田中雄二の「映画の王様」

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『完全なるチェックメイト』

2015-12-27 16:55:17 | 新作映画を見てみた

ボビー・フィッシャーを探して



 米ソ冷戦下の1972年、アイスランドのレイキャビクで行われたチェスの世界選手権。チャンピオンのボリス・スパスキー(ソ連)とチャレンジャーのボビー・フィッシャー(米国)の勝負をクライマックスに、“奇行の天才”と呼ばれたフィッシャーの半生を描く。

 原題は「ポーン・サクリファイス」(歩の犠牲)というチェス用語。多分フィッシャーの指し手に関係しているのだろうが、チェスには無知なのでよく分からない。

 この映画、チェスが分かればもっと面白く見ることができたのかとも考えたが、そうばかりではない。フィッシャーの人間性の掘り下げがなされていないので、彼の変人ぶりが目立つだけ。しかも、対局の様子をきちんと見せないので盛り上がる場面がほとんどない。さらに時代背景の描写も中途半端なので、なぜ人々がこの勝負に熱狂したのかもよく分からないという始末なのだ。

 皮肉にも、チェスの見せ方が見事でルールを知らずとも楽しめた、実在の天才少年チェスプレーヤーを描いた『ボビー・フィッシャーを探して』(93)の存在がかえって際立つことになった。

 フィッシャー役のトビー・マグワイアはエキセントリックな役柄を頑張って演じてはいるが、それ以上でも以下でもないという印象。むしろスパスキー役のリーヴ・シュレイバーの方がもうけ役か。CCRの「トラベリン・バンド」やドゥービー・ブラザースの「レッスン・トゥ・ザ・ミュージック」などの挿入歌は時代を反映していて印象に残る。

 同夜『スティーブ・ジョブズ』も見たので、フィッシャーのマネージャー役のマイケル・スタールバーグとは2本続けて対面することになった。なかなかいい脇役だ。

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『スティング』(73))

2015-12-27 09:00:00 | All About おすすめ映画

いよっ名人芸!



 『明日に向って撃て!』(69)に続いて、監督ジョージ・ロイ・ヒル、主演ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードのトリオが作り上げた快作コメディです。

 1936年のシカゴ、ギャング組織に仲間を殺されたフッカー(レッドフォード)は、大物詐欺師のゴンドルフ(ニューマン)と組んで、組織のボスのロネガン(ロバート・ショウ)への復讐を企てます。

 この映画は、観客をだますことに腐心して作られているので、ストーリーについてはあまり多くは語れません。実際に見て、だまされる快感を味わって楽しんでもらうのが一番だと思います。

 と言う訳でディテールの紹介を。

 ニューマン、レッドフォードに加えて、レイ・ウォルストン、ハロルド・グールドといった名脇役たちが演じる詐欺師が次々と集まる場面や、彼らがどんな役割を果すのかが見ものです。

 音楽のマービン・ハムリッシュは、20世紀初頭に作られたスコット・ジョプリンのラグタイムピアノ曲を映画に使い、サウンドトラック盤は大ヒットを記録しました。

 また、アカデミー賞の常連であるイーディス・ヘッドが担当した衣装をはじめ、大道具、小道具なども含めて見事に30年代を再現。アカデミー賞では作品、監督、脚色、編集、美術、衣装デザイン、音楽の各賞を受賞しました。

 そんなこの映画は、もちろん、ラストの大どんでん返しを知らずに見る方がいいのですが、そこに至るまでにさまざまな伏線が張り巡らされているので、例え結末を知った後でも何度見ても楽しめます。

 落ちが有名な古典落語も、名人が語れば何度聴いても楽しいではありませんか。見終わった後で、思わず「いよっ名人芸!」と一声掛けたくなる逸品です。

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