『忍者ハットリくん』『怪物くん』『魔太郎がくる!!』『笑ゥせぇるすまん』『プロゴルファー猿』…。藤子不二雄Aのブラックな話とごつごつした感じの画調は、盟友・藤子・F・不二雄のほのぼのとした話と柔らかい画調とは対照的で、よくこの2人が共作をしていたものだと思った。自分は、どちらかと言えば藤子・F派なのだが、不二雄Aの作品で大好きなものが一つある。半自伝漫画として描かれた『まんが道』だ。
これは、藤子不二雄Aこと安孫子素雄をモデルにした満賀道雄と、藤子・F・不二雄こと藤本弘がモデルの才野茂が富山県高岡市の小学校で出会ってから、上京してトキワ荘で漫画家生活を送るようになるまでの、若き日々を描いたもの。
この漫画は、もちろん、2人を中心にトキワ荘の住人を描いた青春群像漫画としても面白いのだが、当時2人が見た映画が、紙上で再現されるところが興味深かった。
『大いなる幻影』(37)『駅馬車』(39)『荒野の決闘』(46)『第三の男』(49)『チャンピオン』(49)『アスファルト・ジャングル』(50)『遊星よりの物体X』(51)『雨に唄えば』(52)『革命児サパタ』(52)『君の名は』(53)『ヴェラクルス』(54)『血槍富士』(55)『OK牧場の決斗』(57)…。
藤子不二雄はもちろん、手塚治虫、石ノ森章太郎、赤塚不二夫…、皆映画が大好きで、パロディ的なものを描いたり、漫画の中に映画的な技法や見せ方を取り入れたりもした。映画が衰退し、漫画が発展する中、「本来は映画監督になるような才能の持ち主が、漫画家になってしまった」と嘆いた映画関係者もいたという。
後にNHKの銀河テレビ小説でドラマ化された「まんが道」(86・87)も、満賀(竹本孝之)が勤める立山新聞社の虎口部長(蟹江敬三)、先輩の西森光男(イッセー尾形)。トキワ荘仲間の手塚治虫( 江守徹)、寺田ヒロオ(河島英五)、赤塚不二夫(松田洋治)、森安直哉(森川正太)。ケーシー高峰、頭師孝雄、赤塚真人、北村総一朗、高田純次らが演じた出版社の漫画担当の記者たちなど、満賀と才野(長江健次)を取り巻く人々が皆魅力的に描かれ、忘れ難いドラマとなった。長渕剛の曲を竹本がカバーしたテーマ曲『HOLD YOUR LAST CHANCE』も印象深い。この中でも、トキワ荘の住人たちが、見てきた映画を熱く語る場面があったと思う。