tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

円高を止める新機軸の経済政策-2

2011年01月30日 15時20分47秒 | 経済
円高を止める新機軸の経済政策-2
 これまで見てきましたように、固定相場制の下での経済社会と変動相場制の下での経済社会では、採るべき経済行動の原理が全く違います。
 固定相場制のもとでは健全で優れた経済活動であるものが、変動相場制のもとでは自らの経済基盤を崩すものになったりします。

 その典型が「貯蓄に関する行動原理」です。固定相場制のもとでは、貯蓄は美徳であり、将来の生活を保障するものです。しかし変動相場制のもとでは他人(他国)に貸すほどお金があると、その国の通貨価値は高くなり(日本の場合円高)、これは一見、その国の経済的評価が上がったように見えますが、実はその国のコストを引き上げ、競争力を弱める働きをします。

 そこで、競争力がなくなり、収入が減って貯蓄が出来なくなり、黒字がなくなると、その国の通貨価値は上がらなくなるか下がることになり、バランスが回復することになります。
 これが変動相場制の理屈ですが、日本の場合はどうもそうなりません。何故でしょうか。

 1つには、日本人は、円高になれば、円高によるコスト高を何とかコストダウンや新技術の開発で克服して、それでもやれるように、死に物狂いで努力する頑張り屋だからです。これは確かに素晴らしい事で、日本の技術力や経営力を高めます。

 しかし今のように$1=¥82では、そうした努力も限界に近く、企業はコストの安い海外に展開し、日本の技術力や経営力は海外諸国に移転し、海外諸国の発展に貢献します。その結果、日本国内は空洞化し、雇用機会は減少、GDPも増えません。こうして企業は海外で利益を出しますが、日本経済はゼロ・マイナス成長 になります。

 最近の状況はまさにそうなっています。日本は年々貧しくなりつつありますが、ここでもう1つの日本人の特性が出てきます。それは、日本人に染み付いている勤倹貯蓄の精神です。上に述べた「収入が減って貯蓄が出来なくなり」とはなりません。収入が減って苦しくても、その中で将来のために 貯蓄をしようと努める真面目さです。

 実はこれが大変大きな問題で、この貯蓄超過は経済学の定義の通り「対外経常黒字」になります。ですから外国から見れば、日本は相変わらず黒字国だから、まだ国際競争力が強いのだろう、「円高には耐えられているのだ」ということになります。

 この現象は、失われた10年の後半、またリーマンショック後の日本経済にはっきり見られます。GDPは縮小(マイナス成長)しながら、経常黒字だけは確り出しているのです。

 政府経済見通しでも今年度16兆円、来年度17兆円の経常黒字の予想です。外国や国際投機資本から見れば、「日本経済はまだまだ健全だ、何かあれば差し当たって円を買っておけば大丈夫」と更なる円高を招き寄せることになります。


日本国債ランクの引き下げ(笑話)

2011年01月28日 11時05分40秒 | 経済
日本国債ランクの引き下げ(笑話)
 円高を止める方法の論議をしている最中に、S&Pによる日本国債のAA-への格下げのニュースが入ってきたので、今回はこの問題を、一寸抓まんで見ました。

 今朝の新聞はこの問題を1面トップに掲げているところもあるようですが、経済欄の囲み記事ぐらいでいいような気もしています。もともとサブプライムローン問題の際のムーディーズやS&Pのやったことを見ればわかることですが、すでにこうした格付け会社の信用は 地に堕ちているというのが実態ではないでしょうか。本気で取り上げるのも大人気ないような気がしています。

 マーケットの反応を見ればお解りのように、瞬間的に1円ほど円安になっただけで、すぐもとに戻ってしまいました。後は何も変わっていません。一体何のために引き下げたのか良く解りません。

 日本のマスコミのほうが、真面目に理由を探して、政権争いがごたごたしているからだとか、増税を早くやって、財政再建をしろとの催促だとかいっていますが、格付け会社がそんなことを言うのは、もともと役割外ですし、役割外のことはやらないでしょう。日本国債の信用が具体的に落ちたという証拠があってのことであるはずですが、いまさら新たにそんな証拠はないようです。

 客観的に見れば、いつもAAAになっているアメリカの国債のほうが、この所の大幅赤字財政で、もっと信用がないような気がするのですが、このAAAランクを支えているのは一体何なのでしょうか。
 日本の国債は94パーセントほどは日本人が持っていて、アメリカは日本の国債などほとんど持っていないのですが、日本はアメリカの国債を沢山沢山持っています。日本がお金に困ッたら、保有するアメリカ国債を売れば、まだまだお金持ちなのです。

