tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

日本:不思議な国の「賃金・物価」物語

2023年11月30日 14時12分44秒 | 経済
日本の賃金が「あまりに上らない」からでしょう、公正取引員会が、
「賃上げを価格転嫁する」ための「企業の行動指針」
を取りまとめて公表しました。

これは大変結構なことで、このブログでも、「賃上げの力のない中小企業などが賃上げをしたら、その分を価格転嫁できるようにすればよい」と指摘して来ました。

おそらく世界の先進国を含む多くの国でこの話を聞いたら、政府機関が、賃上げした分価格転嫁してよいと言ったら、たちまち経済は賃金インフレになって、結果は賃金物価のスパイラルで、ハイパーインフレが発生しますよ。そんな国は、すぐに国際競争力を失って立ち行かなくなるだけだよ、と物笑いになりそうです。

ところが、日本では、経済活動についてのレフェリーの代表である公正取引委員会が、それをやりなさいと指針まで公表するというのです。

報道による内容の主要点を挙げますと、
発注する企業に対しては、人件費の転嫁を受け入れる取り組み方針を経営トップまで上げて決定し、社内外に示すこと、といった懇切な説明があります。

受注する企業に対しては、価格交渉の際は根拠として最低賃金の上昇率や春闘の妥結額などの公表資料を利用することや、価格を提示する際には自社のみならず、下請け企業などの人件費も考慮して行うこと、とこれまた、まさに懇切丁寧な説明があります。

何で、世界の中で日本だけ、こんな事が起きるのかについては、少し先回りして、このブログの「賃上げ圧力の弱い社会」で説明し、そんなに賃上げを奨励しても日本経済は大丈夫なのかは、「日本経済活性化の鍵」以降の3回シリースで分析しています。

岸田政権の大きな間違いは、政府がカネをばら撒けば経済が活性化するという自己都合中心の経済政策(補助金、給付金は票につながるという期待感)しか見えないという事でしょう。財源は赤字国債だと国民は知ってます。

今回の公正取引委員会の政策は、純粋に「良いルールの設定」と、「レフェリー」に徹することで日本経済の活性化と図るという「本来の」経済政策の在り方の実践であるという点が素晴らしいと思います。

岸田政権が赤字財政でのバラマキでなく、この公正取引委員会の方針に最重点を置けば、効果はバラマキの何倍も大きいでしょう。

理由は、経済の現実のプレーヤーである「労使の行動」によって直接に経済活動のバランスを回復する事が可能になるからです。

アベノミクス以来、日本は「インバウンドは日本がリード」などと言われるほど、物価もそして賃金も安い国になって、しかも賃上げを皆が遠慮している国なのです。
このまま放置すれば、プラザ合意の時のように、世界で問題にされる恐れすら予見されます。

やらなければならない事は解っているのです(賃金水準の引き上げです)。
多分、日本経済の活性化は、「不思議な国日本」が、「不思議な国」でなくなるのと同時にスタートという事になるのではないでしょうか。

防衛力整備計画と為替レート

2023年11月29日 14時06分40秒 | 政治
岸田政権からよく聞かれる言葉に「国民の生命と財産を守る」というのがあります。
振り返ると安倍政権のころからこの言葉は良く使われていて、岸田総理もそれを引き継いでいるのかもしれません。

ロシアのウクライナ侵攻、習近平の台湾は中国発言で台湾有事などという言葉が一般的になったことを背景に、この言葉は、自然災害からの守りの強化、国土強靭化中心から、国際情勢の変化の中で、国際紛争(戦争)を意識したものに変わってきたようです。

国際情勢が変わってきたのは、本当に困った事ですが、敵基地攻撃能力も含めて、防衛力をいくら強化しても、「国民の生命と財産を守る」事に繋がってくれるのでしょうか。

「国民の生命と財産を守る」のには戦争をしない事が一番なのです。徹底的に平和外交で国を守ることが先ず大事でしょう。

戦争をすれば、ロシアのウクライナ進行でも、パレスチナ、イスラエル問題でも明らかですが、必ず生命も財産の失われることになります。
民間人も含め多くの生命が失われ、巨額の防衛装備は地上の残骸や海の藻屑となるのです。

防衛力の強化をうたって戦争防止というのも大変危ない選択で、これは相手に戦う意思のあることを明示することになりますから、相手次第で効果は大きく違います。

幸いにして戦争が避けられたとしても強化した防衛装備品は不良在庫となり、忽ち陳腐化して、廃棄処分、減損となって国民の財産は失われるのです。

これは戦争というものの現実ですが、戦争までいかないための日本の平和外交努力に期待しつつ、補正予算の審議の中での防衛力整備計画の43兆円の議論を聞いて、そんなことだったのと驚いた点を指摘しておきたいと思います。

2023年度から5年間の防衛費を従来の5割増しとして43兆円し、その財源は確保したという事でした。
但しその後の異次元少子化対策や国土強靭化計画は計画だけで、財源の手当ては未だなく、これからの検討になるというので、これにも些か呆れて来ていました。

少子化対策の財源は3兆円とかで現在、定額減税、増税メガネなどと議論かまびすしいところですが、防衛費の太宗を占める防衛装備品の価格については、アメリカから買うのでドル建てで、円安になればその分値上がりする事が国会の議論で解ったのです。

円で財源確保したというので、43兆円の範囲で賄うのかと思ったのですが、アメリカとの話は量的で飛行機が何機、イージス艦が何隻とかいうことになっているようで、それなら円安になったら、その分値上がりするのです。

国会答弁では円レート108円の計算だそうですから、148円ですと1ドルの支払いごとに40円増やさないと約束したものは買えません。
円レートを108円に戻さないと43兆円も財源確保も「嘘」になります。

やるべきことは円レートを早く108円に戻すか、アメリカにドル高になった分は装備品購入を減らしますと言うのかどちらかになります。

日本政府にはどちらも出来そうにないのですが、岸田さんはどうするのでしょう。

これからのGDP四半期報の度に、「政府固定資本形成」の項目の動きを確り見ていきたいと思うところです。

金属労協、ベア10,000円以上の要求へ

2023年11月28日 12時00分26秒 | 労働問題
金属労協(JMC)が来春闘で、今春闘の6,000円を大幅に上回るベア10,000円の要求で最終調整をしていると今朝の朝日新聞が伝えています。

