうというケナンがブッシュ政権のイラク開戦を批判した精神にも通底する。筆者はケナンを「アメリカの良心」と敬愛するのである。

ケナンの主な著作は幸い邦訳されているが、欧米で数多く出版されている彼の伝記はいずれも未邦訳であり、本書がケナン評伝としては初の邦訳である。

筆者は若き頃ケナンに手紙を書いたことをきっかけに、やがて親しい関係を築くというユニークな経歴を有する歴史家である。ケナンは現実を常にクリティカルに見つめ、歴史的視野にたった洞察力ある見解を、2005年に死去する直前まで発信した。

本書によって、ケナンは希有な戦略家、優れた歴史家であったばかりか、同時に偉大な愛国者であり、実に孤高の知識人であったという感を改めて強くする。

「評伝 ジョージ・ケナン」対ソ「封じ込め」の提唱者 ジョン・ルカーチ〈著〉…朝日新聞9月25日12面より

2011年09月25日 23時10分39秒 | 日記
John Lukacs 24年、ハンガリー生まれ。 46年にアメリカに移住。チェスナット・ヒル・カレッジで歴史学を教えたほか、コロンビア大などで客員教授を務める。邦訳書に『ブダペストの世紀末』など。

孤立・誤解を超え示す外交の本質 〈評〉保阪 正康 ノンフィクション作家

「対ソ封じ込め」政策を主導し、東西冷戦を演出した外交官。ショージ・ケナンには、一貫してそうしたレッテルが貼られてきた。ところが1952年に刊行されたケナンの『アメリカ外交50年』を青年期に読んだときに
 「ロシアの共産主義者たち」の尊敬を獲得すべきだ、といった表現に接し、奇妙な違和感をもった記憶がある。

今回、本書を読んでその疑問があっさりと氷解した。本書は、2005年に101歳で亡くなったアメリカの外交官の評伝だが、著者は「包括的な伝記」ではなく、「彼の性格の研究書」という。

だが読者にすれば、1世紀を生きたこの外交官が20世紀の人類史にどのように向き合ったか、この世紀は何が問われたのかを教示した極めて質の高い評伝だと思う。

アメリカ中西部の中産階級の出身、ケナン家はスコットランドの名門の血をひくが、その家族環境やプリンストン大学での学生生活、そしてアメリカ国務省入省、ドイツ、エストニア、ラトビアなどを回り、やがてロシア研究に没頭、対ソ外交を担う外交官に育っていく。

著者はこのプロセスを慈しむように追いかけながら、ケナンには独自の感性や性格があったことを明かす。この部分が本書の読みどころになるのだが、要は一面的なヒューマニストや素朴な民主主義礼賛者ではないということだ。

例えば、34年のモスクワ赴任時には、スターリンの粛清を目の当たりにするが、これは共産主義のせいではなく、「異質な人間や外部世界に対する先祖伝来の猜疑心と恐怖感」というロシア的な要素と分析する。

イデオロギーより、ソ連の共産主義体制という国自体が内部分裂を始めたとの解釈を底辺に据えている。第2次大戦後の冷戦も独自の見方を示し、政治的冷戦は是認して、本質は、歴史的、領土的問題と考えていた。

外交官であると同時に、歴史家、思想家、そして作家としての素養をもっていたために、その発言がプレない。歴史を文学と重ね合わせる教養が讃えられる。

人生は二分され、初めの50年間は主に外交官、後半の50年間は主に歴史家、文筆家だった精力的な生き方は、持論を確認しようとの意思が支えになったのだろうか。

著者は本文中で執拗に二つの見方を伝える。孤立、孤独といった表現の多様さは、その先見性が受け入れられなかったことの代替語、そしてケナンは誤解されているとの表現は、外交は感情ではなく、理性や倫理の産物との忠告ととれる。

冷戦終結間際、ゴルバチョフから賛辞を送られた。しかし、ケナンの関心は冷戦より深いところにあるとの指摘に、著者の同時代を見る鋭い目がある。

「ファンタジーにできること」アーシュラ・K・ル=グウィン著…日経新聞9月25日20面より

2011年09月25日 23時09分55秒 | 日記
発明された別世界という希望 評・翻訳家 風間賢二

著者は米国のSF、ファンタジー、児童文学における大御所作家のひとりである。我が国では、アニメ映画化されたファンタジー小説〈ゲド戦記〉の作者としてご存じの方も数多いことだろう。

