ラストシーン(2016.10.24日作)
婚期の遅れた娘を嫁がせ
一人だけになった わが家へ戻った
初老の父親
無事 一人娘を嫁がせた
安堵感と寂しさの中 椅子に座り
リンゴを手にして 皮をむき始める
一日の婚礼儀式を終えた疲労感が
父親を襲い
皮をむき始めたリンゴを手にしたまま
思わず 居眠りをしてしまう
リンゴの皮が ポロリと 切れ落ちる
夕闇迫る部屋の中
リンゴの皮を拾い
父親を揺り起こす娘の姿は もう
この家には ない
迫り来る夕闇が 初老の父親の
孤影を色濃く 映し出す
小津安二郎監督 映画「晩春」
映画はやがて
人の世の永遠の営みを象徴するように
鎌倉の海の
波の繰り返しを映し出して
終わる
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睡眠薬に朦朧として
夜の街に繰り出した 王女
街角で居眠りをする王女に出会った
王女とは知らない 通信社の男性記者
二人の 翌日一日だけの 冒険 気まぐれ行動
時は過ぎ 一日は終わり 王女は
記者に送られ
滞在先の豪奢な建物へ帰ってゆく
眼を見張る記者 翌日
王女の記者会見 記者は
昨日の気まぐれ娘が
王女と知る 王女は
集う記者たちの中
男性記者の「ローマの休日の印象は?」
質問に答えるーーー
二人の間に 微妙に通い合い
微妙にゆき違う 心
会見は終わり 王女は
付き人を従え 豪奢な装飾の廊下を歩み去り
分厚い扉の部屋の中へ 消えてゆく
茫然としてたたずむ 記者 やがて
一人残された長い廊下に 心を残し
王女が消えた部屋とは反対
宮殿の出口へ と向かう
王女の消えた分厚い扉の部屋 と
記者との間に広がる 距離 その間隔
距離の大きさが 束の間 ひと時とは云え
互いに心を通い合わせた 二人の
永遠に結ばれ得ない 運命 距離の大きさを
鮮明に映し出し 暗示する
ウィリアム ワイラー監督 映画「ローマの休日」
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深い余韻を残す名作 二つの作品の
ラストシーン
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