報道では、金属労協の要求としても過去最高のという事ですが、国際関係をベースにした日本の労働組合組織の動きだけに、そして自動車、電気、基幹など金属関連の産業の労働組合をカバーする協議会組織で、日本の金属産業の主要企業の殆どの組合が参加にいる組織であるだけに来春闘への影響が注目されるところです。

金属労協は、1964年、日本経済が高度成長華やかな頃、日本の金属産業が発展し輸出産業としても世界に注目され始めた頃、IMF(International Metal Federation )の日本委員会(IMF・Japan Committee)として発足したもので、これで日本の金属産業労組も世界主要国の金属産業労組の仲間入りをしたという誇り高い組織です。

春闘華やかなりし頃は鉄鋼労連を中心に、日本の春闘をリードした組織という事も出来ましょう。

世界の産業構造は時代と共に変化し、今は自動車、半導体といったことになって来たようですが、世界の産業構造、貿易構造は、矢張り金属産業が主体という事は大きく変わってはいないようです。

金属労協は、国際的にも、国内的にも主要な産業として、世界経済の発展、変容をリードする産業の労働組合の連帯組織の一員として、今日も重要な役割を持つ組織であると同時に、どちらかというと、常に、国際関係を重視し、民主的労使関係、合理的な活動を主導する労働組合組織と評価される側面を持つという伝統を持っています。

その金属労協がこのところ、連合傘下の組合の組織ではありますが、連合と些か違う春闘を目指しているという事は、国際的により広い視野で見た場合、日本の春闘はこうあるべきではないかという提案をしていると解釈できるような気もするところです。

卑近な例では、アメリカのUAWがビッグ3に対して一斉スト迄打つ労使交渉を展開、アメリカの中間層の復活の方向への意思を示したように、世界的に停滞していた労働運動が、ここにきて動き始めたと感じられる状況もあります。

日本は停滞する労働運動の最右翼かもしれませんが、日本社会も格差化が進み、中間層の縮小が言われる中で、所得水準の国際ランキングは落ちるばかりですが、その中で、賃金水準の停滞、それに加えてアメリカの金利政策によって強いらえた円安が重なり、金属産業の国際競争力は、「開発ではなくコストダウン」で強化されるという状態です。

上記のIMFは、今は「インダストリオール」と名称変更しているそうですが、その主要メンバーとしての金属労協としては、多少とも、国際的に見て合理性のある春闘をリードしなければならないという意識もあるのではないかと思量するところです。

今朝の報道を見て、日本経済は世界に繋がっているのですから、春闘も世界的な視野で見る必要もあるのではないかという事も感じさせられたところです。

補正予算では「自家製デフレ」脱却は無理では?

2023年11月27日 15時29分51秒 | 経済
朝食の後、9時のニュースが5分繰り上がって、9時からは参議院の予算審議の中継でした。

立憲の辻元議員の質問が始まっていましたが、総理の答弁の基本的な柱は、来年度にかけての目標はデフレの脱却を何とか果たしたいという事のようでした。

これは、総理は勿論、国民全体にとっても望ましい事で、このブログでも、その実現にお役にたつような情報でお手伝い出来ればと、基礎データの点検から、方法論、実践目標迄いろいろな形で指摘して来ているつもりです。

総理の答弁が、官僚の書いたシナリオそのものか、それとも岸田理論が強く出ているのかは解りませんが、残念ながら、デフレ脱出はあまり巧く行かない可能性が高いという感じでした。

そう感じてしまう原因は、総理が一生懸命、政府がやりますからという態度を繰り返し強調し、その態度も言葉も異常に力が入っていたからです。
今のデフレは「自家製デフレ」ですから、国民の意識が作っているものです。国民の意識が変わり、国民が自分で直さなければ直りません。

自家製インフレの時(第一次石油危機直後)は、労使が気付き、協力して直しました。
自家製デフレはその逆の現象が起きているのですから、労使が気付いて、あの時の逆をやらないと直らないのです。

政府は、主役にはなれないので、脇役に甘んじて、環境整備に知恵を絞るのがいいのですが、(支持率低下もあるので?)何とか現政権の力でやって、「デフレを克服した」と胸を張りたいのでしょうか、異常な熱の入れ方で、余り合理的でない方法を補正予算で押し通そうとしているといった姿です。

今のデフレは、日本経済の置かれた客観情勢の中では、企業が従業員への配分を増やして行けば、容易に自然治癒する性質のものですが、労働組合は要求を遠慮し、経営側は、自らの努力を超える利益も、自分の努力の結果と見誤ったのか、従業員や社会に配分しようとしないという事に最大の原因があるのです。

残念ながら政府は、嘗て政府が手を打って不況を克服したと言われる事例を誤って解釈し、財政政策(赤字国債→補正予算)で解決できると勘違いをしているように思われます。

確かにそんな事例はありました。
戦後盛大の不況と言われた昭和40年不況は、当時の福田総理の「国債を発行します」の一言で解結しましたし、第一次石油危機の後、賃上げ率を下げ続けた時の不況は「赤字国債の発行を認める」という決定で脱出しバブル景気に繋がりました。

これで国債発行というマジックは使い果たし、後の国債発行は国民の将来負担の心配を増すだけ(土光臨調の主要テーマ)になったのです。

そういう意味では、企業が(あるいは労使が)自力で賃上げをし、国民所得の「雇用者報酬と営業余剰の配分」(労働分配率)を変えるべき所を、政府が、赤字国債を原資に企業に補助金(賃上げ減税など)を出して賃上げを勧めても効果は限定的でしょう。

この辺りは11月22日のこのブログの図表「法人企業製造業の付加価値の分配の推移」をご覧いただければ歴然ですが、「円安になった時の労働分配率低下」を防ぐために役立つ「賃上げ圧力」が極めて弱い日本の労使関係が、デフレ脱出を困難にしている要因ともいえるでしょう。

つまり、政府がプレーヤーになっても出来る事は限られていて、本質的な問題解決の手段がないのに、国会では与野党が、本来のプレーヤーである労使そっちのけで、余り役に立ちそうにない政策論を大変熱心にやっているので、途中から、このブログを書き始めたという所です。皆様はどんな風にお考えでしょうか。

時間は主観的なものか? 客観的なものか?