〈ゲド戦記〉は、戦後アメリカを代表するモダンーファンタジーの金字塔と称される名作だけあって、作者はファンタジーについて確固たる信念を抱いて今日まで創作活動を続けている。

すなわち作者によると、ファンタジーとは、既成の事象のパッチワークで作り上げられた世界を舞台にドラゴンや妖精や魔法使いの登場する冒険活劇をとおして語られる寓話や教訓や作者のメッセージではない。

想像力のみを駆使して、一貫性を持った純粋な別世界を発明することがファンタジーの命である。それは現実逃避でも退行的でもなく、現今の日常世界のほかにも他の種類の生活が営める場所があるという選択肢と希望を抱かせるものなのだ。

本書では、以上のようなファンタジー観を要諦とするエッセーや講演録が8編収録されている。すでに著者による同種の評論集は『夜の言葉』と『ファンタジーと言葉』の2冊が訳出されているが、それら本格的な論考よりも、スピーチや講演録を主として収めているので、平易で読みやすくわかりやすい。

収録作のなかでも目玉は、読みごたえたっぶりの講演録「子どもの本の動物たち」である。著者は、動物と人間との関係を断絶した二項対立としてとらえず、連続したよき隣人・仲間、「しばしば霊的な近縁関係」とみなす。

つまりは、自然との共生感覚。テクノロジーを賞賛する現代人に必要なのは、まさにこの自然との親和性である。優れた動物物語にはそのことが見事に語られており、実はファンタジーの機能と効用のひとつもそこにある。

総じて本書は、合理的・機能的思考に支配されて最新テクノロジーに依存している人々に一考をうながす、軽やかながらも深みのある優れた評論集である。

「いまファンタジーにできること」アーシュラ・K・ル=グウィン〈著〉…朝日新聞9月25日12面より

2011年09月25日 23時09分28秒 | 日記
真偽の見え方、美醜の基準示す 評・福岡 伸一 青山学院大学教授・生物学

ヒトはサルの幼形成熟として進化した。そんな魅力的な仮説がある。子供時代が延長され、子供の特徴・特性を残したままゆっくり成長する。

すると好奇心に満ち、探索し、道草を食う。攻撃よりも接近、争いよりも遊び、疑いより信じることが優先され、合理より物語に惹かれる。つまり、学び、習熟し、想像力の射程が延びる。これがヒトをヒトたらしめたのだと。

『ゲド戦記』で世界を魅了し、愉快な『空飛び猫』 (邦訳は村上春樹)を生み出したル=グウィンは実作者の立場から、ファンタジーの作用もまさにそこにあると言う。

ファンタジーとは、子供だましでも夢物語でもなく、まさに子供であるときにしか感得できない力、子供だけに見える世界を与えつづけることだと。

それは、レイチェル・カーソンが「センス・オブ・ワンダー」と名づけたもの、あるいは児童文学者の石井桃子が言った「大人になったあなたを支え続けるもの」と同じでもある。

なぜ、ファンタジーでは重力が無化され、動物たちが人と会話するのか。それはデカルト的二元論、キリスト教的排他主義、行動主義理論などがこぞって決めつけてきた大人の理屈、すなわち機械論的自然観から本来的に全く自由であるからだ。

この本を読んで、私はかつて昆虫少年だったのに、なぜファーブルではなく、まずドリトル先生の物語に惹かれたのかという疑問が解けた気がした。

ファンタジーは、善悪の違いを教えるだけでなく、むしろ真偽の見え方を教える。それ以上に美醜の基準、フェアネスのありかを示す。物語のかたちをとって。なぜ生命操作が美しくなく、どうして巨大技術が醜いのかを教えてくれるからである。

あれだけの作品群を書きつつ、こんなに緻密な評論をもものする。ル=グウィンをル=グウィンたらしめる理由がここにある。

<私>だけの神 ウルリッヒ・ベック著…日経新聞9月25日21面より

2011年09月25日 23時08分55秒 | 日記
宗教のコスモポリタン化目指す 評・東京大学教授 山内昌之

21世紀に入ってグローバル化か進むにつれて、宗教に影響された新たな世界社会が形成されている。著者は、欧米をモデルとした国民国家的な近代性が普遍性をもたない状況で、世界宗教間の摩擦をいかに「文明化」して対立を解消できるかという問いを発する。

