田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『グレン・ミラー物語』

2019-01-31 12:14:06 | 1950年代小型パンフレット

『グレン・ミラー物語』(53)(1993.1.8.)



 ステレオ・完全版ということで、久しぶりに再見。先日『素晴らしき哉、人生!』(46)を見直した際に、ジェームズ・スチュワートとドナ・リードが演じた夫婦の姿が、あの映画を支えていると改めて感じたが、この映画も、音楽映画としての魅力もさることながら、スチュワート(グレン)とジューン・アリスン(ヘレン)のコンビネーションが素晴らしい。こうした夫婦愛の美しさをストレートに描く手法は、今の時代では失われたものなので、余計輝いて見えるのかもしれない。

 特に、「私、素敵なことがあると首の後ろがむずむずするの」とうなじをさする癖があるヘレンが、夫の死を知り、涙しながら、ラジオから流れる「茶色の小瓶」(グレンがヘレンに捧げた曲)を聴いて、思わずうなじをさすってしまうラストシーンは、何度見てももらい泣きしてしまう。

 アリスンは、自分にとっては、この映画や、テレビで見た『甦る熱球』(49)『戦略空軍命令』(55)といったスチュワートとの共演作が最も印象深い(もちろん公開されてから何十年も後の話だが)。ところが彼女をリアルタイムで見てきたわが師匠は「彼女が最も輝いていたのは、終戦直後に公開された『姉妹と水兵』(44)『百万人の音楽』(44)。かわいくて一種のアイドルだった」とよく言っていた。スターの魅力を語る上で、こういうリアルタイムの体感はやはり大きいと思う。

ジェームズ・スチュワートのプロフィール↓


ジューン・アリスンのプロフィール↓

パンフレット(54・外国映画社(Foreign Picture News))の主な内容
解説・楽曲・物語・音楽映画としても伝記映画としても優れた『グレン・ミラー物語』(岡俊雄)・この映画に出演するアーティスト・新鋭監督アンソニー・マン

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『群衆』

2019-01-31 08:39:04 | 1950年代小型パンフレット

『群衆』(41)(1992.9.14.)



 新聞社から解雇されるピンチに立たされたアン(バーバラ・スタンウィック)は苦肉の策として、ジョン・ドゥーという架空の人物を創作し、それを誰かに演じさせて、記事を書くことを思いつくが…。監督はフランク・キャプラ。

 この映画は、キャプライズムにあふれた戦前の4部作(『オペラハット』(36)『我が家の楽園』(38)『スミス都へ行く』(39))の最終作にあたる。それ故か、彼の作品に一貫して流れる楽天主義やデモクラシー賛歌にも、微妙な変化や翳りが見られる。

 時は、第二次大戦の真っただ中。敵はファシズムという当時の世相を反映してか、いつものように、一致団結したときの「群衆」(この邦題は言い得て妙である)の素晴らしさや美しさを見せながら、同時に、それがいとも簡単に崩壊し、権力に利用されるもろさも描いている。キャプラが通常のストレート勝負ではなく、変化球を駆使している感がある。

 しかも、その群衆を先導するのが、ゲーリー・クーパー演じるマスコミに作られた名無しのヒーロー(原題のジョン・ドー)である、という皮肉は、戦前の日本やドイツ、あるいは今の新興宗教ブームにも通じるものがある。この先見の明は恐ろしいほど鋭い。だから、ラストにキャプラ十八番のハッピーエンドが用意されていても、素直には喜べない苦さが残ってしまうのだ。

 思うに、この映画は、ファシズムへの恐怖や、大衆やデモクラシーを信じたいのに信じ切れないキャプラのジレンマが生んだものであり、ウォルター・ブレナンが演じた皮肉屋が、キャプラの代弁者なのだろう。
 
 この後、時代はキャプラが危惧した方向へと進み、キャプラ自身も軍部に協力して記録映画を撮った後、映画監督としては黄昏を迎える。そう考えると、この映画はフランク・キャプラという偉大な監督にとってのターニングポイントとなった映画としても記憶に残るのだ。

【今の一言】コーエン兄弟の『未来は今』(94)は、この映画の影響を強く受けている。

パンフレット(51・ブリチッシュリテラリーセンター)の主な内容
大人の童話としての「群衆」のよさ(野口久光)/解説/物語/ゲイリー・クーパーとバーバラ・スタンウィック(桑山栄治)

フランク・キャプラのプロフィール↓


ゲーリー・クーパーのプロフィール↓


バーバラ・スタンウィックのプロフィール↓


ウォルター・ブレナンのプロフィール↓

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする