凌霄花手錠のにぎりこぶしかな 横山香代子
目にも鮮やかなオレンジ色の凌霄(のうぜん)の花。日本には豊臣秀吉が朝鮮半島から持ち帰ったといわれている中国原産の蔓性の植物である。「霄」という字は空を意味し、空を凌(しの)ぐほど伸びるという途方もない名を持っている。掲句は色鮮やかな花と、罪人の手元という異色の取り合わせである。なにより、人は手錠を掛けられたとき、誰もがグーの形に手を揃えるのだという事実が作者のもっとも大きな発見であろう。さまざまな後悔や無念が握りしめられたこぶしに象徴され、天を目指す鮮やかな花の取合わせがこのうえなく切なく、読む者をはっとさせる。また凌霄花は、夏空に溢れる健やかさのほかに、貝原益軒の『花譜』では「花を鼻にあてゝかぐべからず。脳をやぶる。花上の露目に入れば、目くらくなる」と恐ろし気な記述が続き、また英名Campsis(カンプシス)は、ギリシャ語の「Kampsis(屈折)」が語源だという、単に美しいだけではない一面を持つ。もちろん掲句にそのような深読みは不要だろう。しかし思わずその名の底に、善のなかの悪や、悪のなかの善などが複雑に入り交じる人間というものを垣間見た思いがするのだった。『人』(2007)所収。(土肥あき子)
凌霄の花(のうぜんのはな) 晩夏
子季語 凌霄、凌霄葛、のうぜんかづら
例句 作者
あしたより天の灼けつゝ凌霄花 百合山羽公 春園
おんばしら見むと凌霄咲き昇る 林翔
くろぐろと夜空なだるる凌霄花 岡本眸
この庵の尼の住まへる凌霄花 森澄雄
その子ずけずけ亡父を語るのうぜんかずら 金子兜太
ながあめの切れ目に鬱と凌霄花 佐藤鬼房
のうぜんかづら垣越えて旭の早し 大野林火 冬青集 雨夜抄
のうぜんのかさりかさりと風の月 下村槐太 天涯
のうぜんのもと踊り子の待ち合はす 大野林火 潺潺集 昭和四十年
のうぜんの吹かれて花をおとしけり 百合山羽公 春園
のうぜんの散る日の山の平かな 星野麥丘人
のうぜんの花の蔓より蟻のみち 百合山羽公 春園
のうぜんや真白き函の地震計 日野草城
わが馬にしばしの陽射しのうぜんかずら 金子兜太
凌霄に井戸替すみし夕日影 西島麦南 人音
凌霄のかづらをかむり咲きにけり 後藤夜半 翠黛
凌霄の光に堪へぬ眼を洗ふ 橋閒石 雪
凌霄の花と羽抜けし鵜の貌と 百合山羽公 春園
あしたより天の灼けつゝ凌霄花 百合山羽公 春園
おんばしら見むと凌霄咲き昇る 林翔
くろぐろと夜空なだるる凌霄花 岡本眸
この庵の尼の住まへる凌霄花 森澄雄
その子ずけずけ亡父を語るのうぜんかずら 金子兜太
ながあめの切れ目に鬱と凌霄花 佐藤鬼房
のうぜんかづら垣越えて旭の早し 大野林火 冬青集 雨夜抄
のうぜんのかさりかさりと風の月 下村槐太 天涯
のうぜんのもと踊り子の待ち合はす 大野林火 潺潺集 昭和四十年
のうぜんの吹かれて花をおとしけり 百合山羽公 春園
のうぜんの散る日の山の平かな 星野麥丘人
のうぜんの花の蔓より蟻のみち 百合山羽公 春園
のうぜんや真白き函の地震計 日野草城
わが馬にしばしの陽射しのうぜんかずら 金子兜太
凌霄に井戸替すみし夕日影 西島麦南 人音
凌霄のかづらをかむり咲きにけり 後藤夜半 翠黛
凌霄の光に堪へぬ眼を洗ふ 橋閒石 雪
凌霄の花と羽抜けし鵜の貌と 百合山羽公 春園