新時代の経済政策<怪談噺>
8月も今日で終わりです。夏は怪談噺の季節です。という事で、夏の終わりに「経済の怪談噺」は如何でしょうか。
<時は1980年前後>
アメリカ、ヨーロッパ生産性は上がらず、労使関係不安定で賃金コストは上昇し、軒並みスタグフレーション。アメリカ病、イギリス病、ドイツ病、フランス病など各国はスタグフレーション病に苦しみました。ミザリーインデックス (インフレ率と失業率の合計)はドイツ以外は、政権交代を呼ぶといわれる20パーセント越えを記録していました。
結果はデータに忠実で、アメリカはカーター大統領からレーガン大統領へ、イギリスは労働党が敗れて保守党のサッチャー首相が登場、フランスはドゴールを破ってミッテラン大統領が誕生。
レーガン改革、サッチャー改革をご記憶の方も多いと思います。最低賃金大幅アップを公約して当選したミッテランも、最後には最低賃金を凍結してフランス病を治療。
その中で日本は、賢明な労使の行動の結果、第2次オイルショックを乗り切り不快指数はわずか5~6パーセント、「ジャパンアズナンバーワン」と言われ、欧米のスタグフレーションを尻目に、健全経済を謳歌していました。
おさまらないのはアメリカ、日本の独走を何とか阻もうと考えたのが、日本に「円切り上げ」を迫ることでした。
1985年、折しも、ニューヨークのプラザホテルでG5開催。この機を逃さじと日本に円切り上げを迫れば、日本はその気迫に押されて、「ハイ解りました」と言ったようです。
OKを取ったからには押せ押せムード、国際投機資本の協力もあり、2年後には$1=¥240が$1=¥120に。 ゴルフのプライベートコンペで、「優勝したからハンデは5割カット」と24のハンデを12にされたようなもの。こうして日本は20年近くブービーメーカーに定着することになりました。
<時は2000年代に移ります>
何とかこの苦境から脱出したいともがく日本は、工場の海外移転、国内では賃金切り下げ、学卒採用停止、非正規雇用増加、と言った苦肉の策でコストを切り下げ、失業の増加、離婚の増加、犯罪の増加などの社会的犠牲を払いつつ、$1=¥120でも何とかやれそうになってきたのが2002年でした。
ブービーメーカーから少しずつ順位を上げていけるかなと思ったのがいわゆる「いざなぎ越え」の6年ほど、一方アメリカは、レーガン改革でIT産業の発展などある程度の成果は上げましたが、その浪費性は収まらず、双子の赤字の垂れ流しは続いたままです。
ヨーロッパはどうかといいますと、サッチャー改革の成功で、イギリスはかなりの改善を見ましたが、大陸主要国は、労働組合は強く、賃金コストプッシュは収まらず、EUを拡大して低賃金国も取り込み、コストを下げようと努力しましたが、逆に東ヨーロッパへの工場脱出や、拡大EUの経済力への期待からユーロ高が起こり空洞化やコスト高で苦労の連続です。
<2008年から現在へ、日本は奈落への道>
双子の赤字の垂れ流しの中で「来るぞ、来るぞ」と言われていたアメリカ経済の破綻が、サブプライムローンという虚構に乗った住宅バブルの破裂で現実になってしまいました。世界中の銀行が、毒入り餃子ならぬ毒入り証券で、強烈な下痢を起こし、体力の回復には政府の支援しかないといった状況になりました。
もともと証券価値の信用によって成り立っていたアメリカ経済は、アメリカ証券の信用失墜で、まさに窮地です。
この時期までには、日本も病みあがりながら多少元気になり、新興の巨大中国が世界経済に大きな影響を与えるようになってきました。
アメリカは傷ついた体で、なお経済覇権を維持しようと、アメリカに対して最大の債権国となった中国に、かつて日本に迫ったように「人民元の切り上げ」を迫りましした。しかし中国は日本とはまるで違います。「決めるのはアメリカではない、中国だ」といって譲りません。
