tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

2025年春闘、単産は強気の要求へ

2024年12月24日 15時15分01秒 | 労働問題

年が明ければ労使関係は春闘に季節に入ります。

このブログでは、日本経済の行方を決めるのは、結局は産業活動の現場を担う労使の活力如何と考えており、年々の春闘は、労使の活力と相互理解の状況を判断する上の重要な判断材料と考えています。

今年の春闘は、労働側も、低迷する日本経済をこのままでは放置できないと、積極的な賃金所得増による消費需要の回復を意識し、5%以上という要求基準を掲げ、経営側もそれに報いることで産業活動の活性化を図るという意識も生まれたのでしょう、結果は33年ぶりの高率賃上げとなりましたが、労使双方の元気度がまだ少し足りなかったのでしょうか、実質賃金の低下はほぼ止まりましたが、上昇迄は難しいという水準でした。

ただ経団連も賃上げのモメンタムは継続したいという見解を示していますので、来春闘はもう少し元気が出るのではないかと期待するところです。

春闘は通常、労働側が賃上げ要求を仕掛けて始まります。ここでは、労働側の元気が試されるわけで、この程度の賃上げをしても、我々の働きで企業活動を活発化し賃上げは吸収できるはずだ、という所から決めるようです。

経営側は自信があれば、よし、それでいこうお互いに頑張って業績を伸ばそうという事で満額回答になります。今年の春闘は、そんなケースも多かったですが、

さて、来春闘はどうでしょうか。

要求基準としてすでに報道されているのを見ますと、連合は5%以上で今年と変わりませんが、中小については6%以上と1%高い設定にしています。

金属労協はベースアップ1万2千円以上と定昇別のベア要求です。基幹労連は今年は単年度要求に切り替えて月額1万5千円の要求です。

多様な業種を包括するUAゼンセンはベースアップ分で4%、定期昇給込みでは6%要求と連合の基準を上回り、さらに非正規雇用については7%を要求しています。非正規の正規化が進まない中で、特別の配慮でしょう。

こうした中で、経営サイドからのニュースで日本生命が営業職員の賃金を来年度から6%程度引上げるという事が発表されました。

生保の営業職員の賃金は成果給+固定給の形が一般的ですがその両方を積増し、昨年・今年の7%程度に続き3年連続の大幅賃上げとの事です。 

サントリーHDも経営側が来春闘も7%程度の賃金引き上げの方針を打ち出していますが、賃金は労使で決めるものですから、労使どちらが言い出しても双方が納得できれば、いいわけで、それが企業の活力に繋がり、業績の向上が企業全員のモチベーション向上に繋がるというのが労使交渉の意義でしょう。

折しも来年には、日本生命の筒井会長の経団連会長就任が決まったようで、今後の春闘がどんな図柄になるか、日本経済の先行きと共に深い関心と共に見守ることになりそうです。


「賃金引き上げ」は与野党一致のようですが

2024年12月05日 14時27分19秒 | 労働問題

今日の国会の議論を聞いていましても、「賃金を上げなければならない」、「特に中小企業の賃金引き上げが必要」といった意見については、与党の野党もみんな賛成ということのようです。

法律制度を伴う細かな点については、国会で議論する事が必要でしょうから、「103万円の壁」というだけではなくて、制度を変えて、同じ賃金でも、手取り(可処分所得=消費性向を計算する際の分母)が増えるようにするのは、具体的に法律制度をどう変えなければならないかといった問題は、国会で、きちんと詰めなければなりません。

これは数兆円というコストのかかる問題ですから、政府が身銭を切ってやるのでなければ、税制改正が必要です。

与野党もこの点では、方向は一致しているようですから、十分に熟議して、合理的な一致点を見出してほしいと思っています。

勿論、この問題は、早速問題になっている中央と地方の問題を始めとして、より本質的な問題としては、所得税制の累進税率をどうするかという問題を含むでしょう。

嘗ての日本のよう極端ともいえる累進税率に帰ることは考えられないとしても、与党の中にも、富裕税といった構想もあるようです。何が富裕かという問題は、多分大議論になるでしょうが。

こうした発想はすべて、基本的にはこの所の日本の格差社会化が、与野党共に掲げている安定した中間所得層の拡大という目標を達成困難にしているので、何とかしなければという意識に根差すものでしょう。 

思いが共通であれば、与党も、自分たちが壊してきた、この30余年の日本を何とか再建しようと謙虚に考えることもできるでしょう。

勿論、政治が直接手を下せることは、こうした法律制度の整備に限られていることも事実でしょう。

今日の国会の議論などを聞いていますと、賃上げ、特に中小企業の賃上げといった言葉が次々と出て来ます。しかし、本来、政府には賃上げ能力なく、それは労使の専権事項です。

現実には、労働サイドには立憲民主党は連合と関係がありますし、国民民主党は電力労組などとの関係があります。自民党はというと関係は経団連という企業サイドですから、政治献金も賃上げもとは言いにくいでしょうし、政治献金はやめても賃上げをとは言わないでしょうから、政権与党の権限である補助金や給付金を非課税世帯などへのバラマキを言います。これは結局、国民からの借金で将来の国民負担です。

補助金や給付金は、結果的には正常な経済活動を狂わせる弊害の方が大きいのですが、政権は、身銭を切るわけではないので、好んでとる方法です。

こうした三角関係か四角関係か解らない背景の中で、共に、中間所得層の拡大という共通目的を追求するのが今国会なのでしょう。

本当に大事なのは、労使が中間所得層の拡大をしやすくするような国際、国内の環境整備に成功するかですから、ここは自己都合はすべて二の次にして、本気で日本経済・社会の再建に集中してほしいと思っています。


