「金融危機当時は、まさか自分に降りかかると思ってなかった」。オバマ米大統領の地元、シカゴ市の南部。ロキシー・キングさんは自己破産の手続き中だ。医療関連の職を失ったのは2010年春。1年半を経ても定職が見つからない。
採用意欲が低下
週に数時間のアルバイトと失業保険だけが収入で「食費と光熱費を払えば何も残らない」。住宅のローン返済は滞ったが価格がピークの半値以下では売るに売れず、金融機関に差し押さえられた。
危機後に10%に達した失業率は今も9%台で高止まり。危機の震源地である住宅市場では価格の低迷が続き、ローン負担は重い。仕事と住宅をともに失ったキングさんの姿は、米家計に吹く逆風が依然強いことを示す。
高い失業率の背景にあるのが雇用の受け皿不足だ。米国のグローバル企業は過去10年間、海外への展開を加速する一方、米国内での雇用を絞ってきた。例えばアップルの社員は5万人弱だが、同社製品を製造する台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は中国中心に100万人規模の雇用を持つ。
海外流出分を住宅や金融サービス分野で補うモデルも金融危機で崩れた。足元では連邦債務上限を巡る政治の混乱や欧州債務不安も嫌気され、企業の採用意欲が低下。
8月は10ヵ月続いた雇用増が途絶え、失業率の再上昇も懸念されている。家計の債務調整も道半ば。可処分所得に対する債務比率は07年の130%から115%まで下がったとはいえ、このままだと過去の平均(75%)へ戻るのに10年かかる。
家計が失業などのショックに弱い状態が続く。
縮み志向一段と
著名投資家ウオーレン・バフェット氏が最近、日本の100円ショップに当たる1ドルショップのダラー・ジェネラルに投資していることが分かった。オバマ政権に近いバフェット氏の目にも、逆風下で縮み志向を一段と強める米消費者の姿が映っているようだ。
こうした構造問題に加え、米景気を支えてきた外需にも陰りが出ている。インフレ懸念で引き締めに動いた新興国の内需が鈍化。米国の7月の対中国輸出は前年同月比11%増と、今春までの2~4割増ペースから減速した。債務問題が欧州景気に悪影響を及ぼしかねない点も懸念材料だ。
4~6月の米実質成長率は1・O%と、1~3月に続いて米経済の巡航速度である潜在成長率(2%台後半)を大きく下回った。ハーバード大のフェルトシュタイン教授は、米景気後退の可能性が50%あるとみる。
政策にも手詰まり感が強い。連邦債務は国内総生産(GDP)と同規模に膨らみ、大胆な財政出動は難しい。
オバマ大統領は4470億ドル(約34兆円)の景気・雇用対策を発表したが、同時に富裕層向け増税なども打ち出しており、全体としての景気刺激効果は不透明。追加の量的金融緩和も物価上昇圧力を高める副作用が懸念される。
経済が過剰債務に足を取られ、政策余力が乏しくなった米国。その姿はバブル崩壊後の日本と重なり「米国は失われた10年に陥るリスクがある」(コロンビア大学のクラリダ教授)との声も上がる。
世界経済をけん引し、今なおGDPで世界の2割強を占める米国が「日本化」すれば、世界景気の長期停滞局面入りの可能性が高まりかねない。
(米州総局編集委員 藤田和明)
採用意欲が低下
週に数時間のアルバイトと失業保険だけが収入で「食費と光熱費を払えば何も残らない」。住宅のローン返済は滞ったが価格がピークの半値以下では売るに売れず、金融機関に差し押さえられた。
危機後に10%に達した失業率は今も9%台で高止まり。危機の震源地である住宅市場では価格の低迷が続き、ローン負担は重い。仕事と住宅をともに失ったキングさんの姿は、米家計に吹く逆風が依然強いことを示す。
高い失業率の背景にあるのが雇用の受け皿不足だ。米国のグローバル企業は過去10年間、海外への展開を加速する一方、米国内での雇用を絞ってきた。例えばアップルの社員は5万人弱だが、同社製品を製造する台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は中国中心に100万人規模の雇用を持つ。
海外流出分を住宅や金融サービス分野で補うモデルも金融危機で崩れた。足元では連邦債務上限を巡る政治の混乱や欧州債務不安も嫌気され、企業の採用意欲が低下。
8月は10ヵ月続いた雇用増が途絶え、失業率の再上昇も懸念されている。家計の債務調整も道半ば。可処分所得に対する債務比率は07年の130%から115%まで下がったとはいえ、このままだと過去の平均(75%)へ戻るのに10年かかる。
家計が失業などのショックに弱い状態が続く。
縮み志向一段と
著名投資家ウオーレン・バフェット氏が最近、日本の100円ショップに当たる1ドルショップのダラー・ジェネラルに投資していることが分かった。オバマ政権に近いバフェット氏の目にも、逆風下で縮み志向を一段と強める米消費者の姿が映っているようだ。
こうした構造問題に加え、米景気を支えてきた外需にも陰りが出ている。インフレ懸念で引き締めに動いた新興国の内需が鈍化。米国の7月の対中国輸出は前年同月比11%増と、今春までの2~4割増ペースから減速した。債務問題が欧州景気に悪影響を及ぼしかねない点も懸念材料だ。
4~6月の米実質成長率は1・O%と、1~3月に続いて米経済の巡航速度である潜在成長率(2%台後半)を大きく下回った。ハーバード大のフェルトシュタイン教授は、米景気後退の可能性が50%あるとみる。
政策にも手詰まり感が強い。連邦債務は国内総生産(GDP)と同規模に膨らみ、大胆な財政出動は難しい。
オバマ大統領は4470億ドル(約34兆円)の景気・雇用対策を発表したが、同時に富裕層向け増税なども打ち出しており、全体としての景気刺激効果は不透明。追加の量的金融緩和も物価上昇圧力を高める副作用が懸念される。
経済が過剰債務に足を取られ、政策余力が乏しくなった米国。その姿はバブル崩壊後の日本と重なり「米国は失われた10年に陥るリスクがある」(コロンビア大学のクラリダ教授)との声も上がる。
世界経済をけん引し、今なおGDPで世界の2割強を占める米国が「日本化」すれば、世界景気の長期停滞局面入りの可能性が高まりかねない。
(米州総局編集委員 藤田和明)