田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

「BSシネマ」『アルプスの若大将』

2022-04-11 07:33:03 | ブラウン管の映画館

『アルプスの若大将』(66)(1992.2.)

 若大将こと京南大学の田沼雄一(加山雄三)は、建築学の論文が学会で認められ、ヨーロッパ旅行へ招待されるが、青大将こと石山新次郎(田中邦衛)も同行する。スイスでスキーを堪能した雄一は、航空会社に勤める澄子(星由里子)と知り合う。ヨーロッパ各地で撮影されたシリーズ第7作。

 アルベールビルオリンピックに当て込んでの放映。まさに、このシリーズこそは“1960年代東宝明朗路線”の最たるもの。今改めて見直すと、全く屈託がなく、あきれてしまうほどだ。

 あの時代は幸せだったとも言えるが、実際は、物質的には今ほど豊かではなく、庶民の多くは、こんな生活を送れるはずもない。つまり、この若大将や植木等の無責任男や森繁久彌の社長といった映画に、庶民は夢を託していたとも思えるのだ。

 今回新たに気づいたのは、マドンナの澄ちゃんの持つ嫌らしさだった。彼女が示すあきれるばかりの身勝手さは、今の勘違い女性たちにも通じるものだから、そうした意味でも、このシリーズは時代を先取りしていたのかもしれない。

【今の一言】今回の放映は田中邦衛追悼だという。

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「BSシネマ」『トキワ荘の青春』

2022-04-11 07:27:00 | ブラウン管の映画館

『トキワ荘の青春』(95)(1996.12.27.)

 1950年代、漫画の神様・手塚治虫(北村想)をはじめ、寺田ヒロオ(本木雅弘)、藤子不二雄(鈴木卓爾、阿部サダヲ)、石ノ森章太郎(さとうこうじ)、赤塚不二夫(大森嘉之)、森安直哉(古田新太)、鈴木伸一(生瀬勝久)、つのだじろう(翁華栄)、水野英子(松梨智子)ら、後に日本を代表する漫画家となった若者たちが集った東京のトキワ荘。

 生活は貧しくとも漫画に全ての情熱を注ぎ、「新漫画党」を結成して新しい漫画について語り合った、若き日の彼らの友情と絆、青春を市川準監督が史実とフィクションを織り交ぜて描く群像劇。


 市川準の作為的な暗く静かな演出に疑問を抱かされた。これでは彼らが集っていた時代がまるで暗黒のようである。

 もちろんそこには、例えば、藤子不二雄Aの『まんが道』やそれを描いたドラマで、貧しくとも楽しかった時代を見たような気になり、この映画では主人公となった寺田ヒロオを、朗らかな理想のリーダー、兄貴分というイメージで捉えるようになったこととのズレが、余計にそう感じさせたところはあるだろう。だが、やはりこれではあまりにも…である。

 どうも市川準という人は、クレイジーキャッツを使った『会社物語 MEMORIES OF YOU』(88)もそうだが、われわれが抱く憧れや、人が集う楽しさに対して、「現実はこうなのだよ」とばかりに、冷や水を浴びせるような意地悪さが見え隠れするところがある。だから、これが、もし彼流の登場人物への愛情表現だとしても、随分屈折してますなあ、というほかはない。

 この暗い映画の中での発見は、本木雅弘の静かな演技者としての再評価だったのだが、それが即映画の出来の良さとは一致しないところが難しいのだ。

【今の一言】と、随分辛口の言葉を吐いていたが、『トニー滝谷』(04)でインタビューをした際に、映画好きのとてもいい人だということが分かり、映画作りの姿勢も聞けたので、そうしたことを踏まえて、この映画ももう一度じっくりと見てみる必要があると思いながら、ずっと棚上げになっていた。

【インタビュー】『トニー滝谷』市川準監督
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/84b13d3bfb9242b59a7c1427ac35da53

 

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