俺は雨降る中、傘をさして町の掲示板を眺めていた。
そこには「絵画コンクール」のポスターが貼ってある。
俺はそれに興味を惹かれていた。
「絵を自分で描いてみたい」 他人の描いた絵を見続けるうちに、その欲望は自分の中でどんどん大きくなってきていた。
慎平「コンクールかあ…」
もし自分がこのコンクールに絵を描いて出したとしても、結果は箸にも棒にもかからないことになるだろう。それはわかりきったことだ。
しかしこれはいいきっかけなのかも知れない。この掲示板でこのポスターを俺が見つけたこと自体、運命―何か大きな力―に導かれたことなのだよ。…それは大袈裟かな。でもこんな雨の中、普段なら目に留めることもない掲示板に惹き付けられた…これは偶然だろうか?
コンクールのポスターの隣には、「絵画教室」の宣伝が貼ってある。ここに入って絵を勉強して、コンクールに出せってことかあ? なんか意図が見え見えで、ここに入る気にはならない。
慎平「自力で描くか…」
その時、背後に人間の気配を感じた。
俺は振り向く。そこにはニヤニヤ笑う男が立っていた。傘はささずに、レインコートを着ている。顔はよく見えないが、歳の頃は俺とさほど変わらないように見える。
不自然な笑顔、その口元に、虫唾が走る。
俺は無視してその場を去ろうとする。
男「ちょっと待って」
慎平「…なんか用?」
男「キミ、絵を描くの?」
慎平「なんで?」
男「このポスターを熱心に見てたから」
慎平「…。まあ…な、これから描こうとしてるとこ」
なんで俺はこんな男に自分の話をしているのだろう。とっととここから消え去りたい衝動に駆られる。
男「この絵画教室に入らない?」
慎平「はぁ?」
男「絵、好きなんでしょ? ならちゃんと習ったほうがいいよ」
慎平「余計なお世話です。俺用があるから」
嘘をついた。本当は暇を持て余している。でも嘘なんかついて当然だ。
男「どうせ暇なんでしょ。教室って目の前だからさ。寄ってみるだけでも」
そのとき、気が付いたことがあった。この声、チラッと見えた顔、風貌…この男は、この間美術館で絵に落書きして捕まった奴だ!! こんな所で遭うとは…
男はまだ薄笑いを絶やさずに俺の方を見ている。
こんな奴に時間を割くほど俺は暇ではない。雨も降っている。早く屋根のあるところに行こう。
慎平「俺忙しいんだ。じゃ」
女の声「将、さんっ!」
突然声がしたので俺はそちらの方に顔を向けた。
男「あ? みどりか。傘もささないでなにやってるんだよ」
みどりと呼ばれた女「もう先生始めてるよ。早く中に入ろう」
将と呼ばれた男「ちょっと待ってよ。この人と話があるんだ」
みどり「?…お友達?」
将「そんなもんだ」
あ!? なに言ってやがんだこいつ。俺とお前がいつ友達になったんだ。
俺は、この男の人を無視した勝手な言動に腹が立ってきた。もう今立ち去ろう。俺は黙って歩き出した。
みどり「ちょっと待ってよ。将さんのお友達でしょう? 気を使わないで。…いいわ。あなたも教室に入って」
俺は思わずみどりとかいう女の顔を見た。
丸っこい顔立ち…人なつっこい唇…少し濡れたショートボブの髪…
意外と可愛い娘だな。ちょっとお友達になってみようか。
将「この人は教室に入学するんだ」
みどり「そうなんだ!? じゃあなおさら。どうぞこちらへ」
慎平「あ、ええ…」
俺はそのみどりという女目当てに、その絵画教室に行くことになった。
まあいっか。どうせ暇なんだし。この将って男はムカつくが、無視しときゃいいだろ。
でも俺は、ここに入学するつもりはない。それだけははっきりしておく。この将って男が勝手に言ってるだけだ。
みどり「お名前なんていうんですか?」
慎平「慎平。」
みどり「あら、名字は?」
慎平「無い。いいから行くんならその教室に早く行こう。みどりちゃん風邪ひくよ」
みどりはくすくす笑った。やっぱかわいいかも。
みどり「ご心配ありがとうございます。でも冗談ばっかり。いいですよー、教えたくないんなら。こっちからも訊きませんから」
将「みどり、慎平くんは僕の客だぞ」
「慎平くん」!? 馴れ馴れしい。そして気持ち悪い。みどりちゃんがいなかったらぶん殴ってるところだ。
慎平「で、教室って何処にあるの、みどりちゃん?」
みどり「えっ? ここがそうですけど…」
絵画教室は本当に掲示板の目の前にあった。正確に言うと、絵画教室のある建物の前に掲示板が立っているのだ。
傘をたたんで、屋根のある建物の敷地内に入る。雨は止む素振りも見せていない。
その建物はアパートのようだった。この中の一室を使って開いているらしい。
建物は結構古い。
慎平「ボロい建物だねー」
みどり「そうなの。もうドアとか建て付け悪くなっちゃって。私力ないから時々開けるの大変なことがあるの」
慎平「ふうん」
将「…みどり、ほら」
将はみどりにタオルをナップサックから出して渡した。
みどり「ありがとう…」
みどりは渡されたタオルで、濡れた頭と顔を拭き始めた。
慎平「アンタ、用意いいな」
将は不気味に(俺にはそう見えた)微笑んだ。
そして、俺とみどりちゃん、それからどーでもいい将って奴の三人は、絵画教室の古いドアを開け、中へと入った。
そこには「絵画コンクール」のポスターが貼ってある。
俺はそれに興味を惹かれていた。
「絵を自分で描いてみたい」 他人の描いた絵を見続けるうちに、その欲望は自分の中でどんどん大きくなってきていた。
慎平「コンクールかあ…」
もし自分がこのコンクールに絵を描いて出したとしても、結果は箸にも棒にもかからないことになるだろう。それはわかりきったことだ。
しかしこれはいいきっかけなのかも知れない。この掲示板でこのポスターを俺が見つけたこと自体、運命―何か大きな力―に導かれたことなのだよ。…それは大袈裟かな。でもこんな雨の中、普段なら目に留めることもない掲示板に惹き付けられた…これは偶然だろうか?