アメリカの象徴GMの倒産、リーマンショックによる金融界の混乱で、アメリカも、いよいよ強いドルを誇示することを諦めなければならなくなったようです。海外から資金を調達できないアメリカは、過剰消費を切り落とし、GMのように、ひと回り小ぶりにならないと再建は不可能です。
こうしてアメリカはドル安容認に向かいつつあります。
折しもEUに、ギリシャのソブリンリスクが言われることになりました。リーマンショック以来神経過敏になっている国際投資資本は、未経験の事態に慌てふためき(本当はこのチャンスに儲けようと?)ユーロ売りに走り、ユーロは大幅に下落することになりました。
これは、ユーロ圏諸国にとっては干天の慈雨(コスト高の解消要因)でした。いまや、フォルクスワーゲンもベンツも、プジョーも、フィアットも、値下げや補助金で積極的な販売攻勢です。
<これからの恐ろしい怪談>
アメリカはドル安を認める事で、アメリカ経済の防衛、アメリカ企業の防衛を計るでしょう。国際投機資本はそこにまた儲ける機会を見出そうとするでしょう。
EUは大変重要な経験をしました。内部の小さな国のソブリンリスクで、ユーロを下落させ、積み上げてきたコスト高を帳消しにするという経済政策です。これを活用すれば、ホームメイドインフレ怖るるに足らずです。
中国は「自国の為替レートは自分で決める」という政策を堅持する力の持ち主です。
日本では真面目な国民が、さらに生活を切り詰め、貯金をして、経常赤字が出ないように国を支えるでしょう。円はとめどなく高くなる可能性がありますが、日本の政府も日銀もそれに対抗するすべを知りません。ただ右往左往するだけです。皺寄せは先ず日本企業にそして結局は日本国民全体にです。「失われた10年」は10年で終わらずいつまでも続く無間地獄ならぬ無限地獄・・・・・、こんな恐ろしい世の中になりつつあるのです。
8月も今日で終わりです。夏は怪談噺の季節です。という事で、夏の終わりに「経済の怪談噺」は如何でしょうか。
<時は1980年前後>
アメリカ、ヨーロッパ生産性は上がらず、労使関係不安定で賃金コストは上昇し、軒並みスタグフレーション。アメリカ病、イギリス病、ドイツ病、フランス病など各国はスタグフレーション病に苦しみました。ミザリーインデックス (インフレ率と失業率の合計)はドイツ以外は、政権交代を呼ぶといわれる20パーセント越えを記録していました。
結果はデータに忠実で、アメリカはカーター大統領からレーガン大統領へ、イギリスは労働党が敗れて保守党のサッチャー首相が登場、フランスはドゴールを破ってミッテラン大統領が誕生。
レーガン改革、サッチャー改革をご記憶の方も多いと思います。最低賃金大幅アップを公約して当選したミッテランも、最後には最低賃金を凍結してフランス病を治療。
その中で日本は、賢明な労使の行動の結果、第2次オイルショックを乗り切り不快指数はわずか5~6パーセント、「ジャパンアズナンバーワン」と言われ、欧米のスタグフレーションを尻目に、健全経済を謳歌していました。
おさまらないのはアメリカ、日本の独走を何とか阻もうと考えたのが、日本に「円切り上げ」を迫ることでした。
1985年、折しも、ニューヨークのプラザホテルでG5開催。この機を逃さじと日本に円切り上げを迫れば、日本はその気迫に押されて、「ハイ解りました」と言ったようです。
OKを取ったからには押せ押せムード、国際投機資本の協力もあり、2年後には$1=¥240が$1=¥120に。 ゴルフのプライベートコンペで、「優勝したからハンデは5割カット」と24のハンデを12にされたようなもの。こうして日本は20年近くブービーメーカーに定着することになりました。
<時は2000年代に移ります>