2023年11月25日 10時12分40秒 | 文化社会
今日は土曜日です。もう大分前のことですが、矢張り土曜日に「時間と宗教」というテーマで書いています。

土曜日は、あまり世俗の現実については書きたくないような気がすることもあって、あの時は何となく「時間と宗教」の関係を考えてみようと思ったのです。

それなりに納得できる結論になったような気がしています。
時間について広汎な研究体制をお持ちの大阪大学の北澤茂教授によれば、人間の大脳の頭頂葉内側面の後方に位置する脳回の「楔前部(けつぜんぶ)」という所が、経験した事を文字通り時系列に脳に記憶させる仕分けを司る所だということです。

ここは認知症の原因になるアミロイドβが溜り易い所で、それが溜ると時間感覚がうまく機能しなくなる、つまり記憶の整理が巧く行かなくなって認知症になるようです。

ですから、我々が、物心つく頃には楔前部が確り機能するようになり、幼い時らの記憶の連続が頭の中に整理されているのでしょう。

この時間の認識ですが、小学性のころの1年は随分長かったと思うけれども、歳とると1年の過ぎるのが速い事速い事などと言います。

また、友人と会って話が弾んでいるときは、あっと思う間に時間が過ぎますが、手持無沙汰で何かを待っている時間や、つまらない講話を聴いているときなどは時間が随分長く感じられます。

という事は時間というものは、その長短も含めて人間の脳が認識しているもので、それはある意味では人間の脳が時間の認識、つまり時間を創りだしているという事ではないのかという意見も聞きます。

これを突き詰めていくと、時間というものが客観的に存在するのではなく、人間の脳が認識することで生まれて来るという事になるそうです。

時間は人間だけが認識しているもので、その他の動物ははただ「現在」を生きているだけという事になる、つまり「現在」しかないという事なのです。

こうして時間とは何だ? という事になるわけですが、やっぱり時間は客観的に「ある」と考えた方が正しい(人間にとって都合がいい?)のではないかと考えるところです。

おそらく多くの皆様も同じようにお考えだと思っています。
私が居ようと居まいと、総ての人に時間は同じように流れていて、人間の脳がその流れを過去・現在・未来と整理できる能力を持ったという認識のぢ方が、最も物事を上手く説明できると考えるからです。

「時空」と言いますが、時間も空間も結局よくわからない事ばかりです。人間がいなかった時も時間は流れていたようですし、人間が到達できない(光や電波や素粒子を利用しても)空間(宇宙)も広大でしょいう。

ビッグバン以前にも時間は流れていたのでしょうし、ビッグバンで出来た宇宙は拡大中とのことですが、その外側にも「宇宙でない空間」がありそうです。

そんな解らないものが客観的に「ある」のだろうと人間が認識するのですから、やっぱりすべて人間の脳が作り出したものではないのかという気がしないでもありません。 

やっぱり解らない事ばかりですが、でも時にこんなことを考えてみるのも楽しいような気がするというのも不思議です。

2023年10月消費者物価、そろそろ転機か

2023年11月24日 22時58分04秒 | 経済
今朝、総務省統計局から10月分の消費者物価指数が発表になりました。

物価上昇の動きは収まりそうにない数字が出ていますが、客観情勢から見れば、そろそろピークを向かうのではないかと思われる要素もあるように思います。

下のグラフを見て頂きますと、まず注目しなければならないのは所謂コアコア指数(生鮮食料とエネルギーを除く総合)の動きです。

消費者物価3指数の推移(原指数)

             資料:総務省統計局「消費者物価指数」

10月は、3指数とも騰勢を強めています。エネルギー関係の補助金が半分になったことも影響していると思いますし、それに10月から4千数百品目の一斉値上げが行われたことも影響していると思います。

特筆すべきは、天候にも、エネルギー価格にも影響されない国内消費物資の緑の線が、2021春以来初めて赤い線(生鮮食品を除く総合)を抜いて青い「総合」の線に近づいて来た事です。

この緑の線は、コアコア指数と呼ばれ、国内発のインフレで、FRBも日銀も特に注目しているものです。

このコアコア指数は国内の消費不振、そしてコロナ禍の中でかつては値上げが出来ず、じっと我慢していた指数で、今年に入ってようやく値上げできる環境になり、急速に青、赤の線に追いつく態勢に入った調理食品、加工食品、飲料、外食、宿泊料、トイレットペーパーなどの生活必需品が中心です。

このコアコア指数こそが、昨年末から消費者・家計を悩ましていた物価上昇の主様な原因なのです。
昨年までの値上げ出来なかった分を取り戻そうと、年率10%を超える値上げをしてきましたが、そろそろ全体のレベルに追い付くことになりました。

という事は、これからはコアコアだけが急角度の上昇という事態は収まるのではないかと予想されます。
現に、上記のような品目でも、急激な価格上昇が買い控えを招き、最近、値上げした一方で、纏め買い・特売・ネット販売値引きなどの動きがみられます。

この辺りは対前年同月上昇率の下のグラフで見ると、もう少しはっきりします。

消費者物価3指数の対前年同月比上昇率(%)の推移

              資料:上に同じ  

今年の2月から総合や、生鮮食品・エネルギーを除く総合の上昇率は3%程度の横這いになって来ていますが、緑のコアコア指数が独歩高の上昇になっています。そして、10月は(最後の=そう願いたい!)諸企業の一斉値上げで、対前年10月比5%という大幅上昇になっています。(注):政府発表の数字では4%となっています)

