『東京少女』(08)
SF作家を夢見る高校生の未歩(夏帆)が持っていた携帯電話が、地震のはずみで時空を超え、明治時代、夏目漱石門下で小説家志望の宮田時次郎(佐野和真)の手に渡る。
100年の時を超えてつながった携帯電話。2人は何度も会話を重ねるうちに互いに引かれ合っていく。だが、携帯の充電が切れる頃、未歩は時次郎の「運命」を知ってしまう。監督・小中和哉、脚本・林誠人。
いろいろと突っ込みたくなるところもあるが、こうしたタイムトラベルや時空を超えたファンタジー話は、重箱の隅をつついたり、あり得ない話だと片づけてしまうと、楽しめなくなる。
とは言え、実は良質のファンタジーを作るのは難しく、出来の悪いものも少なくないのだが、この映画は、大林宣彦作品やNHKの少年ドラマシリーズをほうふつとさせるところがあり、好感が持てた。
現在と100年前の両方に存在する銀座や日比谷公園の松本楼で、2人が時空を超えたデートをする、という設定はなかなかロマンチックだし、互いの姿は見えず、声だけで交流するもどかしさ、決して結ばれない切なさが胸を打つ。バックに流れるサン・サーンスの「白鳥」も効果的だ。
そんなこの映画を見ながら、80年前のアンティーク机の引き出しの中にしまい込まれた手紙が、現代の青年とビクトリア朝時代の女性との間を取り持つ、という時を超えたラブロマンスをつづったジャック・フィニイの「愛の手紙」(『ゲイルズバーグの春を愛す』所収)を思い出した。
未歩の本棚には、『ゲイルズバーグの春を愛す』こそなかったが、『マイナス・ゼロ』『タイムマシンのつくり方』(広瀬正)『果しなき流れの果に』『継ぐのは誰か?』(小松左京)『戦国自衛隊』(半村良)『なぞの転校生』(眉村卓)『ある日どこかで』(リチャード・マシスン)『模造記憶』(フィリップ・K・ディック)『2001年宇宙の旅』(アーサー・C・クラーク)…などが並んでいた。そこに、この映画に対する監督の思いが垣間見えた気がした。