表題の通り、わが家(と、独居の借り部屋を呼ぶのもワビしいもんだが)には、小っちゃい爪切りばかり4本ある。これについて徒然に、ヒマに任せて考察をば。
誰しもニッポンの金物産業などと聞けば……関(岐阜)、鯖江(福井)。燕三条(新潟)など地方の地場産業が連想される。いずれも大坂・尾張・江戸の「工業リソースのバックアップ地区」として自然発生した「鍛冶屋の副都心」たちである。工業リソースに予備エリアを保持することは、地震や大火でしばしば都が丸ごと壊滅状態に曝されてきた日本における「国家護持」のための知恵であった。
現代でこそ、それぞれが刃物(関)、眼鏡(鯖江)、キッチンウェア(燕三条)と看板銘柄を持ってるワケだが、それじゃあ「爪切り」は❔…というと「主に、関と鯖江」というコトになる。分けても関産の爪切りは(貝印刃物=貝印株式会社が全国区に昇るのに伴い)KAIの爪切りとして70年代以降、圧倒的な国内シェアを築いてゆく。
KAIの爪切りが70年代~80年代にシェアを確立したのは、当時の流通革命の波にも乗ったからだ。一般家庭の生活道具は、それまでの商店街の金物店や田舎の万屋(よろずや)に代わって急速にスーパー&コンビニ店頭ルートで売りさばかれるようになる。
わたしは80年代、某大手企業の名古屋支社でルートセールスをしていた。若い時分でもあり身だしなみも横着で、営業車に乗ってから「あ。爪が伸びてる❕」と気づかされるコトもしばしば。そんなときに限ってカバンに常備してるハズの爪切りは、営業所のデスクの引出しに置いてきたりしてる これから接客なのに……汚い爪先が鬱陶しい
というワケで慌てて近くのコンビニに飛び込み、ミニ爪切りを"応急買い"するのだ。まだ中華製のPB商品も百均グッズも流入してない時代だから、コンビ二の日用品コーナーにも"お手ごろ価格帯"の国産品が吊るされていた。「爪切り」と来れば、まず(コンビニの系列を問わず)決まってこのKAIの爪切りだった。この1種類以外、選択肢はなかった。で、こんな「その場しのぎ」なリーマン生活を送ってるうちに、あれよあれよと同種のミニ爪切りばかりが4本に増殖しちまったんである。
画像に示したように、本体底部に刻まれたコーポレート・ロゴを見ると、おおよその製造年代が分かる。貝印刃物は現在のロゴになってからは30年以上変わってないのだが、それ以前は十数年おきに改変を繰り返していたんである。【出典→社史ウェブサイト】
ひとつ前のバージョンの「貝印」マークは、こうしてみると自分の20代にスッポリと重なる。ひとりでアパート暮らしを始めた新社会人の時期だから、どうりで手持ちの家庭用品には[kai cut]マークが幾品にも散見されるハズだ。
令和の今は、上掲のような爪切りは店頭じゃ見かけなくなった。持ち手が(尻すぼみ状でなく)幅広、角ばった形状をしてるモノが主流になっている。画像一番右のは(おそらく製造時期が)最も後年の《スタンダード爪切り S》と呼ばれる製品だが、やがては、現行販売品である《ニュースタンダード爪切り S》へと発展してゆく萌芽のモデルに当たるようだ。
同画像まんなかの2本は、上面"てこ板"背部にあしらったデザインが同じ。つまりは同一商品なんだが、新旧コーポレート・マークの時代を跨って製造され続けている。これが、全国の食品スーパーやコンビニ店頭に吊るし売りされてた期間は、少なく見積もっても10年は越えてるだろう。
結果、日本の家庭という家庭の多くに今も「Let's Play Ternnis」な爪切りが"数あまた"埋蔵されている❕❔ って話になる。日本製の爪切りは1本でも買ったが最後、まずもって壊れるコトがない。いかにもナルホドな話題である。
(もっとも……同系で他にも、Golf やSki バージョンがあるとまでは知る由も無かったがww)
=了=
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