田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『地上より永遠に』

2019-01-19 18:24:00 | 1950年代小型パンフレット

『地上より永遠に』(53)(1982.7.18.)



 舞台は1941年、日本軍の真珠湾攻撃前のハワイ。ホノルル基地に赴任してきたラッパ手のプルー(モンゴメリー・クリフト)は、上官に逆らったことから孤立無援となる。彼をかばったアンジェロ(フランク・シナトラ)は営倉入りとなり、残忍な主任(アーネスト・ボーグナイン)に虐待死させられる。

 アメリカ版の『人間の条件』とでも言おうか、軍隊の矛盾や非人間的な行為が、いかにもフレッド・ジンネマンらしい、細かい描写の積み重ねの中で描かれる。

 この映画が作られたのはちょうど朝鮮戦争の頃。従って、第二次大戦前夜を描きながら、その影響が感じられるところがある。例えば、軍隊にいじめ抜かれたプルーが、それでもラスト近くで吐く「アメリカ軍は世界一…」というセリフに象徴されるように、戦争そのものは良くないが、アメリカは正しい、とするところが感じられなくもない。それがちょっと残念ではある。

 とは言え、決して硬いばかりの映画ではなく、バート・ランカスターとデボラ・カーの砂浜での激しいラブシーン、クリフトとドナ・リードが演じる悲恋、クリフトとシナトラ、あるいはランカスターとの友情、ボーグナインの見事な憎まれ役ぶり、クリフトが吹くトランペットの音色の使い方など、映画的な見せ場がだっぷりと用意されている。こうした構成と出演者たちの好演があればこそ、この映画は今でも名作として残っているのだろう。

 【今の一言】当時は気付かなかったが、後に、この映画が赤狩りの嵐の中で作られていたことを知り、改めてジンネマンらの勇気を感じた。



フレッド・ジンネマン&フランク・シナトラ&ドナ・リード


バート・ランカスター


デボラ・カー


『名画投球術』いい女シリーズ4「正真正銘の“美女”が観たい」デボラ・カー
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/be594f2a790e1b4a23a8b68236557b94

モンゴメリー・クリフト


ドナ・リード


フランク・シナトラ


アーネスト・ボーグナイン


パンフレット(53・外国映画社)の主な内容
解説/物語/真実を衝いた傑作 ジンネマンの無技巧の技巧(原安佑)

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『三人の妻への手紙』

2019-01-19 11:10:45 | 1950年代小型パンフレット

『三人の妻への手紙』(49)(1997.1.26.)



 ニューヨークの郊外に住むデボラ(ジーン・クレイン)、ローラ(リンダ・ダーネル)、リタ(アン・サザーン)が遊覧船に乗船する直前、共通の友人であるアディの名で「あなた方のご主人の一人と駆け落ちします」と書かれた手紙が届けられる。監督はジョセフ・L・マーキーウィッツ。

 脚本家出身という共通点もあるビリー・ワイルダー同様、マーキーウィッツのストーリーテリングのうまさには毎度うならされる。例えば、この映画も、三人の妻それぞれの夫婦生活の危うさや不安を、共通の友人であるアディの存在を通して回想形式で浮き彫りにするのだが、当のアディ(声のみセレステ・ホルム)は最後まで姿を見せない、というミステリー仕立てで見る者を引き付ける。これが成り立つのは、さまざまな伏線を張った脚本のうまさによるものだ。

 加えて、当時の三種三様の市民生活を皮肉を込めて描きながらも、その奥には、何とか夫婦の絆を保とうとする滑稽さや悲哀がにじみ出て、見る者に共感を抱かせる。つまりバランス感覚に優れた人間喜劇としても一級品なのである。

 そしてラスト、一人の夫の告白によってハッピーエンドか、と思わせておいて、シャンパングラスが割れるショットを映すことで含みを持たせ、謎を残したまま終えるところも秀逸だ。いやはや、お見事な一本!

【今の一言】この時は、ビデオの力を借りて『呪われた城』(46)『幽霊と未亡人』(47)『五本の指』(52)『裸足の伯爵夫人』(54)を続けて見て、すっかりマーキーウィッツに酔わされてしまった。

ジョセフ・L・マーキーウィッツ

パンフレット(50・東京セントラル劇場宣伝部(TOKYO CENTRAL THEATRE NO.10))の主な内容
アメリカの批評抜萃/解説/梗概/スターメモ(カーク・ダグラス、アン・サザーン)/三人の妻への手紙(淀川長治)

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『抱擁』

2019-01-19 07:21:38 | 1950年代小型パンフレット
『抱擁』(57)(2006.1.20.)



 WOWOWでフランク・シナトラ主演の『抱擁』を見る。1930年代のナイトクラブの人気スター、ジョー・E・ルイスの半生を描いた伝記映画。シナトラが歌った主題歌「オール・ザ・ウェイ」(作詞サミー・カーン、作曲ジェームズ・バン・ヒューゼン)はアカデミー歌曲賞を受賞している。

 公開当時の評価はあまり高くなかったようだが、この頃妙な映画ばかり見ているせいか、結構良く出来ているなどと思ってしまった。主人公を支える相棒のピアニストを演じたエディ・アルバートがなかなか良かった。この人は『ローマの休日』(53)もそうだが、脇でいい味を出す。

 ところで、この映画に出ていたジーン・クレインという“今は幻”の女優のことがちょっと気になった。他にはジョセフ・L・マンキーウィッツ監督の『三人の妻への手紙』(49)『人生模様』(52)の「賢者の贈物」が印象的。もちろん当方はその全盛期を知るよしもないのだが、日本では出演した映画の多くが未公開なので、比較的地味な存在であり、本国でも決定打を欠いて大女優になりそこねた人らしい。まあ昔は“美人女優”が他にもたくさんいたわけだから…。

 驚いたのは女優を続けながら7人の子供を産んで育てたという事実。大女優になるよりもこちらの方がすごいと思う。カーク・ダグラスが曲撃ちを見せる西部劇『星のない男』(55)のパンフレットは、彼女の“入浴シーン”が表紙を飾っている!



フランク・シナトラのプロフィール↓


「オール・ザ・ウェイ」

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