来春闘への動きを追いかけてみましょう

2024年11月29日 15時06分50秒 | 労働問題

バイデン大統領は、任期内で可能なことは、きっちりしておこうと努力されているようですが、国際情勢は、トランプ氏の登場を前に、何となくざわつく様相です。国内は政治改革と経済政策が、少数与党という条件の中でどんな議論になるのでしょうか。

そんな中で、日本経済の今後に最も影響があると思われる来春闘についての動きが報道されています。

去る26日、石破総理は、来春闘に向けての政労使会議を開いて、労使の意向を聞きつつ、最低賃金1500円に向けての要請もしたようです。

27日には金属労協が来春闘の賃上げ目標として、今春闘の1万円を上回る1万2千円の要求基準を発表しています。

政府のバラマキや補助金が役に立たないと、このブログでは指摘していますが、政府が自分の役割の限界を理解した上で、来春闘の賃上げに関心を持つのは結構ですが、気になるのは、政府が自分の意見を伝えるためにやっているように思われる点です。

もともと賃上げは労使が自主的に決めるもので、政府は関係ないのです。その代わり、政府は財政・金融政策という手段を持っていて、必要があればそれを使うのです。

今度のアメリカ、ヨーロッパのインフレも、石油や木材などの資源価格の上昇に刺激されて賃金が急上昇し、賃金インフレを加えて消費者物価上昇が8-10%に達し、それを政策金利を引き上げて収めようとしたが、金利引き上げは景気抑制と通貨高を伴うので、FRBもECBも対応策に苦慮した(している)というのが実態です。

日本の春闘ではそうした賃金上昇はありませんから物価は上がらず円安が進み、主要輸出企業が大儲けという事で今春闘の満額回答続出という異常状態でした。

欧米と事情が違い過ぎる日本の労使の行動に、日銀は金利引き上げの時期を待ちながら10年以上も苦慮し続けるというのも、日本特有の問題です。

賃上げが高すぎる欧米、低すぎる日本という、労使関係の文化の違いが齎す問題にそれぞれが苦労しているという構図でしょう。

所で、来春闘に向けては,連合が、中小企業に特に配慮して、中小の賃上げ目標は1ポイントプラスの6%と設定しました。政府は公労使が決める(政府は入っていない)はずの最低賃金の目標に、早期に2029年までに1500円にするという目標を提示して上記懇談会に「そのための環境整備」をすると労使に伝えたようです。

政労使が一堂に会したことは大変結構ですが、写真を見ますと政府が労使代表を前において、懇請しているのか、指示しているのかは解りませんが、政労使3者が対等の立場で、意見を交換するというものではないようです。

その翌日の27日、日本で最も開明的な労働組合組織として知られる金属労協が来春闘の要求基準1万2千円を発表しました。単産の要求は、今春闘を超えそうです。

こうした種々の動きから感じられるのは、要求基準は上がりそう。中小は連合が応援する、政府は法律で強制する最低賃金の大幅引き上げを望む、などなどで、平均賃金水準の一層の引き上げと、賃金格差の是正を労使が望み、政府はその環境整備をするという動きです。これが進めば大変結構なことですから、大いに応援したいと思いますが、最も難しいのは格差是正ではないかという気がします。


連合は来春闘の構想の検討開始

2024年10月04日 14時37分16秒 | 労働問題

日本の労働組合の代表的組織「連合」が昨日幹部会合を開き、来春闘に向けての本格的な議論を開始したとのことです。

労使が共に積極的な賃上げが必要という事で、意見が一致した今年の春闘のあとを受けて、継続的な賃上げが必要という声が強い中での来春闘です。

これから年末にかけて、労使の来春闘に向けての賃金引き上げを中心にした本格論議が進められ、年末には労使ともに方針の決定を見、年が明ければ、連合、経団連が共に報告書を出して、春闘の旗開きとなるのでしょう。

欧米の賃上げ要求は、労使協定が切れる時期に、産業別にバラバラなのが普通ですが、日本の場合は、年度替わりの4月の賃金改定を目指して、年1回全国全産業企業一斉という形が戦後定着しています。

本来労使の専管事項である賃金交渉が、政府にとっても経済政策に関わる重要な問題との認識が強く、経済政策の一環のように考えて発言したりします。

ご承知のように、昨年は連合が定期昇給+賃上げ要求として「5%以上」という目標を決め、交渉の結果は3.56%獲得で、前年比1.44ポイント増でした。

マスコミでは33年ぶりの高さなどと評価されましたが、生活者目線、家庭の主婦の感覚ではこれで25か月続いた実質賃金前年比低下プラスになるのかしら?というのが正直なところだったのではないでしょうか。

このブログでは長い間、物価と賃金の動きを毎月追ってきているのですが、それでは連合も経団連も、それなりに頑張った2024年春闘の「結果は如何に」と見ますと、6月はボーナスが増えたお蔭で実質賃金はプラスに転じましたが、7月は、統計の中のどの数字を採るかで答えが違うという判定の難しい状態です。

このブログでは諸種の事情を考慮して、今後は実質賃金プラスの方に判定できそうとしていますが、来週発表の毎月勤労統計が、最新の情報を提供してくれるでしょう。

こう見てきますと、連合もそれなりの満足感を示した2024年春闘の結果も、現実の生活者か見れば、これで良かったと言い切れるものではなさそうです。

多分、その辺りは連合も感じている所でしょう。しかし日本の労働組合は欧米の労働組合に比べると驚くほど合理的な意識構造を持っています。

嘗ては日本の労働組合も、「要求は高い方がいい」といった「立場の理論」で要求を組んだのですが、今の連合は、日本経済の健全な成長と両立する賃上げといった、立場を超えた客観的合理性を重視するようです。

