[大弦小弦]沖縄を見下す視線と差別を助長
これほど書き込みをしながら読んだ本はない。「矛盾」「立証がない」。ページの余白が文字で埋まった。ベストセラー「沖縄から貧困がなくならない本当の理由」(樋口耕太郎著)
▼2年近く前の本を遅まきながら読んだのは、今も売れ続けているから。本書が説くような自己責任論を、政府も沖縄振興で打ち出すようになった
▼本書は畳みかけるように沖縄の問題点を示すデータを列挙する。一つ一つファクトチェックしてみると、多数の誤りが紛れていた。後は著者の体験談や雑感が並ぶ
▼それらを根拠に沖縄の特殊性が強調され、貧困は人々の「自尊心の低さ」が原因だということになる。そうかと思うと、唐突に「これは日本の問題でもある」と議論が拡散し、自己啓発本のような内容で終わる
▼世界、日本、沖縄という序列が描かれる。沖縄は、日本が世界に恥じないように振る舞うための研究材料として利用される。そこには確かに、沖縄を見下す視線と差別を助長する効果がある。そんな本が、沖縄で売れている。なぜなのか、いろいろな人に聞いてみたが、よく分からない
▼これだけは言えそうだ。沖縄の貧困は基地集中をはじめ、日本による歴史的な差別に端を発する。構造ではなく沖縄側の心の問題に原因を求める本書を読んで、貧困が解消することは、まずない。(阿部岳)
普天間飛行場、民間地なら経済効果7倍
宮田裕研究員試算 「基地は振興阻害要因」
宮田裕氏
琉球新報 2021/08/29
宮田氏の試算は、2019年度の宜野湾市の基地関連歳入額44億2601万円、地主に支払われた軍用地料76億3千万円を合わせた普天間飛行場の「基地関連収入」を120億5601万円と分析。この基地関連収入を同飛行場の面積(582・2ヘクタール)で割って、1ヘクタール当たりの基地収入を2071万円と試算している。
一方、宜野湾市の民間地1397・8ヘクタールを17年度の市内純総生産額2037億8500万円で割ると、民間地の1ヘクタール当たりの総生産額は1億4579万円と試算した。1ヘクタール当たりの基地収入と総生産額を比較すると、経済効果に7倍の差があった。キャンプ・キンザーは1ヘクタール当たりの基地収入が2453万円、民間地の1ヘクタール当たりの純総生産額は2億6786万円となり、経済効果の差は10・9倍となる。
宮田氏は「基地関連収入は税金投入であり、経済活動によって生み出された『価値』ではないので生産誘発や雇用誘発、付加価値誘発の産業連関効果はもたらさない。乗数効果のある経済、貧困のない沖縄をつくらなければならない」と指摘した。
米軍基地の経済波及効果は県も異なる手法で試算している。普天間返還後すぐに生じる整備による経済効果は5027億円、返還から一定期間後に生じる経済効果は、返還前の32倍の3866億円と試算した。キンザーの場合は直後の整備による経済効果は3143億円、一定期間後には返還前の13倍となる2564億円と試算している。
沖縄県は、翁長前知事の後継者である玉城デニー知事が記者会見で、観光収入を引用して経済の基地依存の低下を強調し、「沖縄経済の最大の阻害要因は米軍基地」との翁長前知事の遺言を主張して、地元2紙や反基地活動家よる「沖縄経済が基地に依存しているというのは誤り」とするキャンペーンや、運動の材料に利用している。
沖縄県は平成26年度県民経済計算の参考資料で、同統計には表れない「観光収入」(5341億7200万円)を公表している。
その一方で基地収入(1519億8300万円・米軍基地からの要素所得=県民所得)を並列してあたかも同じ算定基準の数値であるかのようにを公表して県民を誤誘導している。
沖縄振興に関わる政府関係者は「基準の異なる数字を比較材料として使うのは、統計上重大な欠陥」と指摘し、政府の沖縄振興策の適切な執行のためにも、早急な改善を求めている。
沖縄が基地収入と比較している観光収入について、他県はどのように計上しているか。
他県では、観光客が県内で落としたお金=「観光消費額」として単独で公表している。統計の弱点を利用して、自らが志向する反基地政策の補強のために都合良く使っていいはずがない。