 こんな理屈をいっても始まらないのですが、かつてムーディーズが日本の国債をボツワナと同じランクにしたり、トヨタが「終身雇用を大事にする」といったら格付けを下げられたりしたこともあります。

 もともと本当に真剣に「格付け」をしようと思ったら、これは人知の及びきれない大変なことでしょう。すでに信用の失墜した格付け会社のいう事など無視して、日本は自分の成すべきことをきちんと考えるということではないでしょうか。

 もし日本の国債のランクを世界最低に格付けして、円が$1=¥150ぐらいになるようにしてくれるというのなら、大歓迎ですが・・・・・。これは冗談。

 

円高を止める新機軸の経済政策-1

2011年01月26日 11時06分45秒 | 経済
円高を止める新機軸の経済政策-1
 円高について、原因、影響、対策など、いろいろ書いてきました。
 このブログは本来経営問題を中心にと考えていましたが、何時、どんな円高が来るか解らないといった経営環境では、中・長期の経営計画など立てられないという実態の下で、円高問題を本気で取り上げなければならなくなった、というのが、これまでの経緯です。

 円高については、いろいろな論評があります。しかし無責任な発言は別として、真面目に論じれば論じるほど、具体的な発言や提言が難しくなるというのが現状ではないでしょうか。
 ここでは何とか、確りと筋を通した対応策が可能かどうかも含め、生真面目に検討したいと思っています。

 当面する問題は、何故、世界で日本だけが、こんなに円高になるかです。ブレトンウッズ体制 の下での$1=¥360から今は$1=¥82あたりです。いつも例えるゴルフのハンディ で言えば、36から8のシングルになりました。こんな国は他にありません。

 しかも、プラザ合意以降、常に実力以上のハンディを貰っているのです。その結果、世界で日本だけが長期デフレに苦しんでいるというのも確り見てきました。

 では、誰がハンディ(為替レート)を決めているのでしょうか。問題はここです。ハンディ委員会は「ありません」。 国際投機資本の思惑が決めているのです。そして迷惑なことに国際投機資本の行動原理は「キャピタルゲイン の極大化」です。

 これはインカムゲイン(経済成長)を追求する実体経済の原理とは全く異なるもので、バブル経済(今回の「サブプライム・リーマンショック」もそうです)や為替操作・為替引き下げ競争の歴史が示すように、実体経済を破壊したり、世界戦争にも繋がりうる資本主義の鬼子 です。

 ブレトンウッズ体制は、こうした世界史の失敗を防ぐために、アメリカが主唱して生まれたものですが、その後アメリカ自身が経済運営の節度を守りきれずに「双子の赤字」の国になり、「ニクソンショック」で放棄してしまいました。

 こうして今の世界経済は、国際的に安定した経済価値基準がないまま、国際投機資本の思惑の波の間にまに、漂流しながら不安定なビジネスを続けざるを得なくなっています。

 すでに述べてきましたように、こうした変動相場制のもとでは、経済運営に節度のない国の通貨は安くなり、経済運営の節度を保つ国の通貨は高くなります。
 こうして、「 万年黒字国」の日本は常に実力以上の円高を強いられることになっています。


円高を止める具体的方法-5

2011年01月22日 10時41分19秒 | 経済
円高を止める具体的方法-5
 現状このブログでの考え方は、円高を止めるには先ず、「万年経常黒字をやめる」、つまり「GDPを使いきる 」、という事から出発しています。第一案の国債発行で経常黒字をなくすためには少なくとも15兆円くらいの国債増発が必要と述べましたが、賃上げ→消費拡大の場合も15兆円ぐらいの賃上げをして、国民がみんなそれを消費に回さなければなりません。

 現状で、雇用者報酬は年間約250兆円ですから6パーセントぐらいの賃上げをして、それを国民がみんな消費に回す、金額で言えば、1億2600万人が、平均で年間12万円、月1万円ぐらいは最低でも消費を増やせばいいことになります。

 このぐらいなら出来そうな気もしますが、サテ、企業が6パーセントの賃上げに耐えられるでしょうか。絶えられる企業もあるかも知れませんが、中小企業までみんなとなったら、多分倒産する企業が続発するでしょう。消費が増えるからといっても、「うちは輸出の下請けだから消費は関係ない」とかいろいろ事情があるでしょう。

