tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

メンタルヘルス問題の背景

2008年11月29日 12時00分32秒 | 労働
メンタルヘルス問題の背景
 いわゆる失われた10年を経て、企業におけるメンタルヘルス問題は深刻なものになってきてしまいました。

 メンタルヘルス関係の講座も多く、参加者も多いようですが、それらのほとんどは、「早期発見」「具体的対応策」「職場復帰の際の留意点」などが中心になっているようです。
 確かにこれらは重要で、対応を間違うと、事態を一層深刻化することは明らかですから、組織の中で働く人は誰でも、特に部下を持つような立場の人は十分な理解が必要でしょう。

 しかし本当の問題は、体の病も心の病も同様に予防にあるのではないでしょうか。予防のためには原因を知らなければならないのですが、最も多くいわれるように「職場が楽しくない」というのが主要な原因ではないでしょうか。

「確かに仕事は大変だけれど、今日も職場で、みんなと一緒に苦労するのは結構楽しいよ」といった状況の中で、メンタルヘルス問題が起こるとは考えられません。
 朝起きて、「会社に行きたくないなぁ」と思うような状態が長く続いたら、これは要注意でしょう。

 ならば、予防の基本は、職場の中に「会社に行きたくない」と思っているような人をなくすことで、それを誰かが積極的にやる必要があります。これこそが、係長、課長、部長といった管理・監督者の役割でしょう。

 このブログで、 名ばかり管理職のことを書かせていただきましたが、管理職は、本来、自分が直接仕事をするのではなくて、部下がより良い仕事をするように動機付け、教え、育て、その成果の中から賃金を貰うのが仕事です。

 長期不況の中で、管理・監督者の教育訓練が長期間なおざりにされ、人間理解を十分に学ばない管理・監督者が増えたことが、メンタルヘルス問題多発の主要な背景の1つではないでしょうか。
 戦後の高度成長期から1980年代にかけて、日本企業は管理者教育に実に熱心でした。そうした意味ではメンタルヘルス問題多発の現状は、管理・監督者の責任というより、本当は、経営・管理者の教育に責任を持つべき「経営者の責任」が大きいと見るべきではないでしょうか。


高付加価値化の手段: その1

2008年11月25日 11時34分45秒 | 経営
高付加価値化の手段: その1
 アメリカ発の金融危機をきっかけに、世界中が不況に陥りつつあります。

 対症療法としては、まずは資産内容の劣化した金融機関の救済でしょう。金融は経済の血流ですから、これがきちんと回らないと、人間の体でいえば、新陳代謝の基本機能が働かないわけですから、実体経済そのものが部分的に壊死したりする可能性が出てきます。

 G20にしても最大の目的は、そのためにどう協力できるかを話し合うことでしたが、大元のアメリカが「何でもやります」ぐらいの覚悟をしないと簡単には進まない問題でしょう。

 さらに、本当の問題はその後に控えている実体経済の立て直しです。各国の財政も急な負担増でかなり痛むことになるでしょうし、その回復には、企業の収益力の本格回復が絶対的に必要になります。

 アメリカでは主要企業の多くが深手を負っていて大変でしょうが、今後回復のスタートが早く切れる国はどこかといえば、それは企業収益の回復が早い国ということになるでしょう。日本はその一番手を担える可能性は大きいと思います。そのために必要なことは、これから世界が必要とする分野(省資源、省エネ、再生可能エネルギー、電力の貯蔵、エコ、地球環境など)で徹底した技術開発を進め、各企業が一層の高付加価値経営を実現することでしょう。

 ということで、これから、折に触れて、高付加価値経営実現のためのヒントについて考えてみたいと思います。
まず、いくつかの分野を挙げてみましょう。
・製・商品の高度化
・コストの低減
・差別化
・製・商品の組み合わせ
・知的財産の活用
・それらすべての裏打ちとなる「人材育成」と「動機付け」
などなど、ということになるのではないでしょうか


中国、最低賃金引き上げ凍結

2008年11月19日 11時47分39秒 | 労働
中国、最低賃金引き上げ凍結
 中国の人力資源社会保障省がこのほど最低賃金引き上げの凍結を決めたという報道がされています。

 中国は、この2年ほど 最低賃金をかなり大幅に引き上げてきました。これは、経済発展の遅れている内陸地域などで特に大幅で、中国国内での、格差拡大の進行が、社会問題につながるといった事態を防ぐという意図が大きいようでした。

 中国経済が10パーセントを超える順調な成長を続ける中では、こうした一見無謀に見える引き上げも、そうした地域への経済支援も通じて、ある程度対応できるのかなとも思い、注視はしていました。

 ところが状況は大きく変わったようです。アメリカ発の金融危機は中国にも深刻な影響を与えているようで、経済成長は9パーセント程度に下がるとみられ、これは中国政府にはかなり深刻に受け取られているようです。

