関心空域 ━━ す⊃ぽんはむの日記

元「関心空間」の日記(引っ越し後バージョン)です♪

例の「ほぼ皆既月食」ショーも観終え、小天体探査機にとって「陽光蓄電」が命綱なのを想う ── 2014年フィラエの悲劇

2021年12月04日 | 日記

先般の月食ショーは、拙者の住む愛知県でもキレイに見えた。

見えたけど、あらためて「今どき、真の感動は月食ごときで味わえるもんじゃねーな」とも痛烈に❕再認識させられた。なぜって、われわれは地動説も疑うコトなく固く信じ込んでれば、丸い地球も(自分が宇宙へ出たこともないクセに、写真や映像を介し)さんざ見せつけられてる。これが、ガガーリンが飛ぶ前の、地動説だけはかろうじて学校で習っただけの旧世代の生きてた時代なら。たとえば大正時代の夜空で観たなら、どんだけ驚天動地のオドロきだろう。

「見ろ! アレが大地の影だとよ」「縁が円く欠けてきやがら!?」「ぶったまげた。この地べたは、毬(まり)のように丸い地球なんだ!」

…てな具合。われわれがキレイな月食ショーに憶える感慨なんざ、彼らご先祖さまの1%にも及びっこない。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


それよりもだ。自分は(この満月の"日陰"ショーに)改めて「宇宙に出て陽が当たらないことの恐怖」に想いを馳せたのだ。国際宇宙ステーションはもちろん、人工衛星や無人宇宙探査機には必ず、バッテリーに充電するための太陽光(ソーラー)パネルの羽根が伸びてる。

もし、これら電池パネルで陽(ひ)を受けられなければ

終了。そのときは人工天体も宇宙船も、バッテリー切れを迎えた段階で"お陀仏"だ。実際、とんでもない「日陰スポット」に飛び込んでしまい超短命で息絶えた小天体探査機が「ごく最近」2014年に存在した。ドイツ航空宇宙センター (DLR)の開発した彗星核ランダー『フィラエである。


みなさま ご記憶だろうか。

2014年8月にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到着した、欧州esaの探査機ロゼッタ。そこから同年11月に、彗星核の地表に降ろされたのが着陸探査機『フィラエ』であった。本体の箱部分は「みかん箱2つ分」ほどもある、結構デカめのランダーだ。

その「下半身」には長い脚が3本出てて、それぞれの先端設置部には銛(もり)の射出器が装填してある。接地と同時に3方の銛で、いわばテントを張るときに打つぺグのように本体を地表に固定させる仕組みになっていた。そうやって「地面に食いついた上で」掘削ドリルで土壌を掘削し、成分分析を行う実験装置が本体に詰まっていたのだ。

彗星の核はキリもみ状態でクルクル回転してるので、陽光はランダムにあちこちから射し入っては沈み去ることの連続。なので、受光パネルは本体部分の周囲をぐるりと取り巻いて付けられている。こうしとくのが、もっとも効率よく「光を受けていられる=バッテリーを長生きさせられる構造」のハズであった……。

世界の天文ファンが見守るなか、史上初。彗星の核本体への着地はひとまず…成功したかに見えた。小躍りするesaの地上管制デスクの面々っ🎵


しか~し。

着地前後に『フィラエ』から送られてきたデータ信号の詳細を分析するうちに、次第に「どうにもマズい雲ゆき」が明らかになってく。

あとから考えれば無理もない話💧なのだが、『フィラエ』が地表に密着してへバり付くためには「彗星核の地表面に対し限りなく垂直方向から降下してくこと」が必須要件として求められた。

一方、いびつなショウガみたいな極端に凸凹(でこぼこ)の塊りが、不規則な可変軸に対しグルグル高速に回ってる天体に対して、垂直に降下することが そもそも、どれほど不可能に近い無理難題か。ドイツ航空宇宙センター (DLR)は微塵にも💧思い至ること無く『フィラエ』を設計しちまってたんである。

分析の結果は、悲惨そのもの。

地形のシビアさゆえ『フィラエ』は着陸目標面に対し垂直の「真上」から降下できずに、長い脚の1本が真っ先に地表に突き当たり大きく跳ね返った(=バウンドした)。さらに「もう1回(※のちに、主な跳躍動作は3回と訂正された)、地表で跳ねて」最終的には目標地点から約1キロも離れた場所に着地(?)したらしい、と公表されたんである💧

最初の発表では『フィラエ』は下掲画像の、赤い十字ターゲットに接地して2度大きく跳ね返り、最終的に"赤い四角"で示されたクレーターの縁(ふち)の岩陰に「引っかかった」と思われる、とされていた。


なぜなら第一に、3本ある脚の先から「固定のための銛」が1本も自動発射されていなかった。これは、どの"足の裏"のセンサーも地べたにペタッと接したことを検知しなかった💧ことを意味する。『フィラエ』はモロ斜め方向から地表に突き当たり、"つま先"部分で跳ね返ってしまったらしい。

第二に、着陸(?)後に送られてきた『フィラエ』の周囲360度の光景を撮った写真では、陽光の当たった地表が1/6ほどしかなく、あとは薄暗い地面。さらに全体の1/4ほどに至っては「全面が完全に黒く飛んでいて“何も”映ってない」画像だった。分析を発表した責任者は「これは宇宙(そら)を写したと考えられる」と語った。