一方経営側は、欧米並みの考え方が強く、要求通り出す必要はないだろうと要求-Xの考え方ですから、どうしても結果下は低めになります。こうして長い間、低賃金・消費不振の日本経済が続いて来たのです。

今年の春闘に至り、経営側も余裕の中で好況企業では満額回答もかなり見られました。

来春闘では恐らく連合も少し要求基準を変えるかもしれません。受けて立つ経営側では、経団連の十倉会長が「サステイナブル」との発言のようです。個別には7%目標という経営者もあるようですが。労使とも、賃上げについての意識が変わるのでしょうか。このブログも、これからの労使の動きに注目していきたいと思います。


雇用構造を変えるには:官製「働き方改革」の盲点

2024年09月18日 16時11分34秒 | 労働問題

このブログでは国が「働き方改革」を言うなどは「余計なお世話」で、働き方改革は必要に応じて労使が自主的に考えって実行するものという立場をとっています。

「賃上げ」の場合も同様ですが「官製春闘」はスローガンだけで、去年、今年、経団連が賃上げを認める姿勢を取り、連合内の主要単産が本気なって、やっと賃金が上がってきています。  

政府が日本の雇用構造に影響を与えたのは、「プラザ合意」という経済外交の大失敗の結果、大幅円高で企業が賃金水準の維持が出来なくなり、やむを得ず正社員を減らし、非正規社員の著増という雇用構造の悪化をもたらした事ぐらいでしょう。

ところで、技術革新が進み、雇用構造がそれに従って変わらなければならないというのは当然で、大変大事なことです。

実はそれを極めて上手にやって来ているのが日本企業なのです。これはコダックと富士フイルムの比較でも書きましたし、GMやGEの経営の変容でも書きました。今日現在の話では、日本製鉄のUSスチール買収の話があります。

アメリカの主要企業はでは軒並み産業構造の変化に雇用構造が対応できずに失敗をしているのです。

自民政権の「働き方改革」は、まさにアメリカ型の職務中心、職務がなくなれば解雇のアメリカ型雇用システムが素晴らしいという現実を知らない単純な欧米崇拝の結果なのです。

現政府の「働き方改革」では、企業の新卒一括採用は非合理的だからやめるべきとなっています。日本企業はやめる気配はありません。これは雇用というものの本質の理解が、欧米と日本では違うからです。

日本では企業は人間集団です。人間集団の凝集力がシナジー効果を生んで、1+1が2以上の力を出すのです。欧米流の職務中心の採用では、個々人の能力を全部引き出しても100%で、そこまでは出ないのが普通でしょう。

欧米流では職務がなくなれば解雇されます。技術革新の時代です、解雇され、改めて進路を決め、勉強し、トレーニングを受けて新しい職務を探します。

日本の伝統的な方法は、技術革新などで企業の職務内容、職務構成が変わったとき、企業自体が自分のやる仕事を変えて行きます。繊維や窯業の産業から化学、電機、半導体へ業態を変えていくのは企業の当たり前の発展過程のようです。

従業員は手慣れた専門分野から共通点のある新分野に雇用は継続のまま企業内の再訓練再配置で安定した生活を保障されながら、高度技術企業の従業員に脱皮します。

ですから、日本には企業生命の長い会社がいくらでもあります。ドラッカーが日本の企業生命の長さに驚嘆し、自らの経営学に取り入れたことは知られています。

日本の失業率は欧米に比べて常に異常に低いことも知られています。人間集団ですからそこから排除するということは人間の尊厳という視点からも避けたいという意識が根底にあるからでしょう。

雇用という問題が、企業の利益を中心に判断される欧米のと、人間集団が協力してその時代に必要な仕事をして社会貢献するという経営理念を持つ日本企業との違いが判らずに、日本の雇用政策を考えても決してうまくいかないのは、こうした理由からだと考えています。


最低賃金、今年も5%の引き上げに

2024年07月24日 13時59分34秒 | 労働問題

最低賃金に引き上げは毎年、7月の暑い時期に中央最低賃金審議会で引き上げの「目安」を決め、それを参考にして、各県の最低賃金審議会が県別の最低賃金をきめ、10月から実施という事になっています。

現在審議中の上記の「目安」は、現状の全国平均1004円を1054円に50円引き上げるという形で進められているようです。

中央、地方の最低賃金審議会ともメンバーは公労使の三者構成ですが、大体は事務局の厚労省(政府)の意向で決まるようです。

アベノミクス以来政府は最低賃金の大幅な引き上げにご執心で、このところは毎年5%を目標にしていて、2030年代半ばには時給1500円が目標と言っています。

日本の最低賃金は国際的に見ても大変低いといわれますが、かつてはアメリカよりも、かなり高い時期もありました。

なんでそんなことになるのかと言いますと円レートのせいで、アメリカの連邦最低賃金は現在7.25ドルですから、円レートが110円なら798円で日本の方が高いのです。アメリカで一番高いカリフォルニアやニューヨークは16ドルですから現状の154円を掛ければ2464円です。これは高いですね

円安だからと最低賃金を上げて、円高になったら下げるというわけにはいかないので、日本は日本経済の実力なりの最低賃金を決めるしかないわけです。

その意味で厚労省は10年後1500円という目標を置いているのでしょうが、毎年5%上げると10年後には1600円を越えます。それを1500円としても、政府の今後6年間実質成長率1%以上という経済成長目標では大分コスト高になるわけです。

政府はどう算段するのか解りませんが、国民所得が1%ほどしか増えないのに最低賃金を毎年5%も上げるという事は、そのために所得の高い部門から最低賃金に関わる部門に原資(富)を移転させなければならないのです。

