昨年来の景気回復基調の中で、有効求人倍率は上昇し、失業率は下がり、新卒は就職氷河期から売り手市場に転換、建設や介護などの業界では圧倒的な人手不足で、外国人労働者の積極的導入をという声も強くなっています。
つい一昨年までは、長期のデフレ不況に呻吟し、正社員は削減、採用は非正規といった惨状にあった日本の労働市場が、20円の円安で、様変わりの様相になっています。
喉元過ぎれば何とやらですが、もう円高の危険はないのでしょうか。2002年から2007年までの「いざなぎ越え」で、当時就職氷河期は終わったと言われた途端、サブプライム問題が引き金で、リーマンショックが起こり、$1=¥120→80の円高で、再びデフレ不況の淵に沈んだ日本です。
今度はアメリカ経済も堅調のようだし、日銀の政策も変わったし、もう大丈夫という気持ちはあるでしょう。気持ちというより「願望」かもしれません。アメリカ経済は相変わらずの経常赤字で、外国から借金しなければ経済が回らない状況に変りはないのです。このままではアメリカ経済はまた何処かで挫折するでしょう。油断は禁物です。
とはいえ、日本の今の人手不足は現実です。このブログでもずっと触れてきましたように、私はこの状況を人一倍喜んでいる者の一人です。
人手不足こそが、デフレ不況の中で歪みに歪んだ日本の雇用構造の復元を可能にします。
多くの企業が若者を中心に採用を活発化し、安定した職場を求める者は正社員採用し、教育訓練に真剣に取り組み、優れた社会人を育てることが、この20年劣化を続けた日本社会を健全な形に復活させる原動力になることを願っているからです。
ところで、前回まで「生産性」の問題を論じてきました。人手不足の最も有効な対応策は「労働生産性の向上」です。生産性を上げれば人手不足は緩和します。
では「生産性向上」の余地はあるのでしょうか、ないのでしょうか。
7月20日付の「 高付加価値経営と付加価値率」にデータを示しておきました。OECD加盟34ヶ国中、日本の実質付加価値労働生産性は「18位」です。
数字を上げれば、日本の生産性は、以下のような水準です。
アメリカの68パーセント
スエーデンの82パーセント
ドイツの85パーセント
これを言い換えれば、日本経済全体の生産性をアメリカ並みに上げれば、32パーセントの人手が余り、スエーデン並みなら、18パーセント、ドイツ並みでも15パーセント余るということです。
勿論こうした国全体の生産性は製造業企業だけのものではありません。農林水産業も、あらゆる流通、サービス産業も全部ひっくるめての取り組みが必要です。それには、日本の中央政府、地方自治体のマネジメント能力、社会資本、インフラの効率化への効率的な投資(国民経済における資本装備率の向上)も必須です。
しかし他国が出来ていることです。日本に出来ないはずはありません。
人手不足は、失業深刻社会に比べたら、ずっと望ましい姿です。日本の生産性を、OECD加盟国の18番目ではなく、せめてトップ10に早く入るように努力することが、最も重要な人手不足対策ではないでしょうか。