
土用うなぎ冷戦に要るエネルギー かとうさきこ
この冷戦をなんとみるかで句意は微妙に変化する
夫婦の小さな諍いに
うな丼で次の臨戦に備えるのも愉快だ
(小林たけし)
夫婦の小さな諍いに
うな丼で次の臨戦に備えるのも愉快だ
(小林たけし)
相手が男であれ女であれ、昔から「冷戦」は苦手だ。パパッと言い合ったほうが、よほど楽である。しかし、止むをえずに「冷戦」に入ることもある。私から言わせれば、みんな相手のせいなのだ。不意に「むっ」と押し黙ったまま、物を言わなくなる。このタイプは、男よりも圧倒的に女に多い。こうなったらお手上げで、何を言っても無駄である。勝手にしろと、喧嘩のテーマを外れたところでも腹が立ち、しかし声をあらげるのも無駄だと知っているので、こちらも黙り込んでしまう。ここから、立派な「冷戦」となる。「冷戦」の嫌なところは、いつまでも尾を引くところ。その間に、ああでもあろうかこうでもあろうかと相手の心を推し量ることにもなり、なるほど「エネルギー」が要ること、要ること。この句を読んで感心させられたのは、「冷戦」中の作者がちゃっかり(失礼っ)と「土用うなぎ」に便乗してエネルギーを補強しているところだ。事「冷戦」に関しては、私に限らず、男にはまずこんな知恵はまわらないだろうと思う。たとえフィクションであろうとも、だ。したがって、掲句に「冷戦」得意の女性一般(気に障ったら、ごめんなさい)の強さの秘密を垣間みたような……。面白い発想だなあと、男としては、さっきから感心しっぱなしなのである。「俳句界」(2001年8月号)所載。(清水哲男)
【土用】 どよう
◇「土用入り」 ◇「土用明け」 ◇「土用太郎」 ◇「土用次郎」 ◇「土用三郎」 ◇「土用照り」
土用は本来春夏秋冬それぞれにあるが、単に土用といえば夏の土用を指し、小暑から13日目(7月8日頃)から立秋の前日までの18日間をいう。1年中で最も暑い時期である。土用の入りを「土用太郎」ついで「土用次郎」「土用三郎」と呼ぶ。
例句 作者
土用三郎古稀てふ未知に乾杯す 村上ふさ子
糠床を念入りに混ぜ土用入 大野信子
鳥の眼の花に間近き土用かな 廣瀬直人
遠山は雲を払ひて土用太郎 檜山京子
油滴天目その一滴の土用照り 伊丹さち子
通りより見ゆる晩酌土用来る 宮岡計次
わぎもこのはだのつめたき土用かな 日野草城
土用中摩耶埠頭ゆくダルマシアン 中野路得子
地に落ちて柿栗青し土用東風 西島麦南
真昼日に松風少し土用かな 尾崎迷堂
土用三郎古稀てふ未知に乾杯す 村上ふさ子
糠床を念入りに混ぜ土用入 大野信子
鳥の眼の花に間近き土用かな 廣瀬直人
遠山は雲を払ひて土用太郎 檜山京子
油滴天目その一滴の土用照り 伊丹さち子
通りより見ゆる晩酌土用来る 宮岡計次
わぎもこのはだのつめたき土用かな 日野草城
土用中摩耶埠頭ゆくダルマシアン 中野路得子
地に落ちて柿栗青し土用東風 西島麦南
真昼日に松風少し土用かな 尾崎迷堂