田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『歴史は夜作られる』

2019-01-25 20:59:19 | 1950年代小型パンフレット
『歴史は夜作られる』(37)(1997.2.13.)



 アメリカの海運王夫人アイリーン(ジーン・アーサー)と、パリのホテルの接客チーフ・ポール(シャルル・ボワイエ)が恋に落ちる。2人は処女航海の豪華客船に乗ってニューヨークからパリに向かうが…。監督はフランク・ボーゼージ。

 水上勉が、青函連絡船・洞爺丸の沈没という大惨事に触発されて『飢餓海峡』を生み出したように、この映画も豪華客船タイタニック号の沈没という大事故と無縁ではあるまい。ただ、感心するのは、クライマックスに豪華客船の遭難を持ってくるがために、そこまでに費やされた手練手管の見事さであった。

 言い換えるなら、全編が、これ一組の男女を一緒させるためのご都合主義の連続であり、半ば「そんなはずはないよ」と思わせながらも、見事な映画的なテクニック(演出、脚本、撮影、俳優の力…)を駆使して、トータルとしては見る者を乗せてしまうのだ。

 何しろ、この映画が作られたのは今からおよそ60年も前のこと。もちろん、豪華客船によるパリ~ニューヨーク間の旅など、限られた人にしか体験できなかったであろうし、高級レストランの接客チーフと大富豪夫人の恋など、絵空事以外の何ものでもなかったはずだ。

 つまり、当時の観客にとっては甚だリアリティがない反面、ゴージャスな夢を見るにはもってこいの設定だったのだろう。今、こんな映画を作ったら、時代遅れと言われて、一笑に付されてしまうのが落ちなのではないか。

【今の一言】などと書いていた同じ年の暮れに、ジェームズ・キャメロンの『タイタニック』が公開され、大ヒットを記録したのだから、オレの意見など当てにはならない。

ジーン・アーサーのプロフィール↓


シャルル・ボワイエのプロフィール↓
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『我等の生涯の最良の年』

2019-01-25 09:53:26 | 1950年代小型パンフレット
『我等の生涯の最良の年』(46)(1998.3.31.)



 第二次世界大戦後に市民生活に復帰した復員兵が直面するさまざまな問題を鋭く描き、アカデミー賞では9部門で受賞した。淀川長治先生は「(タイトルとは逆に)彼らにとっては、本当は最悪の年なんですね」と言っていた。製作サミュエル・ゴールドウィン、監督ウィリアム・ワイラー。

 名作の誉れ高い映画だが、3時間近くの上映時間がネックとなって今まで見逃していた。ところが、いざ見始めると、さすがはワイラー。一気に見せられたばかりでなく、改めて監督としての力量の大きさを知らされた。

 俳優たちも、くささ一歩手前のうまさで見せるフレドリック・マーチ、良妻賢母を演じたマーナ・ロイ、おばさんっぽいかわいらしさのあるテレサ・ライト、好漢ダナ・アンドリュース、敵役のバージニア・メイヨはちょっとかわいそう、とそれぞれの個性が遺憾なく発揮されている。

 本物の傷痍軍人であるハロルド・ラッセルの起用は、少々ルール違反では、という気もするが、それがこの映画に一種のドキュメンタリー的な側面を与えていることも確かである。

 敗戦国民である当時の日本の観客が、この映画を通して、勝戦国のアメリカですら帰還兵の社会復帰は容易ではなかったことを知らされたわけだが、どんな思いでこの映画を見たのだろう。複雑な心境だったことは想像に難くない。

 また、戦中に、一種の戦意高揚映画である『ミニヴァー夫人』(42)を撮ったワイラーが、一転、戦後第一作となったこの映画では、戦争がもたらす苦さを描いている。その変転には、ジョン・フォードやフランク・キャプラと同じく、実際の戦場を映像として記録したことが影響しているような気がする。

 同年、フォードは戦争から解放された安堵感が漂うような『荒野の決闘』を撮り、キャプラはもう一度人間を信じてみようという思いから『素晴らしき哉、人生!』を撮った。それぞれが名作だが、戦場を目の当たりにした彼らの復帰映画の作風に、大きな違いがある点も興味深い。



ハロルド・ラッセル&ウィリアム・ワイラー


フレドリック・マーチ




テレサ・ライト


バージニア・メイヨ


【今の一言】先頃、ゴールドウィンの評伝『虹を掴んだ男―サミュエル・ゴールドウィン』を読んだが、この映画はワイラーの映画というよりも、むしろゴールドウィンの映画と呼ぶべきが正しいのか…とも思った。
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/10cc294f9f7bbf8525eb9e6db7ce937f
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『リバティ・バランスを射った男』

2019-01-25 06:15:54 | 1950年代小型パンフレット

『リバティ・バランスを射った男』(62)(1997.3.10.)



 ジョン・フォード、晩年の佳作を久しぶりに再見したところ、いくつか新たな思いが浮かんできた。

 ジョン・ウェインが遺作『ラスト・シューティスト』(76)より、10年以上も前に“最後の西部男の悲しい死”を演じていたことに改めて気づいた。その分、ジェームズ・スチュワートが演じた、後に議員になる主人公が、前に見た時よりも、尊大で横柄な人物として映ってしまった。このウェインとスチュワートが『ラスト・シューティスト』で再共演しているのも感慨深い。

 ところで、ウェイン演じる“影の男”トム・ドニファンに、さらに影のように寄り添う黒人御者ポンピー(ウディ・ストロード)が泣かせる。『バファロー大隊』(60)もそうだが、こうした扱いを見ると、フォードはストロードをとてもかわいがっていたのだろうと思う。

 また、ラストに吐かれる「西部では伝説を事実にする」という名ゼリフが、今となっては、フォードが映画という作り物に対して発した、暗示的な遺言のようにも聞こえる。





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