世界的に見ても、エネルギー価格も落ち着き、アメリカ、ヨーロッパのインフレも収まる方向で、更には、輸入価格を押し上げた円安もこれからは円高かと言われる状況です。

賃上げしても物価上昇で実質賃金はマイナス続きと言われたこの1年半のコアコア指数の大幅上昇.が終局を迎えれば、国民生活にも、政府の経済運営にも、日銀の金利政策にも良い影響が出て来るのではないでしょうか。
11月以降の消費者物価指数の動きから目が離せないところです。
・・・・・・・・・・・・・・・・
(注)総務省統計局発表の「報道資料」では、原指数の「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」の2023年10月の対前年同月比は4.0%となっていますが、同じ表の原指数から計算しますと5.0%になりますので、上のグラフでは5.0%を取りました。
2022年10月の原指数(グラフに入れてあります)と今年の10月の原指数と割り算をしてみた結果です。この違いについて、総務省統計局の担当に問い合わせてみましたが、明確な答えは得られませんでした。

正社員の賃金制度と定年再雇用賃金

2023年11月23日 15時56分19秒 | 労働問題
最近ではかなり制度改善が進んできているようですが、高齢化社会が進むにつれて、財政不如意の政府の立場からすれば、社会保障、特に年金財政なども考え、いわゆる正社員の人達に出来るだけ長く働いてもらいたいという事になるようです。

高齢者の就業継続を奨励するという事は、政府の立場を別にしても大変結構なことだと思います。もともと日本人は働くことを善しとし、昔からILOの統計では、高齢者の就業率は世界でも断トツに高いことが知られていました。

ですから、企業に70歳までの雇用義務を要請しても特に驚きません。本人が働きたければ、働いて社会に貢献することは、本人にとっても社会にとってもともに結構なことなのです。

政府は、働く人と辞める人に対して年金の制度設計をすれば、より多くの人が、定年再雇用で、働き慣れた所て、健康が許せば75歳ぐらいまで働きたいと思うのではないでしょうか。

年金設計問題は政府の問題ですが、企業の方では、定年を境に処遇をどうするか、特に定年再雇用者の賃金システムを適切に設計する必要が出て来ます。

今回の問題は、いわゆる正社員の場合ですが、正社員の場合は、多くは職能資格制度で、年功的な部分も持つ賃金システムをお使いではないでしょうか。
春闘の賃上げでも、連合の要求は定昇込み5%以上といった形です。定昇(定期昇給)というのは1年たったら賃金が上がるシステムで、要求自体に年功部分が入っています。

その定昇分は2%という事になっていますが、定昇2%というのは、若い時は定昇率が高く定年近くにはずっと低くなるという「上に凸」の上昇カーブの平均という概念で、若い時の賃金は割安、定年近くでは賃金は割高という形で、結婚、子供の養育という生活費を考慮した賃金制度です。(このシステムの評価はここでの問題ではありません)

日本の賃金制度は、定年までの勤続(いわゆる終身雇用)を前提に、「定年までの生涯賃金プラス退職金」で、従業員の働きと総額人件費がバランスするという前提で成り立っていたわけです。

その結果定年時の賃金は、企業にとっては割高なのです。
ですから定年再雇用の際、定年時の賃金で再雇用することは企業にとって過剰負担になります。
定年再雇用で賃金が定年時の賃金の5割~7割ぐらいに引き下げられるという慣行は、定年時で仕事と賃金の決済は完了、定年以降は新規蒔き直しという、考え方になるのです。

定年再雇用で賃金が下がるので、閑職に異動して賃下げなどという配慮もあるようですが、ベテランの域に達した仕事の継続が最も効率的というケースが多いのではないでしょうか。

その場合、日本人のメンタリティーとして皆一律何%引き下げという形もあるようですが、最近、その職務に応じたジョブ型賃金(職務給)の活用が進められているようです。
定年再雇用が長期化する程、その合理性が見えてくるのではないかと考えます。

大事なことは、長年社内で培った従業員の能力を、企業としてはより長く徹底活用する事、従業員にとっては、最も得意な仕事で思う存分企業に、社会の貢献できるというwin=winの関係を、定年再雇用の中で徹底して生かしていく事ではないかと考ええるところです。

(蛇足)同じ仕事をしていて、定年前と後で賃金が違うのは「同一労働・同一賃金」に反するといった判例もあるようですが、これは過渡期に生じ一過性のものでしょう。

法人企業統計、製造業の付加価値分配の推移

2023年11月22日 18時43分16秒 | 経営
法人企業統計、製造業の付加価値分配の推移
財務省の法人企業統計は企業経営の状況を見るのに大変優れた統計で、私の好きな統計です。

最近は日本経済の不振の原因である個人消費が伸びないという問題との関係で、GDP統計消費者物価統計などマクロ経済の分析が中心になっていますが、昨年・今年は、特に企業の賃上げの問題が主要な話題になっています。

企業が賃上げをするかどうかといった問題になりますと、企業の生み出す付加価値、それを企業が利益と人件費にどう分配しているかが当然問題になります。この点は、法人企業統計が最も役に立つわけです。

そこで今回は、法人企業統計から付加価値の分配の状況を見てみました。
付加価値はこのブログのメインテーマですが、我々は企業の作る付加価値で生計を維持している事がその前提です。

日本経済の主役はやはり製造業で、製造業のが景気のリード役と言われますから、分析したのは、法人企業統計の製造業の数字です。
バブルの崩壊と円高による「ダブル不況」が、何とか底入れしたと言われる2002年度から、統計の取れる最近時点2021年度までの動きです。

法人企業製造業の付加価値の分配の推移

                 資料:財務省「法人企業統計年報」
(グラフが見にくくて申し訳ありません)
ダブル不況」からの回復は「減収増益」スタイルで可能になったのです。売り上げは伸びず、人件費とその他のコストカットで利益を出すのです。それでも利益が増えれば、企業は元気が出ます。

2002年度以降もコストカットで人件費の割合(労働分配率)はじりじり減っています。そして2008~9年度と急上昇しています。
残念ながら、これは賃金が上がったのではなくて、リーマンショックで付加価値が減り(マイナス成長)人件費より利益が大幅に減ったためです。

