ふと見上げたら、山側から黒い雲海が、海側の紺碧の空へ流れている。それはそこを侵略しているように見える。ふと、何か現世を風刺する空模様のように思えた。
南で北で日本の国土が侵されようとしている。「日本人は国境ということについて意識が薄い、いや、無いとも言える」そんな文章を読んだ。その原因は国境が海上にあるからだという。海の上には線が引けない。確かに隣の国が海を隔てたところにあり、大陸で国境を接する国々とはそれへの意識が違う。
遠く離れた中東では長年続いた独裁といわれる体制に大きな亀裂が波紋のように広がっている。中東は日本の産業、いや世界のそれに欠かせない原油の産油地域。その重要性から世界がそこでの覇権を狙っている。この地域の不安定は世界の政治・経済に影響をおよぼす。
今、流れている黒い雲は海の彼方で自然に消滅する。だから、そんなことがあったことすら思い出すことはないかもしれない。人や国が絡むとそうはいかない。厄介なことに連なる。
大きな広い空のような心を持てば解決の途が見えるのだろうか。水面を気ままに泳ぐ冬鳥を眺めながらそんなことを思っていた。
(写真:黒い雲が晴れた域へ流れ込んでいる)