今、政府はそれを賃金コストの価格転嫁で実現しようとしているのですが、今春闘の中の議論でも知られますように、なかなかうまくいきません。日銀「短観」で見ても大企業の大幅増益と、中小企業の収益改善の遅々という姿は歴然です。最低賃金は法律で強制されますが、価格転嫁は任意・交渉が現実です。

もともと最低賃金法というのは賃金格差の拡大を防ぐために生まれたものですから、その背後には格差拡大は社会正義に反するという倫理観がなければ成立しません。

戦後の日本企業では、収益や付加価値の増加は労使あるいは顧客も入れた三者で均等分配しようといった真面目な考えもありましたが、今、配当の高率化、高所得の経営者が急増する中で、倫理観を前提にした政策の枠組みは機能しません。

今の政権党である自民党にこんなことを言っても、政治家自身が、自分のところに税金かからない金を持ってくることに専念するばかりですから詮方ないといいうのが国民の気持ちでしょう。

ならば労使に、現実に社会経済活動を担当する当事者として、社会正義の意識、経済社会における倫理観を求めたいと思うのですが、残念ながら今の日本では難しいようです。

今はただ「神(紙)頼み」で、わたくしのお財布には、未だお見えになっていない「論語と算盤」の渋沢栄一先輩にお願いしようと思っていますが、どうでしょうか。


非正規労働者問題、雇用・生産性の視点から

2024年05月20日 15時50分58秒 | 労働問題

非正規労働者の問題は、格差が少ないといわれた日本の格差社会化の大きな要因として、所得の低さを中心に、無技能で雇用の不安定、更にはいわゆる80/50問題といった社会的な側面で論じられることが多いようです。

しかしこの問題は視点変えれば、日本経済、日本の産業の低生産性問題としての面でも影響は大きいはずです。

端的に言って、雇用者の4割近くが無技能あるいは低度の技能しか持っていないという雇用構造の産業社会が、高水準の生産性を上げる社会ではあり得ないという問題です。

こうした研究がないかとネットで探してみたのですが、見つかりません。

非正規の問題を社会問題として捉えれば、その対策は政府の仕事という事になるでしょう。しかし、生産性の問題として捉えれば、それは企業の問題にもなって来るのです。

勿論政府も、雇用保険2事業の中の能力開発事業など色々なことをやっています。これは結構なことですが、日本の場合伝統的に、従業員の能力開発は企業の仕事で、政府の仕事はせいぜいその補完程度なのです。

ですから、長期不況で、企業が非正規を増やし教育訓練の手を抜くと、現状の無技能、低技能の非正規問題が起きてしまうのです。

つまり、日本の産業社会では教育訓練の仕事は殆どが企業の手でやられていたのですから、それが30年不況で手抜きされた結果は、結局は企業の新たな努力で取り返さなければならないという事になるのでしょう。

企業レベルで考えてみれば解りやすいですが、100人の従業員がいて、業績悪化のためにその4割を非正規に置き換え、きちんと教育訓練をせずに何とか繰り回してきた企業と、頑張って教育訓練を続け全従業員を1人前に育ててきた企業とでは、企業としての生産性の格差は歴然でしょう。

有資格者が不足で無資格者がハンコを借りていてそれが発覚したり、ケアレスミスで事故が発生し一時休業といったことが起きれば生産性は更に大きく落ち込みます。

今の日本経済は客観的に見ればこうした状態にあるのではないでしょうか。加えて、優秀な人材が海外に脱出して競争相手国の技術水準を高めるようなことも起きたりします。

人を育てるのにはそれなりの時間がかかります。挽回には「時間とカネと努力」が必要です。しかし日本の復活のためには、まさに今から、それが必須なのです。

10年前、黒田日銀の政策で、1ドルが80円から120円になり、「円高不況」は無くなりました、このブログでは、日本企業、日本の経営者は、この機を生かして非正規従業員を正規化し、教育訓練の再開に踏み切ると予想していました。

しかし、それから今日まで、非正規比率が大きく減ったというニュースは聞かれません。長期不況に苦しんだ日本企業の多くは、当面の利益確保という短期視点の経営に走ったまま今日まで来てしまったようです。

4割近い非正規従業員が、それぞれの職場でベテラン社員になった時、日本産業の生産性は大幅に上がるでしょう。

これからの日本、人手不足を嘆く前に、やるべきことはいろいろあるようです。

頑張れ日本!


高度産業技術の細分化と総合化、そして人材育成

2024年05月17日 20時08分14秒 | 労働問題

九州工業大学飯塚キャンパスというのはユニークな教育環境を持っているようです。

今朝の朝日新聞にも紹介されていました。今後の産業発展の心臓部のように言われ、世界が高性能化の開発競争をしている半導体についてですが、その半導体の製造装置の全工程を、クリーンルームに入ることから始めて、実際の機械を見て、触って学べるという事で大人気とのことです。

今や半導体製造は、設計から最後の検査まで多くの工程に細分化され、それぞれの工程が超高度な技術によって支えられているとうのが実体でしょう。

飯塚キャンパスにいけば、その細分化された全工程を一貫して現物を見、手で触って研修を受けられる施設が用意されているというのです。

この部門は「マイクロ化総合技術センター」というのだそうで、センター長の中村和之氏が自らの経験から、技術が高度化し細分化されればされるほど、全体の見る目が大事になるという考え方に立つ施設だそうで、日本有数の半導体企業の新入社員研修から学び直しの場としての研修まで、参加者が増え続けているとのことです。