政府の経済財政諮問会議でも「統計の改善」が問題提起され、各省庁で作業が進んでいる。
沖縄県も、観光立県という政策の実現に向け、正確な統計づくりを目指す必要がある。
当然、イデオロギー化したデニー県政からの脱却が不可欠である。
【おまけ】
翁長前知事は「あらゆる手段で辺野古阻止」を公約に掲げ、これと連動するように「沖縄経済の阻害要因は米軍基地」と喧伝するようになった。
米軍跡地に造成した那覇新都心の場合、返還前と比べて直接経済効果が32倍、雇用者数は93倍に増えた。基地がない方が発展するという実例、と主張する。
■異なる指標の比較⇒基地を過小評価
沖縄県は、翁長前知事から玉城デニー知事に受け継がれた「米軍基地撤去」のイデオロギーを支えるため、基地経済の沖縄経済への貢献度を殊更に過小評価している。
たとえば、このように。
「基地経済への依存度は、昭和47年の復帰直後の15.5%から平成28年度には5.3%と大幅に低下しています。米軍基地の返還が進展すれば、効果的な跡地利用による経済発展により、基地経済への依存度はさらに低下するものと考えています」(県ホームページ)
朝日新聞も負けじと、観光産業を過大評価して県知事を援護射撃。
「代わって成長してきたのが観光産業だ。県民総所得に占める観光収入の割合は復帰時の6・5%から14・9%(17年度)に。入域観光客数は18年度に1千万人を達成した。」(2021年5月15日付朝日新聞「基地経済からの脱却」)
これらは経済データとしては間違いである。
沖縄県が観光収入を誇大に発表し、基地経済の恩恵を少なく見せて「反米⇒基地撤去」のイデオロギーに利用しているのは明らかである。
沖縄の観光収入6年連続で過去最高、7334億円 1人当たりの県内消費額は500円増 2018年度
玉城デニー知事は19日、2018年度の観光収入が前年度比5・1%(355億5200万円)増の7334億7700万円だったと発表した。入域観光客数の増加や国内客1人当たりの消費額が増加したことにより、6年連続で過去最高を更新した。7千億円台は初。
観光客1人当たりの県内消費額は0・7%(502円)増の7万3355円となった。一方、平均滞在日数は3・59日で前年度の3・68日から0・09ポイント減った。
19年度の観光収入の目標は、18年度実績比9・1%増の8千億円と設定した。一方、県は観光振興基本計画で21年度までに1・1兆円とする目標も掲げている。
玉城知事は「目標達成に向け、引き続きアジアのダイナミズムを取り込み、官民一体となった効果的なプロモーションを展開する。人材の育成や消費環境の整備など受け入れ態勢の強化に向け、関係機関と連携しながら全力で取り組む」とコメントした。
★
少し古い記事だが2011年5月4日付琉球新報もこのようなデタラメな記事で翁長・デニー路線の沖縄県を応援している。
基地ある恩恵受けず
■基地収入5%
米軍から返還された土地も確実に経済成長に結びついている。
那覇市北部にあった「米軍牧港住宅地区」は87年に返還され、「那覇市新都心地区」に生まれ変わった。
大型ショッピングセンターなどが進出、経済波及効果を表す生産誘発額は874億2千万円に上る。米軍普天間飛行場(宜野湾市)などの返還予定地でも、合計1兆7千億の生産誘発額が見込まれている。
「基地がないと沖縄は食べていけない」。本土では、半ば常識のように語られる見方が、沖縄県職員として振興計画の策定に深く川割ってきた副知事の上原良幸は「まったく逆、基地がある恩恵は受けていない」と反論する。
08年度の軍用地料、基地従業員給与などの基地関連収入は2084億円で県民所得に占める割合は5・3%。 本土復帰時の72年の15・5%から3分の1に減った。
米軍基地に土地を貸している全地主約4万人のうち、53・8%は年間年間500万円未満。年間500万円以上を得る地主は全体の8%にすぎない。基地従業員9014人は県内就業者約60万2千人の1・5%にとどまる。「軍用地主や基地従業員の問題はあるが、声の大きな少数派にすぎない。トータルでは基地が無い方が間違いなくいい」。上原は基地と振興費のリンクはなりたたないと主張する。
