おっちーの鉛筆カミカミ

演劇モノづくり大好きおっちーのブログです
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カイダンでカイダンを。

2006年07月21日 01時32分07秒 | 文章塾
『カイダンでカイダンを。』…この作品は、へちま亭文章塾がお休みしていた間に開かれた、「文章塾のゆりかご」というサイトに投稿したものです。

今回は投稿当時の作品にラスト以降を大幅加筆し、文章塾で皆さんからいただいたコメントを参考に再編成したものを公開します。

現在第9回へちま亭文章塾の講評期間のため、コメントを書き込む合間を縫っての作業となったため、完成度にはかなり不安がありますが、勇気を持って、発表させていただきます。

では、お題「かいだん」。2006年4月16日投稿締切り。
『カイダンでカイダンを。』です!



  『カイダンでカイダンを。』

昼休み。いつもは高校の屋上でお喋り会。議題は自分たちの恋愛について。
けど今日は雨。屋上へ上がる階段に座って、今日は会談。
「…だよねー。でもさ、今日子の意中の彼、あれどうなったのよ?」
「あれね、もうだめかもしんない」
「え~頑張んなよ。今度ついてってあげようか?」
「いいって私の事は。それより夏美はまた彼と喧嘩したんだって?」
「ぐさっ。現在進行形の話~それはリアルだから賞味期限切れてからにしてよぅ」
夏美が何気なく外の方へ目をやると、誰かが屋上を囲む柵の外側に立っていた。
「ちょっとっ!」
夏美は焦って屋上に飛び出た。降りしきる雨も気にしない。
「どうしたの?」
他の3人も夏美の後を追おうとするが、雨が降っているので扉の外には出ない。夏美を見守る。
「何してんのアナタッ!?危ないじゃない!」
どうやら男の子のようだ。何年生だろ?夏美は彼に近付く。
「まさか飛び降りる気!?止めときな!いい事ないって!」
彼から返事はない。夏美は更に近付く。
彼が突然呟いた。
「…そこまで勉強って大切かな。彼女をあきらめてまで、勉強ってしなくちゃだめ?」
夏見には雨の音でよく聞こえなかった。
「えっ?何?もう一回言って?」
「勉強と恋愛って、どっちが大事なんだよ!?」
彼が叫んだ。夏美はびっくりする。
それでも答える。
「私は恋愛の方が大事だと思う。だって今しかできない恋愛ってあるじゃない」
「…嬉しいよ。」
彼は夏美の方に右手を差し出した。夏美は彼に近付き躊躇いながらも右手を差し出し、彼に触れようとした。しかしその瞬間、彼は夏見の視界から消えた。

「何やってんのよ、夏美」
「あれ?今ここに?」
「あんた一人だったじゃない、変なの。あーびしょ濡れ。拭いてあげる」
雨はいつの間にか止んでいた。

「だからあそこにいたんだって!男の子が!」
「うーん、にわかには信じがたいわね」
「だいたいその子どこに行ったのよ」
「……分からない。消えちゃった」
「なにそれ?」
「うゎ~ん、だから私にも分からないの!」
放課後、学校に残り、3人は今度は誰もいない教室で会談。
「…それってもしかして、幽霊じゃないの?」
「やめてよ今日子!足あったって!普通の私達と同じくらいの歳の男の子!」
「でも消えちゃったんでしょ?」
「……うん、」
「やっぱり幽霊だよ…」
いつになく3人の顔が真剣になる。
「……あれじゃないの?昔のここの高校の生徒で、屋上から飛び降り自殺した男の子、とか」
少し震えたような声で、今日子が言う。
「あぁそういえば、勉強と恋愛とどっちが大事か?なんて私に聞いてたな」
「そうだよきっと、勉強と恋愛を両立できなくって悩んでた子が自殺したんだ。やっぱり夏子の見たの幽霊だよ~」
「でもそんなことくらいで自殺する、普通?」
尚美が疑問をはさむ。
「昔の人だったとしたら、今の私達より純粋だったんじゃないかな」
今日子が思ったことを述べる。
「あぁあ~~っ!こんな事私たちだけで議論しててもしょうがないよ、解決しない!」
夏子が苛立って声を上げる。
「いいじゃん、こういう事話してるとゾクゾクして楽しくない?」
今日子が意外な事を言う。あれは武者震いだったらしい。
「楽しくないっ!……そうだ!この学校に昔からいる先生いないかな!?話を聞けば何か知ってるかも!」
「そういえば教頭先生って、20年以上この学校で先生やってるって聞いたことがあるよ」
「それだ!」
夏子はピョコンと立ち上がり、
「行ってみよう、職員室!で、話を聞いてみよう!」
「え~~職員室苦手~~」
「私だってそうだよ。でも私教頭先生好きだよ。今度もきっと私たちの話に答えてくれる!」