アダム・スミスが「国富論」で分業による生産性の向上を書いていますが、産業技術の発展は分業と総合の合理的で緻密な連携を必要としているようです。

部品の規格を統一化した製品を作り、部品を取り換えるだけで製品は新品同様に機能するという方式を最初に取り入れたのは「ウインチェスター銃」だという話を聞いて感心したことがありましたが、そこには製品と部品、つまり部分と全体の関係をしっかりと把握している人が居るのだろう、その人がウィンチェスターという人なのだろうと思いました。

今は自動車でも、コンピュータでも、飛行機でも精密な部品の集合体です。そして部品すべてが完成品の性能に最適な機能を果たすように設計され製造され、そして利用されています。

その上に、最終製品の性能は常に高度化し、部品はそれを支える最適なより高度な機能を持たなければなりません。この製造プロセスの細分化と完成品の総合能力の向上を実現するために必要なのが、部品の製造過程の中にも最終製品の姿(性能)がイメージされている事が大事だという見方があります。

生産工程が細分化されればされるほど、部品と完成品の関係、部分と総合のあるべき関係を、それぞれの部分の担当者が正確にイメージできるかどうかが大きく関わってくるのではないでしょうか。

分業は作業を単純にします。それが効率化、生産性の向上を可能にすると考えたのは産業化の初期の姿でしょう。しかし作業の単純化は同時に作業の非人間化にもつながります。人間関係論はそこから生まれました

実はこの辺りが、日本的経営の出番だったようで、QCという統計作業を「QCグループ活動」に発展させた日本人の知恵がかつて一世を風靡しました。

この日本人の考え方の特性は、今も生きていて、部分に携わるものも全体を理解し、全体に繋がろうという活動の重視になっているようです。出発点は部分でも、それは常に全体の理解の中での部分、といった意識や活動が注目されるのではないかと感じるところです。

冒頭の「マイクロ化総合技術センター」の発展を期待します。


2024春闘、大企業の部は超順調の様相

2024年03月16日 16時32分36秒 | 労働問題

今春闘も集中回答日が過ぎて、連合から回答速報も発表になり、春闘歴史上稀有な様相が現実になるプロセスが見えてきたようです。

もともと経営側が賃上げの必要に気付き、経団連が、連合の意識を上回るような賃上げへの意欲を示していたわけで、労使の賃金交渉の一般的な形としてはあり得ないような雰囲気の中で始まった異常な春闘です。

歴史を辿れば、資本主義経済の中で、その社会的な発展とともに労働組合が生まれ、労使交渉が制度化され、賃金や雇用をめぐる労使交渉が一般的になったのは、利益を上げ、より多くの資本蓄積をしようとする経営側と、より高い賃金水準を実現しようという労働側との対立を「交渉」、Collective Bargainingという形で止揚しようという発想から生まれたものでしょう。

例えば、アメリカでは(今でもあるかどうか知りませんが)「労使関係は敵対的でなければならない」という法律があったはずです。

ですから、諸外国から見れば、あり得ないような賃金交渉が、日本では、今年、ごく自然に行われているという事なのです。

連合の回答速報№8の主要企業の交渉結果は殆どが満額回答(要求以上もちらほら)で、初回集計結果は5.28%です。

経営側は、支払えるのだから当然の回答、という姿勢のようですし、連合も「もっと要求すればよかった」ではなく、素直に交渉の結果に満足を感じているようです。

日本の場合諸外国と違って、賃金交渉は基本的に企業単位で行われます。諸外国の多くのように、産業別とか職種別の組合組織と産業別経営者団体あるいは代表企業が交渉するのではありません。

日本では、企業別に組織された労働組合が、その企業の経営者と交渉するのですから。「他者の従業員の分まで責任を持って」という意識は必要ありません。

企業労使は、自分の企業、「わが社」の経営状態については労使共に理解しています。その意味では満額回答は、労使の理解の一致という事でしょう。連合としてはそれはそのまま肯定できるのです。

こうした労使関係は、昔は「近代的労使関係ではない」などと、海外や日本でも学者などから「遅れている」と見られていましたが、石油危機への対応の鮮やかさなどから「日本的経営」、「日本的労使関係〕として世界から注目されたものです。

この対応の鮮やかさに恐れをなした主要国が、この日本の労使関係を逆手にとって、日本に円高を要請し、日本の労使が、真面目にその大幅の円高の克服に真面目に協力したのが日本の長期不況だったのでしょう。

この長期不況の呪縛が漸く解けた日本が、改めて新しい成長経済の道に復帰しようという最初の労使交渉が2024春闘という事ではないでしょうか。

今年は連合にとっては上手く行き過ぎかもしれませんが、来年以降も、本来の「日本的労使関係」を生かし、新しい成長路線に向けて誤りない賃金決定を労使で賢明に選択していく事を願うところです。


2024春闘出足順調、ホンダ、マツダ満額回答

2024年02月22日 14時14分17秒 | 労働問題

昨日のニュースで、大手自動車メーカーのホンだとマツダで満額回答が出ました。

ホンダは組合の要求「月例給(定昇プラスベア)で2万円、一時金(ボ-ナス)年間7.1ヶ月という要求で、これはバブル期以来の高水準でしたが、一発回答で満額といった感じです。

マツダは基本給の引き上げを16,000円(定昇プラスベア)、一時金は5.6か月分で前年プラス0.3か月という事で、一発満額です。

原則論では、月例給や基本給の引き上げは、企業の安定した成長に支えられるもの、ボーナスは一時的な業績を反映するものという基本視点に立てば、企業は順調に成長し、その上に円安などで一時的な収益改善効果があった事の結果という事でしょう。

企業の立場から見れば、今年の基本給や月例給の上昇の中の「ベア」にはこの所の物価上昇による実質賃金の低下を補うという意味の部分も勘案されているはずで、更には部品産業などの賃上げの価格転嫁分原材料費が上がっても、着実に支払える賃金水準という視点も入っているという賃上げでしょう。

