おっちーの鉛筆カミカミ

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走れよ太郎

2014年03月02日 11時48分29秒 | 小説・短編つれづれ
 慌てて、走っていた。
「遅れる。遅れる」
 守るべき時間は、とっくに過ぎていた。太郎は、とても焦っていた。
「このまま到着したら、待ちくたびれた次郎が怒って、私を張り倒すかも知れない!!」
 太郎の体に戦慄が走った。そこで太郎は気が付いた。遅れた理由を、考えなければならない。
 そうだ……何か乗り越えなければならない、ミッションをこなしていたことにしよう!! 次郎の想像を超えた、限りなく困難な課題を克服したならば、次郎は許してくれるに違いない。
 そこで太郎は、その場所からでんぐり返しを始めた。このままでんぐり続けて次郎の元まで辿り着けば、次郎は驚いて私を張り倒すことも忘れてしまうだろう。
「がんばるんば!!」
 太郎は気合を入れて、自分に与えられたミッションの遂行を開始した。
 そして相当な時間が経ち、太郎は次郎の前に、文字通り転がり込んだ。
「お兄さん……」
 弟は、兄の身を案じていた。次郎は、少しも怒っていなかった。
 達成感で一杯の表情の太郎は、笑いながら言った。
「凄いだろ。兄さんは、ずっと転がりながらここまで来たんだぞ。少しも歩かなかったぞ」
「そうか。凄いね」
 そう言う次郎の表情に、少しの憂いが浮かんでいたのを、兄は見過ごした。


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