突っ込みどころ満載だが、上原副知事の言いたいことはこういうことだ。
「基地がないと沖縄は食べていけない」というが「まったく逆、基地がある恩恵は受けていない」、「トータルでは基地が無い方が間違いなくいい」・・・などとイデオロギーによる「基地撤去」を露骨に示している。
具体的に言うと、記事は基地収入の県民総所得に占める割合は5・3%であり、県経済に大きな影響はない、というような印象を与えている。
そしてまず気になるのは、「経済効果」という数値で測れない期待値を「生産誘発額」と同じ意味で書いている点だ。
だが、生産誘発額は数値で測れる県内総生産とはまったく別の概念だ。
読者が「生産誘発額」と「県内総生産」を混同するような印象操作をしているが、これこそ記事の思う壺である。
上原副知事は「軍用地や基地従業員の問題はあるが、声の大きな少数派にすぎない。トータルでは基地がないほうがいい」と主張する。
上原副知事が主張するする根拠が「那覇新都心」の生産誘発額(≠県内総生産)が874億2000という目くらましの数字だ。
この数字は計測可能な県内総生産ではなく、単なる期待値にすぎない。
いや、ピザパイ分割の理論で言えば幻想だ。
記事によると「那覇新都心」を参考に米軍普天間飛行場が返還されたら1兆7000億円の生産誘発額が見込まれるという。
もし県の主張するように基地返還が県全体の経済発展に繋がれば素晴らしいことだが、現実はそんなに甘くはない。
県経済というピザは、根拠なく自動的に大きくなるものではない。
ピザパイ分割の理論で言えば「那覇新都心」に大型ショッピングセンターなどが進出して売り上げを伸ばしたら、その分だけ那覇市内の別の地域や浦添市の売り上げが落ちているは目に見えている。
■普天間基地返還は那覇新都心と同じ経済効果?
県は普天間飛行場が返還されたら合計1兆7000億円の生産誘発額が見込んでいるというが、米普天間飛行場跡に那覇新都心のよう街ができても宜野湾市は那覇ほどの経済力もなければ人口も少ない。
しかも交通も那覇新都心ほど便利ではない。
加えてピザ分割の理論で言えば、普天間飛行場跡の新都心の売り上げが伸びた分だけ、隣接する北谷町、浦添市、中城村、西原町などの売り上げが落ちる。
結局、普天間飛行場を返還しても那覇新都心ほどの経済成長は期待できない
基地返還による「生産誘発額」について最悪のケースを紹介しよう。
「読谷飛行場」は2006(平成14)年に完全返還されたが、読谷飛行場跡地は畑と雑草が生い茂る荒地、他に読谷村役所があるだけである。
やはり生産誘発額は幻想だった。
読谷飛行場跡
■「一坪反戦地主」による基地細分化
>米軍基地に土地を貸している全地主約4万人のうち、53・8%は年間年間500万円未満。年間500万円以上を得る地主は全体の8%にすぎない。
大部分の軍用地主は年間500万円以下で、大した経済効果はないと言いたいのだろう。
記事は敢えて触れていないが「一坪反戦地主」の存在を考慮すると、軍用地主の実態は大きく違ってくる。
軍用地主のなかには、いわゆる「一坪反戦地主」と呼ばれる反基地活動家が多く含まれ、琉球新報、沖縄タイムスら地元紙の編集長などの関係者が「一坪反戦地主」に加わっているのをよく知られた事実である。
「反戦地主」は数が多い方が良い。
ノイジィ・マイノリティになれるから。
「一坪反戦地主」は「一坪」から更に細分化し、「絵葉書反戦地主」やテレカの時代には「テレカ反戦地主」まで微細化する有様だった。
「一坪反戦地主」なかには、本土の左翼学者やメディア関係者もいると言われている。
こうなると、軍用地主の細分化は加速され、「年間500万円以上を得る地主は全体の8%」がもっともらしく聞こえる。
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