
わたしにとってボードゲームと言えば俄然『サバプロ』だ。サバっても昨今の、食材としての「鯖ブーム」は関係なし。「サバイバル・プロフェッショナル」を略した『サバプロ』、なんだそう。
バブルまっただ中


作者は、元『ビックリハウス』編集長の高橋章子女史。ボード面の作画は赤星たみこ大先生。他に、商品イメージキャラクターとして野沢直子"嬢"が何ヵ所か、挿入写真のモデルとしてご登場。…というコトはつまり本作、オール女子チームによるプロダクトなんである。
が、ならば制作サイドである彼女らと同世代の(当時の)会社OLが遊べるボードゲームなのか❔と言や、全然さにあらず。
これは、東京の企業戦士で社畜で妻の尻に敷かれる男性サラリーマン君が朝、家を出て(会社の指図=ノルマを迅速に消化しつつ)数々のデンジャラスな出来事やトラブルを無事 乗り切って、他のプレーヤーより早くスタート地点(=妻子が待つマイホーム)に戻り着くコトを競う「生き残り競争すごろく」になってる。 高級クラブのねーちゃんと不倫デートしたり、顧客のお偉いさんを接待するハメになったり、良いこと悪いこと問わず、降りかかるゲーム進行中の艱難辛苦は全部❕ オトコ社会のリーマン目線で展開してくんである。
まあバブル時代の2~30代女性社員ってば、まだまだ男女間の歴然たる待遇格差があったとは言え(今に比べりゃ)たいそうな額の給与をもらい、オトコどもの多くが(分厚い札束を)ネオン街での遊興費や高級時計、はたまた口説き目的のデート代とかに投げ捨ててしまってたよーなコトを一切せず


さて、それで当『サバプロ』の遊びかただが。
ゲームを進行させるのはサイコロの他に、『ノルマカード』と『アクシデントカード』。
ゲーム盤には東京都内の交通網が縦横に描かれているだけで、決まったゴールは各自のスタート地点。どこを目指してどっちに進め、という決まりが無い。それを指図するのが『ノルマカード』で、行き先や用事が(そのカードをめくると)書かれてある。プレーヤーは各ノルマを通り終えた時点で、他のプレーヤーにも開いて見せインチキでないことを証明し、次のノルマカードをめくる……を繰り返す。

この『ノルマカード』のなかには幾枚か『ラッキー

要は『他のやつら被曝してザマぁみろ



そりゃナンちゅー卑しい価値観だ


もう一方の『アクシデントカード』はサイコロの数だけ進んだ毎に、毎回1枚ひくカードだ。 すごろくでいう「1回休み」とか「3つ進め」的なイベント設定が書かれてあるので従う。ここでも下掲


きょうも1日(命を削って)働いて働いて、そしたら突然の地震とかで自宅に帰りつけない…とか、当『サバプロ』は22年あとに(現実の)東京を揺るがす「帰宅困難者」の決死の帰宅バトルを予見したとも言えそうなエンタメ玩具だが、一方で、やれ核攻撃だ大震災だという「危険の肌触りや恐怖の中身が空っぽ」で、事務的で、サラっと流すだけに尽きてもいる。
さすが、そこら辺は東日本大震災や北韓のミサイル実験が起きてない時代の「サラリーマンのサバイバル・デー」妄想。
もし2020年、同じような『サバプロ』がリブート企画されたら? もうさほど「核爆弾が落ちる」なんてアクシデントは乱発されないだろう。 その各コマでは「通り魔に刺され…」「痴漢と間違えられ…」「上司のパワハラで…」「会社が倒産して…」「愛人が妻に浮気をタレ込み…」「仕事の不祥事をマスコミに叩かれ…」「SNSの甘い誘いに乗り…」「隣人宅から死体が見つかり…」等々、もっと別の恐怖


最後に、余談。 このボードゲームのオマケで付いてきた

正式タイトルは見ての通り、『野沢直子の ラブリー避難ファッション・シール』。

時代かなー(遠い目)。 糸井世代つか、いわゆる『ビックリハウス』直球の感性だよね。 当時大ブレイクした「ヘタウマ調」の実写ブロマイド。
この、防空頭巾と満州引き揚げをミックスしたような恰好を「ラブリー避難ファッション」と笑い飛ばす、一種の「割り切り」❔❔ こんなのは『この世界の片隅に』に漲(みなぎ)る「元気やユーモア」に託したメッセージとは真逆の、ぶっちゃけ戦中世代への侮辱以外の何でもない

年寄りが戦争の話をするたび、「るせーなー、もう時代が変わったんだ


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