企業は頑張りましたが1ドル75~80円の円高で、どうにもなりません。
それから抜け出したのは2013-4年の日銀のゼロ金利政策で、円レートが120円という円安の実現です。利益は順調に回復しました。
しかし賃金は上がらずで人件費の割合(労働分配率)は下がったままになってしまっています。利益は増えたが賃金を上げなかったアベノミクスの失敗の主要因です。

そしてそこにコロナがやって来ます。2019年度20年度とコロナの最盛期が続き、経済は再び落ち込みます。
この時の労働分配率の上昇も、賃上げはなく、コロナ禍により利益の減少によるものです。

最後の2021年度になって、コロナ禍の先も見え、円安が進み、企業経営は急回復、しかし、矢張り賃上げはなく人件費への分配は減少です。この後は「法人企業統計季報で利益上昇傾向はう事が出来ますが「年報」はまだ出ていません。

ここで気づくことは、「円安になると利益は急拡大する」という事です。製造業は輸出関連が多いですから、日本経済としては当然ですが、アベノミクスの初期も、今回の円安の進行でも、付加価値は増えますが、その分増えるのは利益だけで、人件費は増えないところに問題があるのです。

円安で日本経済が回復に転じる時、利益も、人件費も同じように増えれば、消費需要も順調に増え、消費と投資が共に増える均衡成長が成立するのです。それがないと、消費不振で経済は成長しません。

法人企業統計で見ても、円安の時、人件費への分配をどう増やすか、労働分配率が下がり過ぎないようにする方法が日本経済に欠落しているという事実がはっきり見えてきます。
来春闘で、その是正が可能になるでしょうか。労使の知恵が問われるところです。

人間とはここまで憎み合えるものなのか

2023年11月21日 21時03分26秒 | 文化社会

パレスチナ、イスラエル問題を見ていてつくづく思うのは、人間というのはここまで憎み合えるのかという恐ろしさです。

私も人間ですから、どこかにそんな「性(サガ)」を持っているのかと思うと、何と無く嫌悪感や不安感を感じたりします。

然し人間には「類化性能」の高い人と「別化性能」の高い人がいると言う折口信夫の説を聞きますと、多分私は類化性能の高い人間だから、あそこまで憎みあうような事はないだろうなどと思って少し安心するのです。

恐らくパレスチナにもイスラエルにも「類化性能」の高い人は大勢いて、そういう人たちはこんな人間同士の殺し合いはするべきではないと思いながら、リーダーが決めるのだから、我々にはどうにもならないと嘆いているのではないでしょうか。

「別化性能」の高い人は、俺は格別だ、気に食わない相手は倒す,という「争いの文化」に魅せられて、往々にしてリーダーになり、周囲に別化性能に根差す考え方を振りまきます。

その時に使う有効な方法は「我々は被害者だ。加害者は彼らだ」と敵を作り、被害者意識を梃子にして結束を図り、「争いの文化」の世界を作り上げるのです。

戦争はこうした「人の心の中で生まれる」(ユネスコ憲章の前文)のでしょう。

しかし、争いは人間を破壊し疲れさせますから、多くの人はやめてほしいと思い、その思いが広く共有されれば、休戦、講和も起きます。

パレスチナ、イスラエル問題では「オスロ合意」で争いに疲れた両者が、争そいは平和も幸せも齎さない事を悟り、仲介者の努力もあって安定の可能性を見出したのでしょう。

こうした合意は、その時点では当該国が共に納得したからこそ可能になったのですから、国連や当該国に関係のある国々は、それがまた双方に被害者意識を生まないよう充分留意し「類化性能」が当事国間で一般化するような環境を作らなければならなかったのです。

その意味では当該国をそれぞれ支援する国々が対立する限り、報復の連鎖は終わらないので、そうした国々、そして国連の対応にも責任があるのでしょう。

今回の最悪とも言うべき状態は、パレスチナ、イスラエル双方に多大の殺戮と破壊をもたらし、「争いの文化」の不条理を双方の国民の心に刻みつけたのではないでしょうか。

そうであってみれば、アメリカの努力もあり、近付いているように感じっれる休戦が、パレスチナ、イスラエル双方に「争いの文化」の終焉を齎し、より多くに人たちが持っていると思われる類化性能の高さが広く一般化するような環境条件を齎すものにするような形になることを強く願うところです。

世界の人々に報復の連鎖の無意味さを理解させるような解決の実現を心から期待するところです。

日本人のエネルギーレベルについて

2023年11月20日 15時01分29秒 | 文化社会
日本人のエネルギーレベルについて
日本人は、基本的にエネルギー・レベルが高い国民だと考えています。このブログでも、折に触れてそんな指摘をしてきました。

1990年台から日本経済が極度の不振に陥ってからでも、元気で頑張っているのがゲームやアニメの世界でしょう。

一時、嘗ての通産省が、世界で人気の日本アニメを産業として把握しようとしたことがあったようですが、その後諦めたようです。(諦めてくれて良かった!)
そんな事に関係なく、日本のアニメは世界の重要な文化(もうサブカルチャーではない)としてますます元気なようです。

もう随分以前から日本では、テレビを点ければ食べ物を作るか食べるかの場面にぶつかる、というような状況ですが、その結果が「和食がユネスコの無形文化遺産に指定」という事になり、日本の食文化は世界に名を馳せて、世界の至る所で日本食ブーム、更にインバウンド盛況の要因にもなっているようです。

スポーツでも最近の日本は大変な頑張りです。
野球と言えば、アメリカのメジャーリーグですが、そこで活躍する日本選手はどんどん増え大谷選手は野球世界のシンボル的存在、世界選手権では日本が優勝しても誰も驚かないというれベルになりました。

その他、柔道は別としても、常勝ともいえるような体操、フィギュアスケート、スキージャンプ、最近ぐんぐん力をつけて来ているサッカー、ラグビー、バスケットボールなどなど、多様な外来スポーツで日本は力をつけて来ているようです。

