『25時』(67)
国籍不詳のアンソニー・クインを象徴する映画
この映画の舞台は、第二次世界大戦前後のヨーロッパ。戦争によって運命を翻弄されるルーマニアの平凡な農夫を名優アンソニー・クインが演じています。
主人公は、自分の意志とは全く無関係に、ある時はユダヤ人、そしてハンガリー人、またある時はドイツ人にされたりしながら、10年以上も各国の収容所での生活を余儀なくされます。
戦後、やっと家族との再会を果たしますが、そこにはある秘密が…という皮肉な人間喜劇になっていて、ラストのクインの泣き笑いの表情がとても印象に残ります。国籍って一体何だろうと考えずにはいられません。
アンソニー・クインという人は、いろいろな人種を演じ分けられる、ある意味、国籍を感じさせない俳優です。それも凝ったメイクや扮装で演じ分けるのではなく、どれも地のままで違和感なくやってしまうところがすごいんですね。
例えば『道』(54)はイタリア人、『アラビアのロレンス』(62)はアラビア人、『その男ゾルバ』(64)はギリシャ人、売れない頃はネイティブ・アメリカンの役もやっていたし…。
で、実は何人かといえば、いろいろな血が混ざっているらしいのですが、メキシコ生まれのアメリカ人だそうです。この映画は国籍不詳を売り物にした彼を象徴する名作だと思います。
また、この映画は仏、伊、ユーゴの合作で、原作はルーマニア生れの小説家C・ビルジル・ゲオルギュ、監督はトルコからフランスに亡命したアルメニア人のアンリ・ベルヌイユ、共演はイタリアの美人女優ビルナ・リージと、こちらも国際色豊かです。ぜひ一度ご覧になって国籍について考えてみてください。