何もない、真上(であるハズ)の宇宙が写る。つまり『フィラエ』は地表のどこか、くぼんだ凹みに脚を挟まれ、横倒しに「引っかかった状態で止まった」と結論せざるを得ないのだ。自重を検知できた脚は2本だけで、残りの1本は宙に浮いてることも推論を裏付けていた。これでは掘削探査など出来ようがない。各種の観測センサーも、地べた側にある装備しか使えない。要するに、これじゃ観測機の着陸ミッションとしては「限りなく失敗」なのだった。

さらに、悪いことは重なった。

彗星は12.4時間周期で自転していて、前述の陽光パネル配置により“日中の大半=7時間”は光発電できるハズだったのに、実際には1時間半しか❔❔機体に陽が射さなかった。

ありえないほど短い。フィラエ』がハマってるくぼみは、よほど奥まった深みの暗がりなのだ。失敗も失敗、もっとも飛び込んじゃイケない最悪の着地点に「火に入る夏の虫」のごとく突っ込ませてしまった。

ほどなく『フィラエ』は、予定された探査ミッションのほとんどを達成できないままバッテリー切れ。ご臨終となる。
esa

せめて「ご遺体くらい、ひと目お会いしたい」ってワケで軌道上から『ロゼッタ』による大捜索が続いた。しかし、暗がりに堕ちた機体の捜索は難航をキワめる。当然「捜査の網(あみ)」は前出の、クレーター外縁の岩陰をターゲット中心に、徹底的に細部を撮影&解析された。しかし、当初の推論に反して「その暗がり一帯」に『フィラエ』の姿は見つからない…。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ようやく、それも奇跡的に!見つかったのは、周回していた"母船"『ロゼッタ』が観測任務を完了し核に衝突させる、その最終スケジュールに移行する寸前の2016年9月だった。

発見されたのは、お風呂に浮かべる黄色いアヒルに見立てられた彗星核の、その「右のおでこ」辺りで画像の赤い四角を捉えたモノクロ精細写真。


これが、その画像。場所的には、当初着地点と推測されたクレーター外縁からも150mほど外れちまってる💧 どうりで、探しても探しても見つからなかったワケだ。

黄色のまた右下隅……黄色の枠で示した岩の暗がりに『フィラエ』が写ってた。


右に並べたのが、拙者が補正と着色をほどこしてみた想像画像。たしかに、キレイに横転して日陰に埋もれてしまった「無惨な結末」が一目瞭然。


着陸トライアル時の精細な位置画像分析と、哀れ最期の姿が発見された位置から、最終的にesaが公表した『フィラエ』の(核地上での)航跡は以下の黄色の点線。

あとから思えば、結構な勢いと低い弾道で跳ね返った「1回目のバウンド」でクレーター外縁の一部が直線状にエグり取られてた💧 これが信号上は「2回目のバウンド」として検知された可能性もあり、これで姿勢制御を失い(糸の切れたタコのように)クルクル回りながら、はるかクレーターの外に口をあけた割れ目に横っ腹から墜落。2本の脚がくぼみに挟まり、ほぼ「陽の射し入らない岩陰」で横転状態のまま身動きが取れなくなった。これが「全真相」だったのである。


…でだ。

フィラエ』を設計開発したドイツ航空宇宙センター (DLR)は、彗星着陸ミッションの大失敗から何を学んだか❔ そこが重要だ。

しかし結論から言うと、彼らは『フィラエ』の前。初代『はやぶさ』の失敗からすでに学びはじめていたのだ。宇宙開発技術の競争は熾烈化を極め、そのためにこそ日米欧(厳密には、それに英国とカナダ)の宇宙機関は協力体制を敷き、他機関ミッションの成功からも心配からも学んでいた。

フィラエ』軟着陸日は2014年11月12日。3週間後の12月3日にはJAXAが『はやぶさ2』を打ち上げている。実はDLR、すでに初代『はやぶさ』の姿勢制御失敗などをみて、自らも『フィラエ』は小天体への着陸に手こずるかもしれない、と怖れ出し「大きく思想を改めた次世代ランダー」の設計に乗り出していた。新たな探査機は「どこに、どんな格好で接地しようと、自力で小さく飛び上がって(探査や受光に適した)場所と姿勢に移れる」ことを目指した。

その実証試験機が『MASCOT』───。ご存じのかたはご存じ、『はやぶさ2』が小惑星リュウグウまで運んだミニ探査機である。日欧の協力が実り、この実証機はリュウグウの小重力のなかを"自力で"飛び跳ね、姿勢を変えつつ、持てるバッテリー寿命を最長に引き延ばすことに成功した。『はやぶさ2』本体だけでなく、『MASCOT』も『フィラエ』の屈辱を晴らすに十分な技術的成果を上げた。日本人なら、このことも「少しは誇らしく知って」おいた方がいい。

ドイツ航空宇宙センター (DLR)も、最速のタイミングで彗星ミッション「着陸探査失敗」のトラウマ化を封じることが出来て「ひと安心」。

次は太陽パネル電池をまとった本格探査機『MASCOT 2』が欧州の探査機『ヘラ』に搭載、NASAとの共同ミッションDARTの一環として、小惑星ディディムーン(※二重小惑星ディディモスを形成する小天体ペアの「小さい方=ディディモスB」の愛称)に降下すべく目下、打上げ目指して製造中である。
=了=

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