田中雄二の「映画の王様」

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『ガス人間第一号』(60)

2015-12-18 09:34:21 | All About おすすめ映画

メロドラマとホラーが見事に融合



 この映画の主人公の水野(土屋嘉男)は、宇宙飛行に耐えるための人体実験で細胞が分裂し、肉体を気体(ガス)化させることが可能になります。

 水野はガス人間となって銀行強盗をしますが、それは偏愛する踊りの師匠(八千草薫)に発表会をさせるための資金集めが目的でした。普通の人間には二度と戻れない彼の、屈折した愛情表現が不憫です。

 観客は水野唯一人というラストの踊りの発表会も哀れを誘います。2009年には悲恋ものとして舞台化されています。

 この映画は、監督の本多猪四郎と特技監督の円谷英二のコンビが生み出した、変態する(してしまう)人間たちの悲しさと不気味さを描いた『美女と液体人間』(58)『電送人間』(60監督は福田純)『マタンゴ』(63)の系譜に属します。

 どの映画もドラマ部分と特撮が見事な融合を見せますが、メロドラマとホラーの合体という点ではこの映画が一番でしょう。

 水野は、普段は普通の人間と全く変わらないのですが、一種の精神統一をすることで自由に肉体を気体化させることができます。彼が青白いガスとなって刑務所の鉄格子を抜け、あとに背広だけが残るシーン。あるいは人にまとわりついて窒息させる恐怖が特撮を駆使して描かれます。これらのシーンは、子供のときに見たらトラウマになるほど不気味です。

 水野を演じた土屋嘉男は、東宝特撮映画を支えた怪優です。『地球防衛軍』(57)のミステリアン、『怪獣大戦争』(65)のX星人など、一筋縄ではいかない役を演じて楽しませてくれました。

コメント
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