 賃上げ分がみんな消費に向かう保証もありません。賃上げで減益や倒産が増え、雇用不安が高まれば、貯蓄に回る率は高まるでしょう。それでは所期の目的は達成されません。

 本来企業というのは、(金の)卵を産む鶏のようなものですから、鶏が元気で確り卵を産んで(経済が良くなって)欲しいのですが、鶏が弱ってしまっては元も子もなくなります。

 ですから、企業を弱らせて「後から景気が良くなるから」といっても、経済というものは、そう巧くは回りません。リーマンショックで大打撃を受けて、まだまだ病み上がりの日本企業ですから6パーセントの賃金コストアップは致命傷になる企業も多いかも知れません。

 このあたりは前回も述べましたように、連合も良く理解しているから、かつて一部組合が強く主張した「賃上げで景気回復を」と言った論調は影を潜めてしまったというのが実態だと思います。

 因みに、賃上げで景気が良くなるのであれば、世界中で不況はなくなるのでしょうが、現実には生産性を超えた賃上げは「スタグフレーション」しかもたらさないことが、ヨーロッパやアメリカの経験で実証されています。

 国債発行方式も、賃上げ方式も、副作用のほうが強くて、どうも巧くいきそうにありません。しかし、円高阻止のためには、先ずは経常黒字をなくす、つまりGDPを使いきらなくてはならないのですから、矢張り何か副作用のない、「新機軸の経済政策」を考えなければなりません。今までと同じようでは日本は、何時までたっても救われません。何か考え出さなければなりません。


円高を止める具体的方法-4

2011年01月20日 11時46分41秒 | 経済
円高を止める具体的方法-4
 今年も日本経団連がいわゆる「経労委報告」を発表し、連合との間で、トップ会談をキックオフに、例年の「春討」が行われる時期に入りました。

 連合の基本的な方針は、長期的には(賃金水準・名目GDPが最高だった)1997年の賃金水準回復を目指し、1パーセント程度の総収入(含賞与・手当など)増を要求する、非正規労働者の正規を上回る賃上げに取り組む、という事のようですが、単産、単組に下りると、引き上げは要求しないところも多く、定昇実施が要求の実質になりそうで、一方、経団連のほうも、定昇実施は認めるといっていますから、大方の方向はもう決まったようなものでしょう。

 ということで、今年も賃金の上昇はゼロ近傍でしょうが、円高阻止のためには、賃上げをしたほうがいいという意見は、結構多いようです。

 以前、ロナルド ドーア氏が日本の新聞に寄稿した記事に、「日本がデフレを脱却するには賃上げをしてインフレにすれば、いいのではないか。そうすれば為替も円安になり日本経済はうまくいくと思う。」と言った趣旨のものがあって、「そんなに旨くいくものでしょうか」と感じた記憶があります。

 最近でもある地方紙で、大学の先生が「今必要なのは内需拡大で、そのためには家計の収入が増えなければならない。それには賃上げこそが必要なのだ」と書いておられるのを見ました。

 「内需拡大のために賃上げを」という意見はエコノミストや評論家といった第三者には結構あるのですが、賃上げを要求する当事者の連合やその傘下の労組が、あまり強くそうした主張をしないのです。何故でしょうか。
 
 多分賢明な日本の労組は、今の状況で無理に大幅賃上げをすれば、企業の収益を圧迫することは明らかで、賃上げで企業収益が減れば、雇用へのマイナスの影響が更にひどくなるだろう。
 さらにこんな状況では賃上げをしても消費拡大には直結しない、多分、将来不安から貯蓄に回る部分が大きく、賃上げが内需拡大につながる保証はなく、企業収益悪化、雇用不安助長では元も子もない。
 国民は萎縮して消費は伸びず、生活防衛、貯蓄指向で黒字が拡大すれば、円高につながりかねない、と確りと先を読んでいるのでしょう。

 過去の研究でも、個人消費の伸びは、賃金の上昇とはあまり関係なく、雇用の安定とより関係があるという事のようです。
 今の状況で賃上げをしたら、どんなことが起こりそうかを、次回、少し丁寧に考えて見ましょう。


