山ほど根拠がある批判を「いわれなき批判」とは…
阿比留 今話題に出た杉浦さんは一面で次のように書いています。
《一部の論壇やネット上には、「慰安婦問題は朝日新聞の捏造(ねつぞう)だ」といういわれなき批判が起きています》
いわれなきどころか、根拠も理由も十分過ぎるくらいにあるわけです。にも関わらず自分達が被害者のように書いている。それから、吉田清治氏をめぐる記事は取り消すと書いていますが、それは中面に小さく書いているだけで一面には何も書いていない。見出しもありません。はじめからごまかしたい意図がありありだと読み取れます。
門田 いわれなき批判を浴びているのは、朝日ではなく日本人です。慰安婦像が世界中に建ち、非難決議があちこちの議会で取りざたされている。ここにどう朝日が回答するのか、と思ったら逆に開き直ってしまった。
櫻井 「いわれなき批判」とは、よくそこまで仰るのね、という思いです。これは正に朝日新聞が捏造した問題です。まず強制連行という点と、全く異なる挺身隊と慰安婦を結びつけた点です。挺身隊の女性を強制連行したということが世界中に衝撃を与えているわけで、朝日はその旗振り役だったわけです。
「挺身隊=慰安婦」の実態を想像してみると、これは凄まじいことです。挺身隊とは小学校卒業のだいたい十二歳ぐらいから二十四、五歳ぐらいの女性たちの勤労奉仕隊です。小学校を卒業したか、しないかぐらいの少女から二十代前半のうら若き女性たちを日本軍が強制的に連行し、「従軍慰安婦」にしたというのですから、こんなことを書けば、韓国の世論が怒り狂うのは目に見えている。それを書いたわけです。韓国人が怒らないほうがおかしいし、怒るのは当たり前です。その結果、本来ならもっと良い関係を維持できていたかもしれない日韓関係が深刻な形で傷つけられた。そういう意味でも、朝日は韓国人にも謝らなければいけないのです。
阿比留 慰安婦と挺身隊の混同を朝日は認めましたが、それは無理がなかった、当時は研究が乏しかったなどと書いています。しかし、それはおかしい。自分の父母か祖父母にでも「挺身隊って何だったの?」って聞けばすぐにわかるような話です。
門田 常識に属することですからね、女子挺身隊なんてこれはもう常識レベルですから。
阿比留 研究なんて大上段に振りかざして言うような話ではない。そのことをここで指摘しておきたいです。
「身売り」の情報を一体どう評価したのか。
櫻井 植村氏の記事について特集記事は「記事の一部に、事実関係の誤りがあったことがわかりました」「裏付け取材が不十分だった点は反省します」とあります。しかしこれは裏付け取材が不十分で済まされる次元の話ではありません。
植村氏が九一年八月十一日の紙面で報じた記事では女性の名前は伏せられていました。しかし、3日後の14日にソウルで彼女は「金学順」という実名を出して記者会見に臨んでいます。そこで彼女は「私は40円で親から売られた」「三年後の17歳の時に義父から売られた」と明かしています。彼女は日本政府を相手取った訴訟をその後起こしていますが、その訴状にも「貧しさゆえにキーセンに売られた」と明確に書いているのです。こういう記述を植村記者は見ているはずです。特集記事ではいろいろと書いているけれども、「親から売られた」とある重要な情報を彼はどう評価したのでしょう。
裁判が提訴されたあとの九一年十二月二十五日にも植村氏は金氏のインタビュー記事を大きく報じています。その記事でも「貧しさゆえに売られた」などとは植村氏は書いていないのです。前後の状況をよく見れば、植村氏が意図的に金氏が身売りされたという情報を落としたと断定しても間違いないだろうと思います。挺身隊の件もそうです。挺身隊が慰安婦と何の関係もないという重要な情報を彼は報道しなかった。そういわざるを得ないのです。
阿比留 それに関連して一言。今回の朝日の特集では、植村氏の聴いたテープには「キーセンに売られた」という話はなかった、となっています。これが仮に本当だったとしても九一年八月の植村氏の記事は「挺身隊の名で戦場に連行された」となっているのです。では植村氏はテープで「挺身隊の名で戦場に連行された」と聞いたのでしょうか。恐らくそうは聞いてないはずです。やはり創作はあったと言わざるを得ない。これが捏造でなければ何なのかと思います。朝日の特集はそこを明確にしていないのです。
朝日社説でも次々と表現が変わってきた「強制連行」
門田 特集ではもともとの情報はソウル支局長だった、とありますが、なぜわざわざ大阪社会部の植村氏が海外出張までしてソウル取材となったのか。これも疑問です。国内出張とは訳が違いますからね。義母と特別の関係がなかったという話を信じろ、というのはなかなか無理がありますね。
櫻井 それは私も疑問を感じています。特ダネですよね。記者の感覚からすれば、ソウル支局長の特ダネを他の部の記者に譲るなど、およそあり得ない話だと思うのです。植村氏について特集記事では植村氏が「義母との縁戚関係を利用して特別の情報を得たことはありませんでした」とありますが、氏の書いた記事が義母の主張に有利に作用したことは確かです。そう思えば、ではなぜ彼が「親から売られた」という情報を書かなかったのか、なぜ挺身隊と結びつけた記事を書いたのか、という疑問がさらに強く浮上します。こうした点については特集では全く説明がありません。
門田 強制連行が問題の根幹だということを朝日もわかっているのでしょう。強制連行があるのか、ないのか。ここが「性奴隷=Sex Slaves」の一番の核心です。「性奴隷」という以上、女性が嫌がっているところを無理やり連れていったり、閉じ込めたり、あるいは強姦によって、意に沿わない性交渉を強いた─といったことが不可欠なはずです。強制連行がなければとても「性奴隷」などとはいえないからです。もし、そこが崩れてしまえば今度は「では朝日新聞の今までの報道は何だったのか」となってしまう。強制連行がなかった、となると、朝日新聞は本当に吹っ飛ぶと思うのです。だから、ここを必死に守ろうとして「強制性はあった」と未だに旗を降ろしていないのだと思います。
特集記事は植村氏自身やソウル支局長の生証言が少なすぎます。しかし、逆にそうしたまとめ方からは何とか事態を収束させたい、切り抜けたいという朝日の意図がにじみ出ているように思えます。
阿比留 朝日の社説をみると、平成四年頃は強制連行を自明の前提条件として取り扱ってきました。ところがだんだん強制連行が怪しくなると「強制連行はあったのだろう」という書き方に後退した。やがて「強制連行の有無は問題ではない」と書き始め、ついには強制連行という言葉自体を最近は使わなくなりました。
櫻井 強制性となりましたね。
阿比留 これは明らかに誤魔化しです。そして朝日の読者に対する愚弄でもあると思います。本当の事を伝えようとしない。国民も大きな迷惑を被っていますが本当に不誠実な対応だと思います。