日本人は特に体格が優れているわけではありません。しかし、和食の効果でしょうか(?)、最近体格も随分良くなってきました。
更にその上に、バスケットでいえば、3点シュートのような技術的なところでその特徴を発揮しているようです。

また、チームプレー、団体競技でその特性を発揮するという事が言われます。
勿論、個人々々の力が優れて来た事は当然ですが、団体戦で特に力を発揮するという側面は、ある意味では企業経営、企業活動でも共通な面があるようです。

力の平行四辺形ではありませんが、個人々々のベクトルが一斉に同じ方向を向いた時、合は最大になります。にほんじんの得意な「人間集団の強み」でしょう。

経済活動では、この所30年も世界ランキングを落とし続けている日本ですが、同時に、日本人のエネルギーが存分に発揮されている分野が広く存在しているのです。

今朝の朝日新聞の2面を開いた時下段の経済図書の広告に目が行きました。
その中で気になったのが『プア・ジャパン』-気が付けば貧困大国-(野口悠紀雄)でした。
確かに、気が付かない内に、貧困家庭の子供が6人に1人と言われたり、1人当りGDPが世界4~5位から28位に転落したり・・・です。

こうした文化やスポーツの躍進と経済の凋落というギャップの原因は何なのでしょうと考え込むところですが、原因はかなりはっきりしていると思っています。

日本人は元々エネルギー・レベルが高いのです。高いエネルギー・レベルが、自由に伸ばせる条件があれば、そこに噴出して伸ばしていかないと気が済まないという事ではないでしょうか。

それなのになぜ経済の不振なのですかと言えば、それは多分、経済については伸ばしにくい条件がそろっているからでしょうという答えが返ってきそうです。

前回の記事も含めて、この所取り上げているこのブログをご覧いただければ、そのあたりはご実感いただけるのではないかと思うところです。

政府は経済政策の誤りにに気付くべし(前2回の補遺)

2023年11月18日 14時18分09秒 | 経済
前2回、日本経済の活性化の決め手となるのは、先ず、日本の平均賃金水準を10%程度上げること事だと書きました。

賃金水準が割高なアメリカヨーロッパでも、労働組合が当然のこととして要求し、経営側が、それなりの答えを出しています。

円安で、賃金水準が割安な日本ならば、そうした状況になって当然ですが、そうなりません。 
そうした元気のなさが、日本経済不振の原因ですという趣旨も含んで書いています
どうも、日本の国民は、労使を含め政府にマインドコントロールされているようです。

少子高齢化、人口減少、年金財政を始めとしての将来不安、財政再建絶望的、ゼロ金利、ゼロ成長、賃金は上がらないもの・・・と並べられると「我々の将来は暗い」と信じ込まされるのでしょう。

そうしたことを前提に、政府は、「政府の力で何とかします」と言います。
増税はしません、子育て支援も、エッセンシャルワーカーの待遇改善も、防衛費負担も、輸入物価が上がれば補助金も、消費者物価が上れば各家庭に給付金も、研究開発には基金を作り、国土強靭化にも予算を付け、国民の生命、財産を守りますというのです。

そして、国民はやっぱり政府に頼るしかないかと観念し、選挙では現政権(自民党)に投票するのでしょう。もっとバラマキをしますという野党にも、多少の票は入ります。
これが「今の日本の姿」ではないでしょうか。

嘗てフォード・モーターは、自動車が一部の富裕層の行き渡り、「さて今後どうするか」を考えた結果、わが社の従業員が自動車に乗るようになれば、市場は爆発的に広がると考え、従業員の賃上げを進めると同時に安価な自動車の開発に注力、「T型フォード」を開発・発売、大成功し、アメリカのクルマ社会化を主導したという逸話があります。

「日本では物価も食事代も安く、品質は良いし食べ物は美味しい」とインバウンドが大挙来日するのも結構ですが、それを日本人自体がみんな楽しめるのでないと、GDPは増えない事をこの逸話は教えてくれます。

しかし、今、日本人は、政府のマインドコントロールに引っかかり、我々の未来は暗いと、食費も切り詰め、貯蓄して、将来不安・老後不安に備えるという状況です。

必要なことは全て政府がやります、政府を信頼してください。と言いつつ財源は、赤字国債です。国民は、これは将来の国民負担と解っていますから、不安は強まります。

政府がメインプレーヤーになっている社会が発展しない事は、歴史が証明しています。発展する国は何処も、国民が元気で、民間の力が経済・社会の活動を支えています。日本もかつてはそうでした。

このブログでは、政府はプレーヤーになってはいけない、プレーヤーは国民で、政府はレフェリーに徹することが重要と書いて来ています。

今回は、政府に「プレーヤーになりたがるな」という忠告と同時に、国民、特に民間労使に「元気を出そう」との呼びかけとして、前2回の「補遺」としています。

来春闘、必要な賃上げは平均賃金10%上昇程度か

2023年11月17日 14時13分45秒 | 経済
前回は、日本経済活性化のために賃上げが必要という意見が、労働組合、政府は勿論、企業経営者や経済団体にも普遍的になって来ているという現状も前提に、「日本経済活性化の鍵は賃上げにあり」と書きました。

同時に、「定昇込み5%以上」とか、「今年より高い賃上げ」という程度では、多分今年と同じような結果に終わるのではないか」とも書いてきました。

理由は、物価が沈静すれば別ですが、今の政府の補助金による物価上昇抑制がなくなり(4月まで)、円安がアメリカの事情などで続く可能性が強く、海外は何処もインフレ、インバウンド大盛況などが、ジリジリと消費者物価を押し上げる可能性が高いからです。

今春闘の賃上げでも毎月勤金統計の「平均賃金の上昇は1~2%前後」ですし、家計調査の「勤め先収入」はマイナスです。
それが多少増えても、恐らく賃金上昇は物価上昇に食われ、実質賃金はマイナスが続く可能性が大で、家計は防衛型になり平均消費性向は再び低下に向かい、消費需要低迷で日本経済の不振は変わらないというのが十分心配されなければならないと思われるからです。

