『THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 277号』で、
「特集 ひとりの12月」で「年の暮れに見たい映画」を執筆。
ラインアップは
『トゥルーマン・ショー』
『LIFE!』
『父と暮せば』
『最高の人生の選び方』
『ショーシャンクの空に』
『ゼロ・グラビティ』
販売員の方を見かけられましたら、ぜひお買い上げください。
表紙はリチャード・ギアです↓
http://www.bigissue.jp/latest/index.html
ラストシーンで涙と笑いが同時に込み上げる
無気力な日々を送る市役所衛生局の課長・早乙女(有島一郎)と自由気ままに生きる労務者の源さん(ハナ肇)。対照的な二人の特異な友情を描いた山田洋次監督の風刺の利いた人情喜劇です。風来坊の源さんは『男はつらいよ』シリーズの車寅次郎の原点ともいえるキャラクター。『馬鹿』シリーズ同様、見た目は豪快だが実は純情で繊細というハナ肇の個性が生かされています。
この映画は、一見、平穏に見える郊外の中流家庭とその周辺に、ひょんなことから紛れ込んだ乱入者が巻き起こす騒動を面白おかしく描いています。ところが源さんがある事件を起こしたばっかりに…。
最初は好奇心から源さんを珍重するものの、何かまずいことが起きると一転して、すべてを彼のせいにしてスケープゴートとして葬ってしまう。中流意識故の差別や嫌らしさが浮き彫りになります。そこがこの映画が他の喜劇とは一線を画する点で、これはティム・バートン監督の『シザーハンズ』(90)などにもつながるテーマです。
ただ、この映画は、それだけでは終わらず、涙と笑いが同時に込み上げてくるような素晴らしいラストシーンが用意されています。これは、最後は必ず明るく終わる「男はつらいよ」シリーズに通じるものですし、後年の『遥かなる山の呼び声』(80)では一味違った形で再現されました。
早乙女と源さんは「燦めく星座」をよく一緒に歌いますが、「男純情の~」という歌詞が二人の心情を見事に代弁しています。流行歌を巧みに映画に取り入れるという山田監督の特技が生かされています。
ジェームス・ディーンを演じることとは
『エデンの東』(55)『理由なき反抗』(55)『ジャイアンツ』(56)。たった3本の映画で伝説となったジェームス・ディーンが、24歳の若さで事故死する直前に、写真家のデニス・ストックと行った2週間の旅を通して、「ディーン伝説」誕生以前の秘話を哀感を込めて描く。
雨中のタイムズスクエアを、タバコをくわえながら背中を丸めて歩くディーン、故郷ニュージャージーでの素顔のディーンを写した数々のスナップ、今や有名になったこれらの写真が、どんなシチュエーションで撮られたのかが分かって興味深い。ディーンが青春のシンボルとして伝説化するには、ストックが撮ったこれらの写真が大きな役割を果たしたのだ。
写真家出身のアントン・コービン監督は、一瞬を切り取って記録するという写真の本質を見事に表現し、そこに、夭折したディーン、生き残ったストック双方の青春の哀切を描き込んだ。『欲望のバージニア』(12)『クロニクル』(12)のデイン・デハーンが、ディーンの動作やしぐさ、口調をまねて再現している。
かつて淀川長治先生が、売り出し中だった頃のレオナルド・ディカプリオを評して、「彼はジェームス・ディーンになりたがっているのね」と語っておられたが、恐らくデハーンも同じ思いを抱いていたのだろう。
ただ、青春のイコンとなったディーンを演じるには、憧れだけではままならない。憧れが強ければ強いほど、演じるプレッシャーもまた大きくなることは想像に難くない。そう考えると、デハーンの演技は少々鼻に付くところもあるが、この場合、ディーン役を引き受けた勇気の方を買ってあげたい気がする。
片や、ストックを演じた「トワイライト」シリーズのロバート・パティンソンも、何者かになりたいと思いながらそれが叶わないという、ストックの屈折や焦燥を巧みに表現している。つまり、この映画は、ディーンとストックの青春像を通して、二人の若手俳優の成長を見る映画でもあるのだ。