何とかこの苦境から脱出したいともがく日本は、工場の海外移転、国内では賃金切り下げ、学卒採用停止、非正規雇用増加、と言った苦肉の策でコストを切り下げ、失業の増加、離婚の増加、犯罪の増加などの社会的犠牲を払いつつ、$1=¥120でも何とかやれそうになってきたのが2002年でした。
ブービーメーカーから少しずつ順位を上げていけるかなと思ったのがいわゆる「いざなぎ越え」の6年ほど、一方アメリカは、レーガン改革でIT産業の発展などある程度の成果は上げましたが、その浪費性は収まらず、双子の赤字の垂れ流しは続いたままです。
ヨーロッパはどうかといいますと、サッチャー改革の成功で、イギリスはかなりの改善を見ましたが、大陸主要国は、労働組合は強く、賃金コストプッシュは収まらず、EUを拡大して低賃金国も取り込み、コストを下げようと努力しましたが、逆に東ヨーロッパへの工場脱出や、拡大EUの経済力への期待からユーロ高が起こり空洞化やコスト高で苦労の連続です。
<2008年から現在へ、日本は奈落への道>
双子の赤字の垂れ流しの中で「来るぞ、来るぞ」と言われていたアメリカ経済の破綻が、サブプライムローンという虚構に乗った住宅バブルの破裂で現実になってしまいました。世界中の銀行が、毒入り餃子ならぬ毒入り証券で、強烈な下痢を起こし、体力の回復には政府の支援しかないといった状況になりました。
もともと証券価値の信用によって成り立っていたアメリカ経済は、アメリカ証券の信用失墜で、まさに窮地です。
この時期までには、日本も病みあがりながら多少元気になり、新興の巨大中国が世界経済に大きな影響を与えるようになってきました。
アメリカは傷ついた体で、なお経済覇権を維持しようと、アメリカに対して最大の債権国となった中国に、かつて日本に迫ったように「人民元の切り上げ」を迫りましした。しかし中国は日本とはまるで違います。「決めるのはアメリカではない、中国だ」といって譲りません。
アメリカの象徴GMの倒産、リーマンショックによる金融界の混乱で、アメリカも、いよいよ強いドルを誇示することを諦めなければならなくなったようです。海外から資金を調達できないアメリカは、過剰消費を切り落とし、GMのように、ひと回り小ぶりにならないと再建は不可能です。
こうしてアメリカはドル安容認に向かいつつあります。
折しもEUに、ギリシャのソブリンリスクが言われることになりました。リーマンショック以来神経過敏になっている国際投資資本は、未経験の事態に慌てふためき(本当はこのチャンスに儲けようと?)ユーロ売りに走り、ユーロは大幅に下落することになりました。
これは、ユーロ圏諸国にとっては干天の慈雨(コスト高の解消要因)でした。いまや、フォルクスワーゲンもベンツも、プジョーも、フィアットも、値下げや補助金で積極的な販売攻勢です。
<これからの恐ろしい怪談>
アメリカはドル安を認める事で、アメリカ経済の防衛、アメリカ企業の防衛を計るでしょう。国際投機資本はそこにまた儲ける機会を見出そうとするでしょう。
EUは大変重要な経験をしました。内部の小さな国のソブリンリスクで、ユーロを下落させ、積み上げてきたコスト高を帳消しにするという経済政策です。これを活用すれば、ホームメイドインフレ怖るるに足らずです。
中国は「自国の為替レートは自分で決める」という政策を堅持する力の持ち主です。
日本では真面目な国民が、さらに生活を切り詰め、貯金をして、経常赤字が出ないように国を支えるでしょう。円はとめどなく高くなる可能性がありますが、日本の政府も日銀もそれに対抗するすべを知りません。ただ右往左往するだけです。皺寄せは先ず日本企業にそして結局は日本国民全体にです。「失われた10年」は10年で終わらずいつまでも続く無間地獄ならぬ無限地獄・・・・・、こんな恐ろしい世の中になりつつあるのです。