 さらに、中国は今年から労働法を改正し、労働契約、社会保障、労使の個別紛争などについて、かなりきめ細かい、労働者に有利なものとしたため、当然に企業の労働コストはかさんできます。

 最近、有力な市の工会(労働組合に当たる行政組織としての労働代表機関)の幹部が、経済成長率の低下と法改正による労働コスト上昇の中では、賃金上昇は、企業業績との関連を重視し、上げないことも視野に入れるといった発言をしたと聞きましたが、行政の決定する最低賃金においても、その対応の素早さには驚きました。

 ところで、日本でも、所得格差の拡大を是正するために、ここ何年か、最低賃金の大幅上昇を続けようというのが政府の方針と聞いていますが、日本の政府の状況対応力がどの程度か、来年度の最低賃金の引き上げ方針を注視したいと思います。



G20と金融世界

2008年11月17日 14時38分11秒 | 経済
G20と金融世界
 はじめてのG20が終わりました。アメリカ発の金融危機で、世界中が困難に直面しているのに、何か、ことの本質を避けて、周辺だけの論議に終始している印象はぬぐえません。報道記事に、隔靴掻痒の感を抱く人も少なくないのではないでしょうか。

結果としては、マスコミなどの評価も 「何も新しいものはなかった」 というものです。
今の世界の金融システムを変えなければならないというのは共通意見だったようで、みんなで融通しあって、金融危機を最小限に食い止めましょう、金融機関監視や、格付け会社にきちんとしてもらうためのシステムも作りましょう、IMF(国際通貨基金)をより強力にしましょう、などと取り決めても、現状の金融世界がそう変わるものでもなさそうです。

 新興国を入れたのは、確かに良かったと思いますが、この問題の解決のために新興国に役立って貰おうというのは少し酷でしょう。出てきた意見は、結局は新興国に迷惑をかけるなという意見がほとんどだったようです。

 隔靴掻痒の感の源は、世界に迷惑をかけた張本人であるアメリカの反省もなければ、みんな遠慮しているのか、アメリカへの注文もなかったことでしょう。
 世界で一番資金援助を必要としているのはアメリカで、これが変わらないと、いくらIMFを強力にしても、今度は世界のカネをIMFを通じてアメリカに流すシステムを作るだけになってしまうのではないでしょうか。

 歴史に残るG20だ、などの発言もありましたが、どういう形で残ることになるのでしょう。


定額給付金トラブルの怪

2008年11月16日 14時54分22秒 | 経済
定額給付金トラブルの怪
 10月30日でしたか、総理が総額2兆円規模の定額給付金を年内に全所帯に給付、というような発言をされてから、もうだいぶ立ちますが、ごたごたはなかなか収まらないようです。

 金持ちには給付しなくてもいいだろうという意見もあって、麻生総理も、「私などには給付がなくてもよい」と言っておられましたが、さて、それではどこで線を引くかとなると、議論百出です。

 年収1900万円という意見が出たり、若年者と高齢者には厚くすべきだという意見が出たり。所得制限などすると手間がかかってコストがかかるとか、それなら金持ちは自主返納がいいとか、地方に任せたら・・・・、などなど。

 さらには、そんなもので消費は高まらないとか、2兆円で票を買うのかとか、給付金の本質に関わる意見もいろいろ出てきてしまいました。

 議論のあることは健全な証拠かもしれませんが、誰でも意見をいい易い問題ですし、ほとんどの議論は、どちらの意見もそれなりに理屈はあるわけで、最終的には誰かが決めなければ議論は終わりません。国政に関わる方々の大切な時間を、このことだけに、あまり使いすぎないようにして欲しいような気もします。

 それらの中で1つ気になったのは、一律給付なら簡単だが、所得制限をしたら手間がかかるという意見でした。お役所は、その程度の手間をかけるのが嫌なのでしょうか。国民の喜ぶことなら一生懸命やろうという気はないのでしょうか。それとも出来ないようなシステムになってしまっているのでしょうか。地方にやらせるならOKというのも不可解です。
民間企業だったら、どこでも簡単にできることだと思うのですが。


太陽光発電でドイツ先行

2008年11月08日 22時06分02秒 | 環境
太陽光発電でドイツ先行
 最近日本のソーラーパネル(太陽光発電装置)のメーカーが設備投資を積極化し、生産能力を急速に引き上げようとしていることが報道されています。そうした報道の中で気になるのが、「海外の需要をにらんでの投資」だという説明です。

 多結晶型では発電効率の向上、薄膜型では価格高騰のシリコンの使用量を減らしてコストの低減と技術開発に余念のない日本企業ですが、何故、国内需要対応でなく、海外に需要目当てなのでしょうか。