そういう意味では、今春闘の結果は、これまでの積み残し分を企業として清算するという役割も持っているはずなのです。

そうした視点から言えば、企業にとって満額回答出来る程度の要求というのは随分と控えめで、組合側からすれば、頑張って勝ち取ったつもりが、それほどでもなかったというこ事にもなるのでは、という見方も在り得ましょう。

一方ではまた、春闘の結果が出るのは6月頃でしょうし、今年乃至今年度中に円レートがどこまで円高になるかが春闘結果の判断を左右する可能性も大きいでしょう。円高が進めば、今春闘の結果が企業にとって重いものになります。

この辺りはアメリカ(特にFRB)次第です。日銀はある程度の円高を予測して、ゼロ金利脱出を考えようという姿勢ですが、円高が10%進めばその分だけ日本企業の賃金負担は重くなるという関係は消えません。

春闘を取り巻く条件は多様ですが、連合も経団連も「毎年継続した賃上げ」が必要と言っていますが、それに必要なのは毎年日本経済の生産性が安定して上昇する事てあるという事は誰にも解っている事でしょう。

今年の春闘は、不足していた消費を増やし、日本経済がバランスのとれた成長型経済に入ることを目指して労使の分配をある程度労働側に有利にしようという労使共通の発想が出発点でした。

それが出来て初めて来年から「毎年賃上げが出来る」条件が整うのです。ですから、今年は労働への分配を増やす春闘、来年からは、経済成長(生産性上昇)に見合う賃上げを目指す春闘ということになるという基本的な視点を、忘れない事が大事のように思います。


動き出す春闘「賃上げが日本経済を救う」特異な年

2024年02月20日 12時18分31秒 | 労働問題

今年の春闘は「経営側主導」と言ってもいいほど経営側が積極的です。経団連からは「賃上げは社会的責任」といった声まで聞こえてきます。

トヨタ自動車は、部品調達価格は来年にかけて上ってもOKというサインを出して、部品のサプライチェーン各段階の企業の賃金上昇での部品納入価格上昇を認めているという意向を公にしています。

これは、これまで納入価格引き下げが命だった下請け産業企業にはこの上ない朗報でしょう。そこで働く人たちの賃上げ期待は大きく膨らむでしょう。

組合側の自動車総連の部品・下請け企業は「(賃金上昇の)価格転嫁の波を業界全体に広げていくチャンス、その活動を活発にしているようです。

勿論こうした雰囲気は自動車産業だけでなく、日本中の産業企業に拡がって行く様相で、それには「公正取引委員会の賃金上昇の価格転嫁の指針」の発表も大きな支援になっているでしょう。

逆に従業員の方からは、「賃金が上がるのは嬉しいが、そんなに『上げる、上げる』で大丈夫ですか」といった意見があったりするようです。

こうした状況はまさに象徴的ですが、日本企業はこの所長い間コストカットが至上命題と考えていて、それが当たり前にようになっていたからでしょう。

こうした企業のコストカット意識と、政府の年金を含む将来不安発言が、日本の家計をして「消費を削って貯蓄が大事」という意識を一般化し長期にわたる消費不振によるデフレ経済を作って来ていたのです。

その結果がゼロ成長経済で「親の代より良い生活は出来ない」という意識の一般化という沈滞した日本社会でした。

一方、企業の方は、低コストによる国際競争力の強化や、増加した海外投資の収益で利益は比較的順調、それにこの所の円安が加わって、未曾有の高収益企業が続出という状態になり、物価の安い日本にインバウンド殺到といったオマケにもつながりました。

その結果、一部大企業にも「これは少しおかしい。賃上げの余力もあるし、従業員に元気を出してもらうためにも、少し賃上げをした方がいいのではないか」という意識が生まれたのが去年の春闘辺りからです。

そして、経団連からも「賃上げは社会的責任」という言葉が出ることになったのです。これは経営サイドとしても本来は当然で、生産活動の成果である付加価値(GDP/GNI)を将来の生産活動が安定した拡大再生産になるように労使で最適に分配するというのは「経営者の役割」というのが経営学の示す所なのです。

つまり、今年は経営側も気が付いて、日本経済が成長を取り戻すように「適切な労働分配に修正しよう」という特異な年ですから労使で大いに話し合って、積極的に賃上げをすることが、労使双方、日本経済にとって最も重要なことなのです。

以上が今春闘の課題、これからの健全な労使関係構築の試金石だとこのブログは考え、期待しています。


労使の望む「継続的賃上げ」の条件

2024年02月08日 15時24分13秒 | 労働問題

前回のこのブログで、「継続的賃上げ」が出来るような日本経済にしなければならないという点を指摘しました。

これは、これまで長期に賃金が上昇しなかった(物価上昇を差し引いた実質賃金が20カ月も前年同月より低かった)日本の家計からの本当に切実な要望でしょう。

幸いなことに、今年の春闘に向けては、労働組合サイドは勿論、経営サイドの代表である経団連も「継続的賃上げ」の必要を強調しています。

労・使・生活者が揃ってその必要性を指摘しているのですから、これからは多分それが実現されるだろうと思うのですが、今回はそのために何が必要かを考えてみましょう。

昔の日本の賃金制度では、この点は、年功賃金制度の中で「定期昇給」として考慮されていました。若い時の賃金は安くても、結婚し、子供が出来るころには、家族手当も含めて、それなりの賃金になるというシステムです。

今でも連合の賃上げ要求の中に定昇分2%という形で残っていますが、戦後の高度成長とインフレの中では定期昇求10%などという企業も沢山ありました。

世の中変わって、初任給が高くなり定昇は小さくなって、定昇は若い時代中心の習熟昇給の色彩が濃くなっています。ですから「継続的賃上げ」という事になりますと「定昇+ベア」という事になって、ベースアップの重要性が高まります。

