田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『黒革の手帖』(日本映画専門チャンネル) 

2022-04-13 22:51:09 | テレビ

 松本清張の同名小説を松竹がドラマ化した『黒革の手帖』の1984年版が、日本映画専門チャンネルで一挙放送されている。

 巨額の金を横領し、銀行員から銀座のクラブのママに華麗に転身した原口元子(大谷直子)の生きざまを描いた、一種のピカレスク(悪漢)ロマン劇で、TBS系の「花王 愛の劇場」で放送されたもの。つまり昼メロだが、妻に付き合って見てみたら、これが面白くて、やめられなくなった。さすがに清張原作だけのことはある。

 色香たっぷりの悪女ぶりが圧巻な大谷に加えて、戸浦六宏、梅津栄といったくせ者たちが脇を固める。最近では、米倉涼子や武井咲も元子を演じたが、やはりこの役は、大谷のような昭和の女優の方がよく似合う気がする。

 監督は、大映出身の富本壮吉と松竹出身の番匠義彰だから映画的なところもあるが、脚本は、柴英三郎、田上雄、鶴島光重、田口耕三といった2時間ドラマの常連たちだから、映画とドラマの狭間のような味わいがある。そして、80年代初頭の風景も懐かしく映る。

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『カモン カモン』

2022-04-13 12:49:14 | 新作映画を見てみた

『カモン カモン』(2022.4.12.オンライン試写)

 ニューヨークで一人暮らしをするラジオジャーナリストのジョニー(ホアキン・フェニックス)は、妹ヴィヴ(ギャビー・ホフマン)から頼まれて9歳の甥ジェシー(ウディ・ノーマン)の面倒を数日間見ることになる。

 2人が送る日々を、デトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオリンズと舞台を移しながら、印象的なモノクロームの映像で描く。『ジョーカー』(19)での怪演が記憶に新しいフェニックスが、一転して、子どもに振り回され、悩みながらも愛情を注ぐ伯父役を好演している。

 もちろん、この映画の最大の見どころは、ジョニーとジェシーの変化の様子だが、監督・脚本のマイク・ミルズが「自分が作る映画は、どれも母へのラブレターになる」と語るように、この映画の裏の主役は、ホフマン演じるジェシーの母ヴィヴである。彼女は精神を病んだ夫(スクート・マクネイリー)の面倒を見ながら、息子の世話をしてくれている兄に、電話でさまざまな指示を出し、悩みに応える。つまり、実はこの映画全体を掌握しているのは彼女なのである。

 また、ジョニーが仕事として各地の子どもたちにインタビューをする様子が挿入されるが、この部分は脚本なしのドキュメンタリ―だという。そこで子どもたちが語る大人顔負けのコメントに驚かされたり、感心させられたりもした。彼らとジェシーがオーバーラップしてくるところが、この映画のうまいところだ。

 さて、自分も、この映画のジョニーと同じ年頃の独身時代に、一時期甥の面倒を見たことがあった。それゆえ、ジェシーに振り回されるジョニーを見ながら、身につまされたり、懐かしく感じるところもあり、改めて、かわいらしさと憎たらしさが同居し、時には天使のように、また悪魔のようにも変化する子どもの存在とは一体何なのか、などと考えさせられた。実は子どもの世話をすることで、何かを学ぶことの方が多いのかもしれない。

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『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』

2022-04-13 06:53:12 | 新作映画を見てみた

『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(2022.4.6.京橋テアトル)

 1990年代のニューヨーク。作家を夢見るジョアンナ(マーガレット・クアリー)は、老舗出版エージェンシーでJ・D・サリンジャー担当のマーガレット(シガーニー・ウィーバー)のアシスタントとして働き始める。

 ジョアンナの仕事は、世界中から大量に届くサリンジャーへの熱烈なファンレターの対応処理。それは、簡単な定型文を返信するだけの作業だったが、ジョアンナは、心に訴えかける手紙を読むうち、自分の文章で返信を出し始める。そんなある日、サリンジャー本人から一本の電話が入る。

 ジョアンナ・ラコフの自叙伝を映画化。監督は『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』(14)のフィリップ・ファラルドー。

 大まかにいえば、都会で「特別な存在」になりたいと願うジョアンナの自分探しを描いた映画で、単なるわがまま女の勘違いドラマになりかねないところを、彼女にウィーバーが好演する上司とサリンジャーを絡ませることで回避している。

 サリンジャーの小説を読んだことがないジョアンナが、彼と関わることで変化していく様子が面白いし、彼の存在を通して出版やエージェントの裏側を知ることもできる。つまり、この映画の裏の主役はサリンジャーなのだ。だからタイトルも「My Salinger Year」となるわけだ。

 サリンジャーは、突然作家を辞めて隠遁したことで伝説となったユニークな存在。それ故、創造が入る余地が生まれ、一種のアイコンとして映画や小説にも登場する。 

 例えば、サリンジャーに会いに行く高校生を描いた『ライ麦畑で出会ったら』(15)があるし、『フィールド・オブ・ドリームス』(89)の原作であるW・P・キンセラの『シューレス・ジョー』では、主人公が会いに行く作家は映画とは違いサリンジャーなのだ。

 また、『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』(17)という、彼自身の半生を描いた映画もあるが、こちらは未見。

 さて、自分にとってのサリンジャーは、若き編プロ時代に同僚に勧められて『ライ麦畑でつかまえて』を読んでみたのだが、あまりピンとこなかった覚えがある。むしろ短編集の『九つの物語=ナイン・ストーリーズ』の方が好きで、中でも「笑い男」が強く印象に残っている。

『ライ麦畑で出会ったら』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/a5a2d66cb9d5d1669c16bf487f5d0dca

『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/a5d40416125e2639dbd28aeabac9d5b0

 

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