コンクールのポスターの隣には、「絵画教室」の宣伝が貼ってある。ここに入って絵を勉強して、コンクールに出せってことかあ? なんか意図が見え見えで、ここに入る気にはならない。
慎平「自力で描くか…」
その時、背後に人間の気配を感じた。
俺は振り向く。そこにはニヤニヤ笑う男が立っていた。傘はささずに、レインコートを着ている。顔はよく見えないが、歳の頃は俺とさほど変わらないように見える。
不自然な笑顔、その口元に、虫唾が走る。
俺は無視してその場を去ろうとする。
男「ちょっと待って」
慎平「…なんか用?」
男「キミ、絵を描くの?」
慎平「なんで?」
男「このポスターを熱心に見てたから」
慎平「…。まあ…な、これから描こうとしてるとこ」
なんで俺はこんな男に自分の話をしているのだろう。とっととここから消え去りたい衝動に駆られる。
男「この絵画教室に入らない?」
慎平「はぁ?」
男「絵、好きなんでしょ? ならちゃんと習ったほうがいいよ」
慎平「余計なお世話です。俺用があるから」
嘘をついた。本当は暇を持て余している。でも嘘なんかついて当然だ。
男「どうせ暇なんでしょ。教室って目の前だからさ。寄ってみるだけでも」
そのとき、気が付いたことがあった。この声、チラッと見えた顔、風貌…この男は、この間美術館で絵に落書きして捕まった奴だ!! こんな所で遭うとは…
男はまだ薄笑いを絶やさずに俺の方を見ている。
こんな奴に時間を割くほど俺は暇ではない。雨も降っている。早く屋根のあるところに行こう。
慎平「俺忙しいんだ。じゃ」
女の声「将、さんっ!」
突然声がしたので俺はそちらの方に顔を向けた。
男「あ? みどりか。傘もささないでなにやってるんだよ」
みどりと呼ばれた女「もう先生始めてるよ。早く中に入ろう」
将と呼ばれた男「ちょっと待ってよ。この人と話があるんだ」
みどり「?…お友達?」
将「そんなもんだ」
あ!? なに言ってやがんだこいつ。俺とお前がいつ友達になったんだ。
俺は、この男の人を無視した勝手な言動に腹が立ってきた。もう今立ち去ろう。俺は黙って歩き出した。
みどり「ちょっと待ってよ。将さんのお友達でしょう? 気を使わないで。…いいわ。あなたも教室に入って」
俺は思わずみどりとかいう女の顔を見た。
丸っこい顔立ち…人なつっこい唇…少し濡れたショートボブの髪…
意外と可愛い娘だな。ちょっとお友達になってみようか。
将「この人は教室に入学するんだ」
みどり「そうなんだ!? じゃあなおさら。どうぞこちらへ」
慎平「あ、ええ…」
俺はそのみどりという女目当てに、その絵画教室に行くことになった。
まあいっか。どうせ暇なんだし。この将って男はムカつくが、無視しときゃいいだろ。
でも俺は、ここに入学するつもりはない。それだけははっきりしておく。この将って男が勝手に言ってるだけだ。
みどり「お名前なんていうんですか?」
慎平「慎平。」
みどり「あら、名字は?」
慎平「無い。いいから行くんならその教室に早く行こう。みどりちゃん風邪ひくよ」
みどりはくすくす笑った。やっぱかわいいかも。
みどり「ご心配ありがとうございます。でも冗談ばっかり。いいですよー、教えたくないんなら。こっちからも訊きませんから」
将「みどり、慎平くんは僕の客だぞ」
「慎平くん」!? 馴れ馴れしい。そして気持ち悪い。みどりちゃんがいなかったらぶん殴ってるところだ。
慎平「で、教室って何処にあるの、みどりちゃん?」
みどり「えっ? ここがそうですけど…」
絵画教室は本当に掲示板の目の前にあった。正確に言うと、絵画教室のある建物の前に掲示板が立っているのだ。
傘をたたんで、屋根のある建物の敷地内に入る。雨は止む素振りも見せていない。
その建物はアパートのようだった。この中の一室を使って開いているらしい。
建物は結構古い。
慎平「ボロい建物だねー」
みどり「そうなの。もうドアとか建て付け悪くなっちゃって。私力ないから時々開けるの大変なことがあるの」
慎平「ふうん」
将「…みどり、ほら」
将はみどりにタオルをナップサックから出して渡した。
みどり「ありがとう…」
みどりは渡されたタオルで、濡れた頭と顔を拭き始めた。
慎平「アンタ、用意いいな」
将は不気味に(俺にはそう見えた)微笑んだ。
そして、俺とみどりちゃん、それからどーでもいい将って奴の三人は、絵画教室の古いドアを開け、中へと入った。
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