勿論正社員でないと定昇はありませんから「賃上げ」は一般的な言葉で「賃金水準の引上げ」と言い替えた方がいいのかもしれません。

ということで、上の表題は、企業が毎年従業員の賃金水準(平均賃金水準)を引き上げていくための条件は何かという事になります。

最も基本的なことは、日本人は日本のGDPで生活しているという事です。GDPが増えれば生活は良くなります。GDPは企業の資本費(収益と支払金利など)と従業員の人件費(賃金と福利厚生費など)の合計ですから、標準型はGDPの伸びた分(経済成長)、経済成長率と同じ分だけ、企業利益も賃金も増えていくという事です。

この場合のGDPは実質値です。

ですから、毎年日本人の平均賃金水準が上がるという事は、毎年日本が経済成長するという事で可能になります(経済活動以外の必要条件は戦争に巻き込まれないこと)。

これから日本経済も多分成長経済になるでしょうから、その分毎年平均賃金は上がることになるでしょう。

今迄上手く行かなかったのは、成長が少ない中で、消費者(買い手)の賃金は増えずに生産者(売り手)の利益は増えるという形になっていて、生産者が作っても売れないので生産を減らし賃金も減らすという形で経済成長が低迷していたからです。

そこで生産者(売り手)の方も、消費者(買い手)の方にGDPを分配して売上をのばさなければ経済が成長しないという事が解って、賃上げをしようという事なったのです。

複雑が事情があってこうなってしまったので、誰が悪いというより「直す」ことが大事ですから、春闘で、みんなが本気になって確り賃上げをすれば、経済は生産と消費のバランスが回復して、成長を取り戻すでしょう。

分配を直せば成長が戻ってくるという事で、岸田さんの「成長と分配の好循環」になるわけですが大事なことは「分配と成長」で順序が逆だという事です。

単純化し過ぎていろいろ意見はあると思いますが、政府も学者も企業も労組もそうならないように日頃から気を付けることが大事なようです。


岸田総理、近く政労使会議開催の意向

2024年01月18日 14時29分20秒 | 労働問題

2024年春闘で、最も関心の高いのは、何と言っても賃上げについての労使双方の見解です。連合の定昇込み5%以上、経団連の昨年以上の賃上げが望ましい、といった基本路線はすでに取り上げていますが、組合サイドでは金属労協の1万円、基幹労連12000円など産別レベルではかなり高めの要求基準も出ています。春闘リーダー格の全トヨタ労連はこのところこうした平均数字の発表はしていないようです。

経団連は十倉会長が賃上げは持続的でなければならないという持論を披歴され、2024年については、昨春闘の経団連集計3.9%を意識しつつ4%以上といった発言もされている様です。

厚労省の昨春闘の集計は3.6%ですが、今春闘のエコノミストや経済研究機関の予想は3.8%から3.9%辺りに集中しているようで、マスコミもこれで長いデフレからの脱出が可能にといった論調のようです。

春闘キックオフ前の段階で、2024年春闘賃上げの見通しはかなり絞られてきているようですが、そうした中で岸田総理は、近く政労使会議を開催するという意向を示されたようです。

安倍政権以来、政府が春闘に介入するというのは日本の常識になっているようですが、これは極めて異常なことで、それを黙認している企業労使も、その代表組織も、領空侵犯に対して寛容過ぎるのではないでしょうか。

政労使会議を開くことはいいことですが、春闘の時期にだけやるというのは、賃上げに影響を与えたい、結果が政府の意に沿ったものであれば、自分の功名にして、票につなげたいという意識が見え見えです。

それも偶々賃上げをした方が良いという条件が揃っているからで、これが賃上げ抑制だったら多分介入はしないでしょう。

政労使会議といった大事なものは得点稼ぎにやるのではなく、嘗ての産労懇の様に、経済活動のプレイヤーである労使との十分なコミュニケーションのために必要と考えて定期的に行う真剣さが必要です。

些か八つ当たりのきらいもありますが、人気取りに走る政権に、「主役は我々だ、我々が決めるのだ」と毅然と言えるというのが権威ある労使の見識でしょう。

企業の労使なら労使で自分たちの企業をいかにより良い企業にするか、労使のナショナルセンターであれば、日本の経済社会をより豊かで快適なものにするかを常に真剣に考え、その考えを世に問い、その共通の目標の実現のために、徹底議論し意見の一致を実践するというのが戦後培ってきた日本的労使関係の極意だったのではないでしょうか。(そうした意識の経営者もマスコミ上で散見されることは喜ばしい事です)

繰り返して書いていますように、政府はプレイヤーではなくレフェリーなのです。近く行われる政労使会議でも、三者が、対等の立場で、日本経済活性化のために役立つ有用な知見の真剣な展開を行い、労使のより効果的な賃金決定活動に役立つようなコンセンサスに近づく成果を期待したいと思っています。


企業は本格的高齢化への対応整備へ

2024年01月13日 13時01分12秒 | 労働問題

人生50年でした、年功賃金、55歳定年制プラス退職一時金という従業員処遇制度は終身雇用制度として設計されたのです、などと外国人に説明ていた時代は歴史上の話となりました。

世界屈指の平均寿命を記録し続け、平和(戦没者無し)で安定した社会を築く努力を重ねている日本の企業では、戦後平均寿命の伸びとともに雇用制度の改革に種々の努力をしてきました。

もともと日本企業の考え方は、欧米流の「必要なときに雇い、要らなくなったら解雇する」という hire and fire の考え方とは違って、わが社という人間集団に入ったものは生涯面倒を見るという理念に立っていたのです。

