田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『東京少女』

2021-02-13 10:01:22 | 映画いろいろ

『東京少女』(08)

 SF作家を夢見る高校生の未歩(夏帆)が持っていた携帯電話が、地震のはずみで時空を超え、明治時代、夏目漱石門下で小説家志望の宮田時次郎(佐野和真)の手に渡る。

 100年の時を超えてつながった携帯電話。2人は何度も会話を重ねるうちに互いに引かれ合っていく。だが、携帯の充電が切れる頃、未歩は時次郎の「運命」を知ってしまう。監督・小中和哉、脚本・林誠人。

 いろいろと突っ込みたくなるところもあるが、こうしたタイムトラベルや時空を超えたファンタジー話は、重箱の隅をつついたり、あり得ない話だと片づけてしまうと、楽しめなくなる。

 とは言え、実は良質のファンタジーを作るのは難しく、出来の悪いものも少なくないのだが、この映画は、大林宣彦作品やNHKの少年ドラマシリーズをほうふつとさせるところがあり、好感が持てた。

 現在と100年前の両方に存在する銀座や日比谷公園の松本楼で、2人が時空を超えたデートをする、という設定はなかなかロマンチックだし、互いの姿は見えず、声だけで交流するもどかしさ、決して結ばれない切なさが胸を打つ。バックに流れるサン・サーンスの「白鳥」も効果的だ。

 そんなこの映画を見ながら、80年前のアンティーク机の引き出しの中にしまい込まれた手紙が、現代の青年とビクトリア朝時代の女性との間を取り持つ、という時を超えたラブロマンスをつづったジャック・フィニイの「愛の手紙」『ゲイルズバーグの春を愛す』所収)を思い出した。

 未歩の本棚には、『ゲイルズバーグの春を愛す』こそなかったが、『マイナス・ゼロ』『タイムマシンのつくり方』(広瀬正)『果しなき流れの果に』『継ぐのは誰か?』(小松左京)『戦国自衛隊』(半村良)『なぞの転校生』(眉村卓)『ある日どこかで』(リチャード・マシスン)『模造記憶』(フィリップ・K・ディック)『2001年宇宙の旅』(アーサー・C・クラーク)…などが並んでいた。そこに、この映画に対する監督の思いが垣間見えた気がした。

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秀吉=緒形拳逝く

2021-02-13 07:10:50 | 大河ドラマ

秀吉=緒形拳逝く(2008.10.14.)

 緒形拳逝く。映画では『鬼畜』(78)『復讐するは我にあり』(79)といった主演作よりも、『風林火山』(69)で演じた三船敏郎扮する山本勘助に最後まで従う畑中武平、『砂の器』(74)の元警官で図らずも被害者となる三木謙一、『八甲田山』(77)で生き残る村山伍長(ラストシーンのアップがすごい)など重要な脇役の方に強い印象がある。以前、インタビューで「(『砂の器』で)本当は本浦千代吉がやりたかった。でも、加藤嘉さんの千代吉、良かったねえ」と語っていた。緒形拳の千代吉も見てみたかった。

 ところで、この人の幅広い出演作の中でも特筆すべきは、やはりNHKの大河ドラマだろう。「太閤記」(65)での成り上がっていく木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)、「源義経」(66)の武蔵坊弁慶(最後の立往生は子供心にも強烈な印象が残った)、「風と雲と虹と」(76)の平将門(加藤剛)の盟友・藤原純友、そして「黄金の日日」(78)での再びの秀吉など、ここでも主人公というよりも、裏の主役としての存在感が抜群だった。

 「おんな太閤記」(81)の西田敏行や、「秀吉」(96)の竹中直人のも良かったが、やっぱり秀吉といえばコミカル味とすご味が同居する緒形拳のイメージなのだ。そういえば、「太閤記」や「源義経」を演出した吉田直哉も先日亡くなった。

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