ハンチントンのように文明をさながら領土的な単位として扱うのでなく、領土のまとまりが解体した結果としてキリスト教やイスラム教の普遍性への願望が切り崩されていく現実を直視する。

しかも、各宗教の普遍主義が自壊作用を起こすことで、社会や道徳に関わる確信が崩れていく点こそ摩擦を促進するというのだ。

著者の関心は明瞭きわまりない。「世俗的な普遍主義の終焉とともに合理性の基盤そのものが解体し、それによって世界宗教や世界社会が抱える潜在的摩擦を文明化する努力が土台を失っていく危険こそが迫っている」

こうして著者は、一神教間の世界摩擦を解決するには世界宗教の文明化か必要だと考える。ここから、宗教を個人の営みにするとともに、真理でなく平和を目標とする寛容を重視すべきだと提言するのだ。

「真理」を最高目標とする人は、そこに頭を下げない人をすべて断罪し罵ることになり、衝突と摩擦を拡大するにすぎないからだ。核戦争と「世界リスク社会」の恐怖に直面する人類は、互いを不信者や邪教者とみなすことを止め、「宗教の世界市民的コスモポリタニズム」を構築すべきだという考えは間違っていない。

「気象破局」ともいうべき悲劇の阻止は、技術的イノヴェーションでなく、排除された他者を仲間に組み込むことで可能になる。宗教の個人化によって、宗教の境界を越えて「真理絶対主義を平和裏に解体していくための訓練がなされる」という提案もまず正しい。

しかし、本書をアラビア語で読めるとすれば、著者の発想の枠組みを理解できるイスラム教徒がどれほどいるかを思って暗然たらざるをえない。著者の記述コードこそ欧米モデルそのものであり、“論述の世界市民的コスモポリタニズム”なっていないからだ。

「〈私〉だけの神」平和と暴力のはざまにある宗教 ウルリッヒ・ベック〈著〉…朝日新聞9月25日12面より

2011年09月25日 22時36分07秒 | 日記
異なる信仰いかに共存するか 評・松永 美穂 早稲田大学教授・ドイツ文学

世界を震撼させた同時多発テロから十年。世界は一向に平和になったように見えない。
つい最近も、右翼思想の青年がノルウェーでテロ事件を起こしたばかりだ。グローバル化の進む社会のなかで、価値観の異なる者同士がどのように共存していくべきかが切実な問題になっている。

「個人化」 「リスク社会」というキーワードで知られるドイツの社会学者ベックは本書において、宗教が国境を超えて平和を生み出す力を持つ一方で、信仰者と不信仰者を区別し、不和と暴力の原因を作ってしまう可能性も指摘して、さまざまな角度からの現状分析を行いながら、「個人化」する宗教の、平和創出の可能性を探っている。

ドイツでは、20世紀前半ごろまで、親の宗教を子が受け継ぐのは当たり前だった。無宗教も含め、自分の宗教を自分で選べるようになったのは比較的最近のことだ。こうした「個人化」によってヨーロッパのキリスト教会が著しく衰退したのに比べ、たとえばアフリカでは、キリスト教徒がめざましく増加している。

逆に、移民の流入により、ヨーロッパに住むイスラム教徒の数がどんどん増えているのは周知の事実だ。狭い地域に複数の宗教の信者が混住するのが普通になっている。

それぞれの宗教が唱える 「真理」が信仰の異なる者を排斥せず、他者と平和的に共存するためには、何が必要なのか? 「自由とは常に、思想の異なる者の自由」といったローザ・ルクセンブルクの言葉が思い起こされる。

ベックはユダヤ人エティ・ヒレスムが記した神との対話や、ガンジーの「方法論的改宗」、ドイツの劇作家レッシングが示す三つの指輪のたとえ(父親が全く同じに見える「家宝の指輪」を三人の息子に与える話。

