日々のことを徒然に

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車の旅

2018年12月22日 | エッセイサロン
2018年12月22日 中国新聞セレクト「ひといき」掲載

 弟は自宅から50㎞離れた会社に通っていた。その会社から「会社と独身寮の見学会」の案内が届いた。両親が「見に行きたい」と強く希望するので、私は車を借りて連れて行った。

 見学会に満足して帰る途中、父は初のドライブに上機嫌だった。「退職したら車を買う」と言った。母は大きくうなずいた。翌春の退職が決まっており、家族皆、納車の日を楽しみにした。しかし3カ月後、父は急逝。車は幻となった。

 それから3年が過ぎた。ローンを組んだ中古車が、我が家初の車としてやって来た。入園前の息子ははしゃぎ、母も喜んだ。

 初めてのドライブは母、妻、息子を乗せ1泊2日で山陰へ旅した。地図が唯一の頼りの時代。ルートを丸暗記して、ポイントはメモしていた。

 その時、母は父の写真を懐にしのばせていた。「車を買う」と言った父に家族でドライブする楽しさを味わわせたかったのだ。母と写真との旅は、母が亡くなるまで20年余り続いた。

 そこに父と母の強い絆を感じていた。母と旅した父の写真は、ひつぎの母の胸に納めた。

 三十数年が過ぎた。免許証を持たない両親だったが、なぜか車の旅に出る二人を想像してしまう。

 私はマイカー歴50年になった。最近は遠出せず、買い物や通院など身近な運転が多い。そうした中、70代最後の免許更新を終えた。免許取得以来、安全運転を続けるからこそ、いい思い出が残っていると思った。
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