『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(2022.4.6.京橋テアトル)
1990年代のニューヨーク。作家を夢見るジョアンナ(マーガレット・クアリー)は、老舗出版エージェンシーでJ・D・サリンジャー担当のマーガレット(シガーニー・ウィーバー)のアシスタントとして働き始める。
ジョアンナの仕事は、世界中から大量に届くサリンジャーへの熱烈なファンレターの対応処理。それは、簡単な定型文を返信するだけの作業だったが、ジョアンナは、心に訴えかける手紙を読むうち、自分の文章で返信を出し始める。そんなある日、サリンジャー本人から一本の電話が入る。
ジョアンナ・ラコフの自叙伝を映画化。監督は『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』(14)のフィリップ・ファラルドー。
大まかにいえば、都会で「特別な存在」になりたいと願うジョアンナの自分探しを描いた映画で、単なるわがまま女の勘違いドラマになりかねないところを、彼女にウィーバーが好演する上司とサリンジャーを絡ませることで回避している。
サリンジャーの小説を読んだことがないジョアンナが、彼と関わることで変化していく様子が面白いし、彼の存在を通して出版やエージェントの裏側を知ることもできる。つまり、この映画の裏の主役はサリンジャーなのだ。だからタイトルも「My Salinger Year」となるわけだ。
サリンジャーは、突然作家を辞めて隠遁したことで伝説となったユニークな存在。それ故、創造が入る余地が生まれ、一種のアイコンとして映画や小説にも登場する。
例えば、サリンジャーに会いに行く高校生を描いた『ライ麦畑で出会ったら』(15)があるし、『フィールド・オブ・ドリームス』(89)の原作であるW・P・キンセラの『シューレス・ジョー』では、主人公が会いに行く作家は映画とは違いサリンジャーなのだ。
また、『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』(17)という、彼自身の半生を描いた映画もあるが、こちらは未見。
さて、自分にとってのサリンジャーは、若き編プロ時代に同僚に勧められて『ライ麦畑でつかまえて』を読んでみたのだが、あまりピンとこなかった覚えがある。むしろ短編集の『九つの物語=ナイン・ストーリーズ』の方が好きで、中でも「笑い男」が強く印象に残っている。
『ライ麦畑で出会ったら』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/a5a2d66cb9d5d1669c16bf487f5d0dca
『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/a5d40416125e2639dbd28aeabac9d5b0