「真理」と「宗教」の関係を表す)などを挙げている。スピリチュアルな共存を考える上での、たくさんのヒントがありそうだ。

天然ガス、プラント企業どう関与?  日揮社長 権益段階から参画狙う…日経新聞9月25日7面より

2011年09月25日 16時56分19秒 | 日記
日揮社長 川名 浩一氏

文中黒字化は芥川。

中東地域の石油精製プラント建設で知られる日揮が、液化天然ガス(LNG)関連の事業拡大を急いでいる。東京電力福島第1原発の事故を機に、日本でも代替エネルギーとしてのガス需要が高まる。プラント企業として天然ガスにどう取り組もうとしているのか、川名浩一社長に聞いた。

--プラントの受注残に占める天然ガス案件の比率が3割まで上昇したが。
「世界のエネルギー供給の中心は、これまで中東や北アフリカからの石油だった。近年の技術革新で、これまで採掘が難しかった頁岩(けつがん=シェール)中の天然ガス開発が北米で進み、オーストラリアなどの石炭層から採れる炭層メタンガス(CBM)と呼ばれる天然ガスも注目され始めた。

これらのいわゆる非在来型ガスは埋蔵量も多く、価格を左右する地政学リスクも少ない。供給サイドのある種の『革命』と言っていい」

「3月の大震災後、再生可能エネルギーに脚光が集まっているが、変換効率が低くすぐに主役に躍り出るとは考えにくい。二酸化炭素排出量が少ない点や、企業が競争力を保つのに必要なエネルギー量を考えると、日本では天然ガスの利用拡大が一つの道となる」 

--需要見通しは。
「10年に7千万トンだった日本のLNG輸入量は11年に8千万トンに増えるという試算もある。それは世界の資源開発にも大きなインパクトを与える数字だ」

「天然ガスは身近にあればパイプラインで運ぶが、海に囲まれた日本ではそうはいかない。そこで液化技術を持った我々が専用プラントを設計、建設することになる。1番の注目市場はオーストラリアだ。

すでに2つのLNGプラントが動いているが、建設中と計画中の案件を加えると約20になる。同国は開発意欲も潜在的な埋蔵量もあり、世界の天然ガス市場の核になると位置付けている」

--6月に米石油会社からシェールオイルを生産するテキサス州の新型油田の権益の10%を取得した。

「ガス田開発は巨大な投資を伴うため複数企業でリスクを分散する必要がある。今後、機会があれば日本の企業と一緒に権益確保に貢献したい」

「中国など新興国との資源争奪戦は避けられない。産出国に食い込むうえで資金調達や生産技術、安定購入の確約といった提案が重要になる。日揮は太陽光や熱発電、水処理などのプラントも手掛けている点が強みになる。

資源保有国が望む都市インフラの開発を一括して手がける会社が参画していれば、権益を手に入れやすくなる場合がある」
 
聞き手から一言 受注につながる 権益投資がカギ 

セ氏マイナス160度以下にまでガスを冷やすLNGプラントの建設は高度な技術や設計力が必要。

日揮と千代田化工建設、米KBR、ペクテルの4社が、世界の案件の8割を手掛けてきたとされる。

日揮の11年3月末のプラントの受注残高は過去最高の1兆1896億円。うちLNG案件の比率は約30%で、09年3月末(約6%)から急上昇。石油・ガス資源開発の52%に次ぐ。
韓国勢との競争が激しくなる中、権益取得をプラント受注につなげる戦略が重みを増しそうだ。(中西豊紀)

買収のブラジル社 キリン、完全子会社化検討 反対株主と交渉…日経新聞9月25日7面より

2011年09月25日 16時55分22秒 | 日記
キリンホールディングスはブラジルのビール大手、スキンカリオール社を完全子会社化する検討に入った。8月に同社株式の50・45%を取得したが、残る49・55%を持つ一部株主とも株式取得に向けた交渉を始める。

一部株主は8月の株式取得に反対して地元裁判所に提訴しているが、キリンは交渉を通じて事態の打開を図る。 キリンはすでに株主側と接触しているもようで、近く本格的な交渉に入る見通しだ。

