「ミステリーゾーン」がポイント
『トゥー・ウィークス・ノーティス』(02)『ラブソングができるまで』(07)『噂のモーガン夫妻』(09)に続き、ヒュー・グラントとマーク・ローレンス監督が4度目のタッグを組んだラブコメディー。原題は「リライト」で、脚本と人生のやり直しの二重の意味がある。
かつて『間違いの楽園』という映画でアカデミー脚本賞を受賞しながら、今は落ち目となった脚本家のキース。生活に窮した彼は田舎の大学でシナリオ作法の授業を受け持つことになる。何事に対しても適当に過ごしてきたキースが、生徒たちとの交流を通して人生を見つめ直していく、 というよくあるパターンの話。
設定としては『ラブソングができるまで』のミュージシャンを脚本家に変えたような印象も受けるが、今回は、映画関係者が主人公だけに、ジェイン・オースティンやシェークスピアといった英国作家ネタや、『マーティ』(55)『スター・ウォーズ』(77)『ダーティ・ダンシング』(87)『いまを生きる』(89)などの映画ネタが散りばめられ、おまけに映画脚本執筆のノウハウまで教えてくれるので、映画好きにはたまらない。自然、点数が甘くなる。
中でも最も印象に残るエピソードは、本作の舞台となるビンガムトンという田舎町が、ロッド・サーリングの出身地であることが明かされるところ。サーリングはテレビシリーズ「トワイライトゾーン=ミステリーゾーン」の案内役を務め、多くの脚本も執筆した人だから、脚本家が主人公であるこの映画で語られるのは分からなくもない。
だが、本作の主題である「リライフ=人生のやり直し」にはぴったりの「ミステリーゾーン」内の「過去を求めて/歩いて行ける距離」が引用されるに及んで、これはローレンス監督が意図的に仕組んだことではないのかと感じた。
サーリングは大好きな作家の一人なので気になって調べてみると、ローレンスはニューヨーク州立大学ビンガムトン校を卒業しており、ビンガムトンを本作の舞台とすることを意図的に決めたのだという。やはりそうだったのか…。
その「過去を求めて/歩いて行ける距離」の粗筋は、ニューヨークの広告代理店に勤める主人公が仕事や生活に疲れ、昔を懐かしんで生まれ故郷に戻ると、自分が子供だった時代にタイムスリップし、子供の頃の自分や今は亡き両親と会うが…、というもの。
「一人の人間にとって、夏は一度きりしかないのだよ。
この夏はあの子のものだよ。かつてそれがきみのものだったように。
そこに割り込むようなことをしてはいけない」
「向こうへ帰ったら、きみのいる世界にもメリーゴーラウンドや夏の夜があるということがきみにもわかると思うよ。
たぶんきみは、見るべきところを見てこなかったんだ。うしろばかり振り返っていたんだよ。
もっと前を見るようにしてごらん」
中年になって未来から戻って来た息子に父が優しく諭すように言葉を掛けるシーンが印象に残るドラマだ。
で、この映画には実際のメリーゴーラウンドが登場し、生徒たちと「歩いて行ける距離」を見ながら涙するキースの姿も映る。恐らくこの映画のアイデアは「歩いて行ける距離」ありきで生まれたものだったのだろう。だとすれば、主人公のキースの人物像にはローレンス自身の気持ちも反映されているはずだ。だからこそ、キースが書いた『間違いの楽園』は「トワイライトゾーン」に出てくるようなファンタジー話だったのである。
グラントのほか、涙もろい学科長役のJ・K・シモンズ、遅れて大学生となったシングルマザー役のマリサ・トメイ、同僚でシェークスピア・マニアのクリス・エリオット、同じくオースティン・マニアのアリソン・ジャネイ、そして生徒役の若手俳優がそれぞれ好演を見せる。