こうした悲観的な予測になってしまう根本原因は、かつて円高で抑えに抑えた平均賃金水準(低賃金の非正規拡大も含む)を円安になっても殆ど復元しない企業経営の低平均賃金維持政策にあるように思います。

そしてまた今回の円安です。長期的な円安の時、円高の時と反対の賃金政策を取らないと、消費不振で経済低迷になるという単純な経済現象に気付くべきなのでしょう。

円レートが1ドル80円から120円へ、更に今150円へと変化しています。150円は行き過ぎとしても、日銀短観の企業の予測は130円台です。円安は続く気配です。

円安はドル建ての日本GDPを縮小させますが、その分日本のコストを下げ、日本の国際競争力を強めます。円ベースで生まれる円安の利得は、適正に平均賃金水準に反映されるべきなのです。

こうした視点から考えれば、日本の平均賃金水準は、かなり大幅に引き合上げる必要があったのです。
そして漸く「賃上げが必要」という認識が政労使3者に共有される事になったのですから、これは本気でやる必要があるという事になるのです。
この際(たとえは悪いですが)、兵力の逐次投入はやめて、一挙大量投入で、日本経済の景色を変える必要があるというのがこのブログの主張です。

それにしては随分控えめですが、このブログでは標記の「平均賃金10%上昇」を掲げました。これは今高騰いている食料品など生活必需品の価格上昇にもほぼ見合うという水準です。

これで、出来れば、全国の家計(家庭)のムードを中心に、国民の意識を一変させることが出来れば、日本経済活性化のきっかけになると考えているところです。

ここで問題は、わが社はそんな賃上げは出来ませんという中小企業を中心にした意見への対応でしょう。

答えは簡単で、「人件費上昇分だけ、確りと価格に転嫁してください。」「但し便乗値上げはしないでください」と政府が、明言する事です。

当然賃金インフレは起きるでしょう。日銀は喜ぶでしょう。但しそれは一過性です。多分、それで実質賃金はプラス転換でしょう。

再来年以降の賃金交渉は、改めて労使で検討ですが、消費者物価の上昇を2%程度上回る賃上げを2~3年続ければ、新しい賃金決定秩序が形成されるでしょう。

政府の出番は企業の労使がルールを守るよう「レフェリー」をするだけです。
(本来、政労使会議で議論すべきはこんなことなのではないでしょうか)
労使の、思い切った決断を望むところです。

日本経済活性化の鍵は何でしょう?

2023年11月16日 16時01分18秒 | 経済
日本は、アメリカ中国に次いで、世界第3位の経済大国ということになっていますが、IMF(国際通貨基金)の予測では、今年(暦年)ドイツに抜かれ第4位になるようです。それからまた2-3年でインドに抜かれ第5位に転落するとの予測もあるようです。

こう予測されて、「多分そうなるんだろうな」と納得するか、「抜かれないように頑張ろうじゃないか」と考えるかですが、今に日本人にはどちらが多いのでしょうか。

このブログは、後者の考え方で、本気でやれば出来るのだから、やっぱり頑張ってやりましょう!という立場です。
という事になりますが、問題は、原因の究明と、取るべき方策の方法論です。

この問題は、経済学的に見ても、経済活性化に責任を持つ政府、日銀、経済団体、労働組合(連合)一部の個別企業や経済学者、経済評論家などに細部は別として、ほぼ共有されているという状況になって来ている様に思います。

答えは「日本の賃金水準の上昇」です。

確かに理解は進んできているのですが、その根拠の把握や対策の説明が未だ不明確なために、着実な成功は難しいように思われます。

問題は、第一に、必要な賃金水準の上昇の程度、第二に、30年来の不況の中で歪んでしまった雇用・賃金構造の是正(格差縮小の視点から)についての認識、この2つについての感覚が長年の無策で鈍磨されてしまっているという事でしょう。    

この2つをどう考えるかという点で誤ると、結果はアベノミクス以来の10年の失敗の繰り返しになってしまうのですが、来春闘に向けての関係プレイヤーの発言を聞いていますと、これでは失敗の繰り返しの恐れが大きいように思うのです。

先ず水準については連合の要求ですら5%以上と今年の要求に「以上」がついただけですし、経団連会長は「ベアが有力な選択肢」と的確に位置付けていますが、数字としては4%以上(春闘賃上げ率、ベアではない)という発言もあるようで残念です。

岸田総理は、昨日の政労使会議で、「今年以上の賃上げ」というにとどまっていたようですし、日銀は、立場上待ちの姿勢です。

個別企業では既に7%という発言も聞かれますが、その程度に賃上げは出も来るところも多いでしょう。といっても一部優良企業に限られます。

一方物価は、政府のエネルギー関係の補助金で1%ポイント余2月から下げられていますが、これは来年4月まで。消費者物価のコアコア指数は上がり続け、特に食料・飲料、必需品は10%前後の上昇です。

昨年以上の賃上げでも、物価も昨年以上に上っていますから、これでは結果は、おそらく今春闘の結果と変わらない事になるのではないかと惧れます。

第二の問題、雇用・賃金構造は、非正規従業員40%という問題です。これは円高不況の時、賃金より雇用という意味で緊急避難的に発生した問題です。円高が是正された2013-4年に非正規の正規化、雇用構造の復元が為されるべきものが、今日まで持越されている問題で、所得格差、貧困家庭問題の元凶でもあります。
手抜きされた教育訓練も含めてかなりのコストがかかる問題ですが、経営側の喫緊の課題でしょう。

「今年以上の賃上げ」といっても資源輸入国日本では、円安で物価はじりじりと上昇する可能性が高いでしょう。
消費者物価は円安でインバウンドの盛況もあり、順調に下がらない可能性もあります。その中で、日本の賃金水準は国際的に見れば円安分だけ下がっているのです。

輸出関連企業は円安で労せずに差益が入り、輸入関連企業には政府の補助金が出ます。しかし雇用労働者については、物価上昇を「下回る」賃金上昇だけです。(実質賃金の長期的低下状況が示しています)