変化は2つの要因から起きることになりました。1つは平均寿命の延伸、もう一つは社会保障制度の進展とその財政事情です。

定年制度は60歳に伸び、雇用努力義務は65歳という事になり、それでも間に合わない、というので、65歳雇用義務、雇用確保努力義務が70歳という事になっています。

こうした変更は、財源に不安のある公的年金制度との整合性を取るために決められているわけで、長期不況に悩まされて来た企業にとってみれば、雇用についての義務や確保努力を課せられるという負担の面を強く感じさせてきたようです。

ところがこのところ、企業サイドからの定年制、定年再雇用制度、それに伴う賃金制度の改革などの動きについての報道が多くなってきました。

目立つのは定年再雇用の際の賃金水準を、従来より高く設定するとか、job wage 対応にするといったものです。

こうした動きが出てきたという事は、企業が定年延長、再雇用などを行政から押し付けられてするのではなく、企業として、熟練労働力の有効活用、従業員に雇用安定意識を持ってもらい、高齢になっても安心して慣れ親しんだ職場で得意な職務に専念して貰えるというメリットに注目した結果であるように感じられます。

このブログでもすでに触れているところですが、定年再雇用などで、ベテラン従業員を閑職に異動し大幅に賃金水準を引き下げることがい一般化すような状態は、折角職場で鍛え上げた職務遂行能力の活用を年齢が来たからやめるという愚行だとみてきました。

これは勿論当該従業員にとっても極めて不本意なもので、そうしたモラール低下も考えれば、企業全体のパフォーマンスの低下でもあることは明らかでしょう。

そうした意味では、企業としても、長い年月をかけて育ててきたコストを十分回収しないで終わるという極めて勿体ない事をしていると言えるでしょう。

ところで、政府は「働き方改革」で、日本的経営を欧米流の職務中心方式に変えようと熱心ですが、企業の方は、新卒一括採用を辞めない様に、人間集団としての企業の在り方をやめませんから、企業として人を育て、育てた成果を確り回収するという人材の育成/活用計画のバランス管理は、高齢化時代を背景に、更に重要になるわけです。そしてこれは伝統的な人間中心日本艇経営の理念に通じるもののようです。

これは大きく見れば平均寿命の延伸、職業人生の長期化の中で、企業にも、従業員にも最適な雇用人事システムの模索の本格的な動きに通じるものでもあるわけです。

高齢社会のさなる進展は当分続きそうです。今後もこうした企業の動きに注目していきたいと思っています。


有史以来の変な春闘、現実に気付く事が大切

2024年01月02日 13時01分25秒 | 労働問題

能登半島地震で被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。自然は時に苛酷です。でも、皆様の復興の努力には必ず答えてくれることを願っています。

 

新春早々、日本経済の行く先を左右すると言われている今年の春闘についての経営側からのメッセージが報道されています。

経団連の十倉会長は、賃上げへの熱量と意気込みは去年に負けない、結果も必ず昨年以上となってついてくると思うという趣旨の発言を新春インタビューで述べています。

経済同友会の新浪代表幹事は、昨年暮れの連合の2035年までに最低賃金1600円以上を目指すという方針を意識してでしょう、最低賃金が2000円を越えるような経済を目指すと新春インタビューで発言しています。

もともと春藤は、英語ではspring offensiveと言われていて、経営側にとってはspring deffesiveですねなどと言われていたものですが、今年は攻守所を変えて、経営側からの賃上げへの積極的な意見が聞かれます。

労働側の要求に対抗して、経営側は過剰な賃上げないならないために防御態勢というのが世界共通で、日本も以前はそうだったのですが、この所は、経営側が積極的に賃上げをすべきと発言しています。

昨年もそうでしたが、主要企業などで、組合の要求に対し、満額回答というケースが多くみられますが、これは、企業の財務・収益といった見地から満額回答をしても問題ないという経営側の判断を示していると言えます。

今年は労働側の慎ましい要求基準に対して、経営側が積極的に賃上げをしようという意思表示という様相で、元日早々経営側発言が、賃上げは必要、昨年より高い結果を期待する、といった国際的に見ればまさに異常な労使の賃上げに対する意識の状況という事になっています。

何故こんなことになっているのでしょうか。理由は、経営側が、日本経済、日本企業の立場として、多少とも積極的な賃金水準の是正をした方が、日本経済にとっても、自社の経営にとってもいいのではないかという意識を持っているからでしょう。

その意味では、日本経済にとっての賃金水準のあるべき姿に、今の賃金水準は達していないという、経済分析、経営分析について、経営側の方がより速く、より正確に現状を把握しているという事でしょう。

一方、労働側は、長期不況の中で経営側と一緒に苦労してきた中で、無理な要求なしないという意識が強く、その感覚に未だ支配されているというように感じられます。

欧米労組の様に、労働側の代表として出来るだけ高い賃金を実現する事が役割で、経営者はそれを払った上で利益を出すことが役割といった労使関係とは違うようです。これは欧米の労働組織が産業別、職種別なのに対し日本は企業別という要素が大きいのでしょう。

つまり、日本経済、企業経営の現状は賃金水準を引き上げ、日本中の世帯がより大きい購買力を持ち、消費需要の積極的な拡大を必要としているという事に経営者の多くが気づいて来たという事に他ならないのです。

経済学者をトップに据えた日銀も、より多くの経営者が、それに気づいてくれることを願っているのでしょう。

その実現のためには、経営側には、国内のサプライチェーン(下請け構造)における付加価値の配分に公正を期する事も要請されます。これは経営側の重要な課題で、得にd最低賃金の引き上げのためには必須の課題でしょう。