キリンは8月、創業一族の最高経営責任者(CEO)らの保有株を管理する持ち株会社を買収する形で、間接的にスキンカリオールに50・45%を出資した。

これに対し、残りの株式を持つ他の親族らは「外部への売却交渉の前に優先交渉権を認めた株主協定に違反する」として、買収無効などを求めて提訴した。

CEOとキリン側は「スキンカリオール株ではなく、持ち株会社の売買であり、取り決めに違反しないと主張している。    

キリンはスキンカリオールの50・45%を実質的に取得するのに、約2000億円を投じた。完全子会社化に向けては価格交渉が焦点となるが、取得価格が1000億円を超える可能性もある。  

スマホ WIMAX対応を拡充 KDDI 通信量増加にらみ…日経新聞9月25日7面より

2011年09月25日 16時54分15秒 | 日記
KDDI(au)は高速無線「WiMAX(ワイマックス)」に対応したスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)の品ぞろえを拡充する。通信速度が現行の第3世代携帯電話の5倍以上で、動画などを快適に楽しめるのが特徴。

米アップルの「iPhone(アイフォーン)」の発売などでデータ通信量の増加が見込まれる。WiMAXの併用で通信網の逼迫対策につなげる。

WiMAX対応は現在1機種だが、今年度中に4機種以上を追加する。米モトローラ・モビリテイーや台湾HTC、富士通東芝モバイルコミュニケーションズ製の高機能端末、京セラ製の高精細液晶を搭載した薄型端末などをそろえた。いずれも米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」に対応する。

WiMAX対応機種の拡充はスマートフォンの浸透で急増する通信量対策を兼ねている。スマホの通信量は一般携帯電話の10倍以上。KDDIは年明けにもアイフォーンの発売を予定するほか、韓国サムスン電子製の「ギャラクシー」を今年度中に投人する計画。

通信網の混雑が予想されるため、スマホのデータ通信をWiMAXの通信網に逃がすことで快適な通信環境を維持する考え。WiMAXはKDDI系のUQコミュニケーションズ(東京・港)が基地局を整備し、契約者数は8月末時点で約116万件と回線利用に余裕がある

。WiMAXの人口カバー率は72%だが、圏外の場合は携帯電話回線に切り替えて利用できる。

太陽電池「日本勢、厳しいのでは」リンテック 大内社長…日経新聞9月25日7面より

2011年09月25日 16時52分00秒 | 日記
▽…「日本の太陽電池メーカーは厳しいのでは」。
太陽電池保護材のバックシートで世界2位に立つリンテックの大内昭彦社長は心配する。

太陽光などでつくった電気をすべて買い取る再生エネルギー特別措置法案が成立し、拡大が見込まれる日本市場。だが足元では「中国やドイツの太陽電池メーカーがどんどん進出している」。

▽…バックシートは買収した米国子会社が中心になって手掛けており、顧客に日本メーカーは多くないが、「日本勢へ高性能品の納入実績が少しずつ増えている」。

海外の太陽電池メーカーが価格攻勢をかける中、「製造コストの低いバックシートを開発していく」と誓っていた。

全日空・日航 新路線相次ぎ開設…日経新聞9月25日7面より

2011年09月25日 16時36分31秒 | 日記
長い航続距離 燃費2割向上

787は航空会社のビジネスモデルを変える可能性を秘めている。開発当初からボーイングに協力してきた全日本空輸は55機を発注済み。

初号機に続いて、10月中旬には2号機を受け取る。17年度までに55機すべてを受け取り、現行の「767」に代わる主力機種として国際線・国内線の両方で活用する。

これまで日本と欧米を結ぶ長距離路線は「777」など大型機でないと飛べなかった。787は航続距離が長く、大型機では採算の合わない路線でも就航が可能だ。全日空は来年1月から新たに開設する羽田-フランクフルト線に投入。

「来年度にはさらに欧米路線を1つか2つ開設したい」(伊東社長)と意気込む。また、767よりも燃費が2割向上。全日空は保有する767をすべて787に置き換えれば100億円のコスト削減につながると試算する。

ライバルの日本航空も35機を発注済みで、今年度中に5機を導入する。1機目の受け取りは10~12月の予定だ。来年4月には、成田からアジアで初の米ボストンへの直行便就航を決めている。

日航の成田発着の新路線開設は8年ぶり。最新鋭機の登場を機に国内2社が新規路線開設を競うことになりそうだ。