これがこの10年程、円安の実現に関わらず、円建ての実質賃金すら上がらず、個人消費の低迷で日本経済が成長しない理由だと実感していただけるのではないでしょうか。

さてどうするかですが、長くなるので次回にします。

2023年7-9月期GDP、目立つ民間需要不振

2023年11月15日 20時40分54秒 | 経済
今日、内閣府から今年度7-9月のGDP四半期の速報が発表になりました。

すでにマスコミではマイナス予想がされており、今日発表の数字でも、季節調整済みの物価上昇分を除いた実質値前期比で、マイナス0.5%、年率換算でマイナス2.1%、3期ぶりのマイナスという見出しで報道されています。コロナ終息後、動き始めたように感じられている日本経済ですが回復は思うようにはいかないようです。

指摘されているのは、物価上昇が予想より長く続き、しかも今後についても上昇が続くのではないかという見方が強く、インフレによる実質値の低下と、物価上昇が続きそうだという事で、消費者の買い控えも見える消費需要の不振です。

加えて民間設備投資の一時的とも思われる停滞、前期に伸びた民間住宅の反動減もあったのかもしれません。

このブログでは、こうした短期的な浮沈より、多少長期的なトレンドが見えると思われる対前年同期比、つまり1年前からの伸び率を中心に見ていますが、今回も、実質伸び率の対前年同期比について見ます。

特に今回は、最近の日本経済の動きが芳しくない中で、政府が赤字国債を出してまで一生懸命に補助金や給付金で景気浮揚の計るという岸田経済政策が効果をあげているのかどうかを見てみたいと思います。

下の図は、昨年7-9月期から今年の7-9月期のGDPの伸び率を民需と官需(公的需要)に分けて見たものです。

GDPと構成する民需、官需の対前年同期伸び率(実質、%)

                    資料:内閣府「国民経済計算」

青の柱は各四半期のGDPの対前年同期成長率です。
昨年の7-9月期は3.7%と順調な伸び、10-12月期は歳末商戦不調のせいもあって伸び悩みましたが、今年の1-3月も3%の実質成長です。

しかし今年度に入って4-6月期は1.7%、7-9月期は1.2%と次第に低迷です。上記の7-9月期は前期比-0.5%も効いているのでしょう。

今年度に入っての2四半期の連続成長率低下は、グラフで見ますと民需(茶色の柱)の停滞を官需(緑の柱)でテコ入れしようという意図が見えています。しかし民需の低下は深刻です。

民需の落ち込みの主因は、皆様のご想像の通りで個人消費です。グラフにはありませんが、家計最終消費支出は4-6月期0.0%、7-9月期-0.3%と減少とゼロ・マイナス成長です。
これは物価の上昇に食われているのと同時に、平均消費性向の低下によるものでしょう。

つまり、この所のGDPは、個人消費を中心に民需の落ち込みが顕著で、政府の補助金などの効果は見えて来ていないという事です。問題は、民需、特に個人消費でしょう。

岸田政権に要請されるのは、政府が国民に赤字財政のカネをばらまくことではなく、企業や、特に家計に金を使う気になる政策だという事ではないでしょうか。
経済という生き物の性格を的確に理解しないと、誤った政策を続けることになります。
些か心配です

基金とは何でしょう

2023年11月14日 13時37分46秒 | 政治
マスコミによりますと、この臨時国会で決まった補正予算13兆円余の内4.3兆円が基金に充てられているという事です。

政府が作っている基金と言いうのは150ぐらいあって、そこに積んである基金の昨年度末の残高は16兆円余りもあるそうです。

この基金の残高というのはコロナ以降急拡大してきたのだそうで、コロナ対策にカネがかかるので関連する基金が増えたのかもしれません。

一寸聞きますと基金の残高が16兆円もあるのは、財政が豊かで結構なことではないかなどと感じてしまいます。
ですが、補正予算の中から4.3兆円も基金に積み増すという話や, 補正予算の財源のうち7兆円は赤字国債だなどと聞きますと、何かおかしいなという感じになります。

基金というのは、何か有意義な事業を行うために、余裕資金を積み立てたり、篤志家の寄付を得たりして、その活動のための基金を作り、その基金を運用して果実(利子などの運用収益)を得で、それを使って目的の事業を行うというものでしょう。

基金は、自力で稼いで果実を生み出し、それが活動の資金になるというのが常識ですから、基金が潤沢な額を保有しているというのは結構だと思うのですが、今はゼロ金利時代で、何処の基金も大変なのに、政府の基金は成り立つのかな(GPIFは頑張っているようですが)と思っていました。

そしたら、何のことはない、政府の経常支出をどんどん基金に注ぎこんで、それが基金の収入源だというのです。

それなら経常支出として予算を組めばいいのではないかと思いましたら、基金にすれば予算の様に厳密に支出をチェックされることがないようで、使い残してもいいことになっているので、種々便利なために、纏めて基金という形で支出して、使い勝手を良くしているという事のようです。

これはこのブログの憶測ですが、全体のカネの流れを素直に見れば、そうしか考えられないというのが、常識だと思うので、やっぱり多分そうなのだろうとなってしまうのです。

だとすると使い残している16兆円というのは、もともとは赤字国債ですから、もし日本がゼロ金利でなかったら、ムダ金に利息が付いて、将来の国民負担が増すという事になります。
そんな心配はいらないよ、今はゼロ金利だから借金は増えないから大丈夫というのかもしれませんが、日銀は金利政策を変えようとしていますから、何時までそれで済むか解りませんよと思っていましたら、河野デジタル大臣が、少しキチンとすべきだと言いだしました。

何か、コロナ以来日本の政府はMMTが正しいと信じ切ってしまったように感じられますが、MMTが駄目というのは、「将来、日本の国債が紙屑になるよ」という批判だけでなく、「今日只今の国家財政がいい加減なものになりますよ」という直近の問題にもつながるのです。

端的な問題である、政府(野党も)のバラマキ財政、補助金・給付金では日本経済の自家製デフレは治りません、という事も含めて、実効のある経済政策を日本学術会議から建策してもらったら良いのではないでしょうか。