 実は我が家でも屋根にソーラーパネルをつけたいと以前から考えているのですが、どう計算しても採算に乗らないので、今は待ちの姿勢でいます。
 学者や専門家の論文でも、日本の場合は、「環境のために損を承知で取り付けている状態」とか、業者の広告でも、「屋根にソーラーパネルをつけているのは、高い知的水準を持つ家庭の証拠」などと書かれていたりします。

 ソーラーパネル設置への国の補助金も来年から復活というけれど、いまいちはっきりしない・・・、などと言っているうちに、太陽光発電の年間導入量は、外国にトップの座を奪われ、ドイツ、スペイン、アメリカについで4位になってしまったようです。

 特にドイツの躍進は目覚ましく、このままでは差が開く一方でしょう。
 問題は何がこの差をもたらしているかですが、科学的な研究開発や生産技術ではなく、ソーラー発電など循環エネルギーによる電力を電力会社が適切な設定価格で買うことを義務付け、それを電力料金全体に上乗せするうという明確な目的を持った「制度の整備」です。

 日本は技術開発では素晴らし成果を上げていますが、残念なことに、こうした社会的な制度の枠組み作りなどはどうも不得手のようです。


資本生産性

2008年11月06日 12時06分45秒 | 経営
資本生産性
 生産性というと、通常は、労働生産性、つまり従業員一人当たり年間にどれだけの生産(自動車何台とか、付加価値何円とか)を上げたかを指しますが、これは、従業員数を分母にした場合で、そのほか、土地を分母にすれば、1ヘクタールで小麦が何トン収穫とか、1億円の投資で、年間に何円の収入を得たかなども、土地生産性、資本生産性といった形で生産性概念の中に入ります。

 昔から言われますように、生産の3要素は「土地・労働・資本」というそれぞれの生産要素あたりの生産性が定義できるわけです。
 
 一方、分子の生産のほうは、自動車何台とか、鉄鋼何トンとかといった形の「物的生産性」で分析する場合もありますが、自動車の種類や鉄鋼の質が同じでないと厳密な比較は出来ません。 
 そんなわけで、どんな場合でも共通に分析できるという意味で、製品を売って得た付加価値を使うのが、経営分析では一般的です。

 こうして、資本生産性というのは通常、年間の付加価値生産額を、その会社の使用総資本、あるいは有形固定資産(生産設備)で割ったもの使って分析を行います。
 使用総資本で割った場合は、売掛債権や棚卸資産、投資資産などの効率(生産性)も入った資本の生産性になりますし、有形固定資産で割った場合には、工場や機械、店舗など投資した設備の生産性になります。

 この数字は通常あまり変化しません。ただし、売掛債権の回収を早くしたり、ジャストインタイムで在庫を圧縮したり、現有設備の有効活用を図ったり、遊休資産を処分したり、投資有価証券を見直したりすることで、着実な改善は可能です。

 「失われた10年」の中では、「バランスシート調整」という形でこれが進められ、生産性向上に貢献しました。(注参照)
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 <注>
資本生産性    ×    資本装備率     =  労働生産性
↓                ↓
(付加価値/総資本)×(総資本/従業員数)  =  労働生産性


アメリカ大統領選 とChange

2008年11月03日 10時47分50秒 | 経済
アメリカ大統領選 とChange
 明日はアメリカの大統領選の一般投票の日です。優勢といわれているオバマ陣営のスローガンはChange です。

 選挙というのはどこの国でもそうなのかもしれませんが、Changeといっても、何をどうチェンジするのかの説明はありません。Changeという言葉の感触で、大衆が熱狂するということなのでしょう。

 最近、アメリカ人を含む世界的な学者や評論家の発言でも、今回のサブプライムローン問題に発するアメリカ発の世界金融危機について、アメリカのやったことは詐欺だとか、毒入り証券を世界にばら撒いたとかいった歯に衣着せない論評が多いようですが、アメリカに必要なChange、本当にアメリカが変わってくれなければ世界中が困ることは何なのでしょうか。

 もちろん覇権主義が独りよがりになっているとか、種々指摘はあるでしょう。 しかし、こと経済問題という視点で見れば、それは「経常赤字国からの脱出」ではないでしょうか。
 世界の覇権国家、基軸通貨国が万年赤字国では、世界経済が健全に発展することは困難です。

 アメリカが経常黒字国になれば、アメリカは世界から 金融工学でお金を集める必要は無くなります。多分、世界の金融システムも、会計基準も、改めて見直されることになるでしょう。

 しかしこれはアメリカ人にとっては、他人の金を当てにしない生活をすることですから、もっと頑張って働くか、さもなければ、生活レベルを落とさなければなりません。
まともなChangeは辛いものです。それが解ってのスローガン、“Change” であることを望みたいと思います。