田中雄二の「映画の王様」

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【ほぼ週刊映画コラム】2015年映画ベストテン

2015-12-30 10:50:52 | ほぼ週刊映画コラム

TV fan Webに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は、今年最後ということで

2015年映画ベストテン


詳細はこちら↓

http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1030519

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『消えた声が、その名を呼ぶ』

2015-12-30 00:00:00 | 新作映画を見てみた

私的 2015年外国映画のベストワン



 1915年のオスマン・トルコ。鍛冶職人のナザレット(タリール・ラヒム)は、アルメニア人であるが故に、妻と双子の娘から引き離される。砂漠での強制労働の末に、喉をナイフで切り裂かれ、声を失ったナザレットは、娘に会いたい一心から、レバノン、キューバを経て、最後はアメリカ、ノースダコタにたどり着く。

 トルコで実際に行われたアルメニア人の虐殺を背景に、娘を捜すために、世界を旅する一人の父親の姿を描く。監督は『ソウル・キッチン』(09)などを撮ったトルコ移民のドイツ人ファティ・アキン。原題の「カット」には、喉を切られることと、家族と切り離されることという二重の意味が込められているのだろう。

 この映画の魅力は、壮絶かつ過酷、絶望的ですらあるナザレットの流浪の旅を見せながら、どこか冒険映画を見ているような興奮を感じさせるところだ。ナザレットのサバイバルの様子を見ながら西部劇を見ているような思いにとらわれたが、アキン監督自身も「西部劇的なものを目指した」と語っているとのこと。ライナー・クラウスマンの撮影も素晴らしい。

 また、単なる被害者の話とせず、ナザレットが巻き込まれたやるせない状況を生んだのも人間なら、彼を救う思いやりや慈悲を示すのも人間という、矛盾や不条理を描いて映画に広がりを持たせている。このあたりは、『レイジング・ブル』(80)の監督、脚本コンビである、マーティン・スコセッシとマルディク・マーティンの協力が大きく影響しているのかもしれない。

 声を失いながら娘を捜すナザレットが、サイレントで親子の物語でもあるチャップリンの『キッド』(21)を巡回映画で見て、泣き笑いをする場面が象徴的で印象に残る。

 さて、アルメニア人といっても日本人にはなじみが薄いが、『人間喜劇』などを書いた作家のウィリアム・サローヤン、トルコ政府から弾圧を受けてフランスに移住した映画監督のアンリ・ベルヌイユ、歌手兼俳優のシャルル・アズナブール、テニスのアンドレ・アガシ、そしてこの映画の脚本に協力したマルディク・マーティンらがアルメニア系だという。

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