以下は4/26に発売された月刊誌Willに掲載されている門田隆将氏の連載コラム「事件の現場から」今月号は、マスコミは「歴史の検証」に耐えられるのか、である。
文中強調は私。
この異常な政権叩きは、間違いなく「歴史に残るもの」である。
田中(角栄)政権末期も、竹下(登)政権末期も相当なものだったが、これほどではなかった。
マスコミは、ほとんどすべてが“アベノセイダーズ”のメンバーと化した感がある。
マスコミにとっては、今年9月の自民党総裁選での「安倍三選阻止」は至上命題らしい。
憲法改正や電波オークションを阻止するために、テレビも新聞も雑誌も、すべてが「タッグを組んで」安倍政権打倒に走っているのである。
しかし、ここまで徹底してくれると、むしろわかりやすくていい。
ネットでは、「アべノセイダーズ」やら「アベガー」やら、なんでもかんでも、安倍首相のせいにして、政権を倒そうとしている人たちのことがそう揶揄されている。
国会を“揚げ足取り”と“つるし上げ”の場としか考えていないような、お粗末なレベルの野党議員に対しても同様だ。
安倍打倒のためなら、たとえ理屈に合わなくても、利用できるものは何でもいいのである。
その意味で歴史の検証に晒されるのは、ジャーナリズムの本来の存在意義や役割を見失い、単なる「政治運動体」と化した朝日新聞をはじめとするメディアの側だろう。
今、メディアと野党に安倍政権が退陣を迫られている案件は、主に三つある。
財務省による公文書改竄事件、自衛隊イラク派遣の日報問題、そして愛媛県職員が残していた総理秘書官による「首相案件」発言である。
いずれも、突きつめれば「これでなぜ政権トップの責任が問われるの?」という類いのものだが、印象操作の只中にある国民には、それが見えてこない。
まず財務省による公文書改竄事件で、公開された改竄前文書を見て驚いた向きは多かったのではないか。
なぜなら、報道とは逆に、森友学園の土地の8億円値下げに対する安倍夫妻の“潔白”が証明されたものだったからだ。
改竄前文書には、「本件は、平成25年8月、鴻池祥肇議員(参・自・兵庫)から近畿局への陳情案件」という但し書きがくり返し登場する。
鴻池氏以外にも、鳩山邦夫、平沼赳夫、北川イッセイという三人の政治家の名前が登場し、鳩山氏や平沼氏の秘書が近畿財務局へ働きかけを行っていたことも詳細に記述されていた。だが、安倍夫妻の関与は出てこない。
つまり、これは安倍案件でもなんでもなく「鴻池案件」だったのである。
産経新聞は、鴻池事務所の「陳情整理報告書」に、同年9月9日付で鴻池事務所が籠池氏に近財への陳情結果を詳細に伝えていたことが記載されている事実を裏付け報道している。
さらに、改竄前文書には、2016年3月に「新たなゴミが出た」と、それまでのゴミとは別のものが出たと学園側が言い出し、「開校に間に合わなかったら、損害賠償訴訟を起こす」とまで迫られていたさまも記述されている。
それでもメディアと野党は、いまだに安倍首相が「“お友達”のために8億円値下げさせた」と、言い張っているのである。
自衛隊イラク派遣部隊の日報問題は、さらに奇妙だ。
2003年から5年余にわたったイラク派遣は、小泉、第一次安倍、福田、麻生の四政権時代の話であり、第二次安倍政権とは関係ない。
ここでは、機密性が高い日報公開の必要性の議論は措くが、いずれにしても、現在の政権の責任が問われる理由は存在しない。
そして、愛媛県職員による総理秘書官「首相案件」発言報道もおかしい。
アベノミクスの成長戦略の柱の一つは、規制緩和だ。
官僚と業界が一体化して既得権益を守る岩盤規制に穴をあけることが国家戦略特区構想には含まれており、もとより「首相案件」なのである。
そもそも愛媛県と今治市が共同で国家戦略特区を使って「国際水準の大学獣医学部新設」を提案したのは、総理秘書官との面会の2ヵ月後のことであり、なぜ首相案件という言葉が「加計学園への便宜」になるのか、マスコミにはきちんと説明して欲しい。
いま日本は、新聞とテレビだけに情報を頼る“情報弱者”とインターネットも情報源としている人たちとの間に、情報と意識の大きな乖離が生じている。
つまり、野党がいくらヒステリックに安倍退陣を叫んでも、それに踊る人間は情報弱者だけなのだ。
世論調査が現実を映し出さず、選挙をやってみたら、結局、「与党の勝利」となることがそれを表している。
現実を見据えるリアリスト(現実主義者)と、観念論だけのドリーマー(夢見る者)との戦い、いわゆる「DR戦争」の傾向は、日本でますます顕著になっている。
いずれにせよ、今回の狂騒曲が終わった時、事実を報じるという基本を忘れたメディアが受けるしっぺ返しは、とてつもなく大きいだろう。
かどた りゅうしよう 1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。主な著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(PHP研究所)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第十九回山本七平賞を受賞。最新刊は、『奇跡の歌 戦争と望郷とペギー葉山』(小学館)。