   * * *

「あれは今から10年前のことだったかな。彼はとても頭の良い生徒だった」
教頭は3人を前に学校の応接室、というか職員室の中にある「応接コーナー」で話をしている。
「じゃあやっぱり自殺したんですか」
今日子がフライング発言。
「まあ待ちなさい、まだ話の途中…さて、どこまで話したかな…あぁ、彼は入学してから2年間、ずっと途切れることなく学年トップの成績を収めた」
「すごい」
尚美が思わず声を上げる。
「しかし彼が3年生になる直前、季節も春になろうとしていた頃、彼に恋人ができたんだ」
3人は真剣に教頭先生の話を聞いている。
「すると、彼は3年生の最初の中間テストで初めてトップの座を逃した」
「恋人ができたことが原因だったんですか?」
夏美が尋ねる。
「私たち教員や彼の親はまずそう思った。だから彼らに別れるように勧めたんだ。大学入試も1年後に控えている2人だ。恋愛なんぞにかまけている場合ではないと」
(それは違うな)
夏美は思ったが、口には出さずにいた。
「今とは時代がまた違ったからね。彼は順調にいけば東大合格も間違いないと私たちは踏んでいた。そんな思惑もあり、また、彼のご両親も教育熱心だったこともあって、私たちいわゆる大人側は、彼らを監視し、強引に会わせないようにした。彼らの仲を引き剥がしたんだね」
「ひどい!」
夏美が思わず叫んだ。
「そうだね、今では私もそう思うよ。あんなことになって、2度とこんな悲劇が起こらないように私たちは猛烈に反省した。もう少し生徒の気持ちを考えるべきだったと。あれから私は生徒とのコミュニケーションをとるときの心構えが全く変わったし、他の先生方も同様だったと思う」
「そうだったんですか……」
尚子が息を吐く。
「やっぱり幽霊だったんだよ、夏美、」
と今日子。
「うん、」
「じゃあ君達は屋上で彼の幽霊を見たというのかい?」
「いえ、見たのは私だけです」
「そうか、どんな様子だった?」
「ええと……」
夏美は屋上で見た「彼」の様子を教頭に伝えた。
「特徴はそっくりだな。……その話、本当なんだね?」
「はい!私教頭先生に嘘なんかつきません!」
「分かった…信じよう。彼は屋上にいたんだな。…そういえば」
教頭は席を立つ。
同じ部屋の棚を探り、本を一冊もってきた。
「修学旅行の写真だ。彼の顔が写っている」
3人はゴクリとつばを飲んだ。
教頭が彼の顔が写っている頁を探し、アルバムをめくる。
「彼だ」
3人は教頭の指差す先を覗き込む。
……
「そうです。この人と会いました」
夏子が言い切る。
「そうか」
教頭は溜め息をついた。
「彼はまだ成仏していないんだな」
3人は無言でその写真を見詰めていた。
「よし、後のことは私が対処する。もう遅い、君達は家に帰りなさい」
「はい」
3人は素直に家路についた。

その晩、夏子はベッドの中で、頭に浮かんでくる彼の顔と、聞こえてくる
「勉強と恋愛って、どっちが大事なんだよ!?」
の言葉に悩まされていた。
「もう眠れないよ!」
夏子は起き上がった。部屋は真っ暗である。
(そりゃ勉強も大事だけどさ…)
今しかできない恋もある。と夏子は思う。
(一期一会って言うじゃない)
しかし、親や先生達は、勉強は今しかできないといつも言う。
(それはそうなんだけどぉっ!)
夏子は頭を枕に討ちつけるように再び横になった。
(あぁ、わかんない!)
夏子は悩み、そのうちにその晩は寝てしまった。

次の日、教頭が呼んだ近くの寺の僧侶達が彼の魂を慰めにやって来た。
夏子たち3人もその場に呼ばれた。
3人は目を瞑り、彼の霊の成仏を祈った。
教頭を始め、各先生たちも手を合わせていた。中には念仏を唱える先生もいた。
(でも死んじゃ駄目だよ…)
夏子は思い、そのあと、
(あたりまえじゃん)
と付け加えた。
(早く成仏して、生まれ変わったら……会って、もっと話がしてみたい)
そう夏子は心の底から思うのだった。