円高を止める具体的方法-3

2011年01月18日 11時29分19秒 | 経済
円高を止める具体的方法-3
 前回の最後の部分で述べましたように、日本が財政再建政策を確り取るようになって、 プライマリーバランスの回復の可能性も見えてきて、政府も、「これで長年の悲願が達成される可能性が出てきた」と一安心し、国民も、「これで子孫に借金を残すという心配が薄らいだ」と喜ぶのは、大変喜ばしい事で、いわば、桜田財政制度審議会、土光臨調以来の、日本経済の懸案が、解決に向けて一歩前進することです。

 もちろんこれは、政府が舵取りをするわけですが、負担するのは国民で、消費税率や社会保障負担を引き上げて、歳入を増やす事で、「民間と政府」の間の所得配分のバランスを政府側に多くするということです。
 企業で労使の配分について「 労働分配率」論争というのがありますが、これは「企業と従業員」の間の配分の関係です。財政再建は、「民間と政府」の間の配分の関係、言い換えれば「国民負担率 」を高めるということです。

 因みに、「財政支出を減らせばよいではないか」という意見はいつもありますが、圧倒的に大きいのは年金や医療費ですから、これは増えるだけです。いくら財政支出を減らそうと「事業仕分け」をやっても、財政再建が可能になるような財源が出てこないことは、経験済みです。

 しかし、本来、今日のような財政状態では国民負担率を高めてでも、財政の健全化を進めることは、大変大事な事で、国民としても、増税は嫌だなどと単純に駄々をこねるのではなく、日本経済の健全化のため、なすべき努力はするのでなければならないでしょう。

 ただしそれは「為替レートが合理的に決まる(あるいは固定相場制 )」という国際経済環境の下での話であって、今日のような、国際投機資本の思惑で為替レートが決まるような困った環境のもとでは、危険性をはらむ可能性が大きいというが、前回の末尾の指摘の理由です。
 
 万年経常黒字の日本が、財政も健全化したら、国際投機資本は一層円を便利な「シェルター」として活用する可能性が高くなり、一層の円高をもたらす可能性大です。
 それでは、子孫に借金を残す代わりに、「ますます疲弊した日本経済」を残すことになります。これは政府の借金よりもっと恐ろしいでしょう。

 逆に財政健全化をしないほうが、国際投機資本にとっては、円を買いにくくなるでしょう。だからといって、財政垂れ流しはいけないというのであれば、財政健全化と同時に、経常黒字をゼロ、あるいは、ある程度の赤字?にするぐらいの政策を併用しなければなりません。
 前々回のべた2つ目の方法は、そうした視点から言われているのだと思います。


円高を止める具体的方法-2

2011年01月16日 11時22分31秒 | 経済
円高を止める具体的方法-2
 前回、円高を止めるための方法として言われている主な2つの意見を指摘しましたが、そのうちの1番目の考え方について検討してみたいと思います。

 「府経済見通し」によりますと、昨年度、今年度、来年度の日本経済の経常黒字額は15~17兆円となっています。他の見通しは狂っても、この数字はあんまり狂わないようです。
 15兆円といえば、GDPの3パーセント強に当たります。日本人はこの苦しい経済情勢の中で苦労して生産したGDPを3パーセント以上、毎年毎年、使い残して、その上で、消費不振、内需ジリ貧と嘆いているのです。

 それなら、自分たちで稼ぎ出したGDPですから、使い残さないで 全部使ったらいいじゃないですかということになります。貯金も沢山(1400兆円)溜まっているのでもうこれ以上貯めないで、思い切って使ったら、消費が増えて内需も増え、経済成長率は3パーセント以上高まり、街角景気も、就活戦線も様変わりに良くなるでしょう。

 ということですが、国民は将来不安からでしょうか、なかなか使いません。子供手当も「将来の学資のために貯金しよう」といいう人も結構多いようです。

 それなら、 国民の代わりに政府が使おうというのが1番目の考え方で、端的にいってしまえば、国債を15兆円余計発行して、大盤振舞をしようという意見です。前回述べたように、アメリカの国債を買ったのでは、アメリカ経済にプラスになるだけで、後から円高になって目減りして日本は損をするだけということになります。

 与党、国民新党の亀井さんなどは「もっと国債を出したっていいではないか」といっておられるように聞いていますが、国民が使い残したカネは、政府が国民のために使えばいいのではないかとお考えかと推察します。

 しかし、日本の財政は大変不健全で、政府の借金負担は世界最大と言われている現状で、この考え方は、賛成者が少ないようです。
 今度、経財相になられた与謝野さんも、財政再建を託されてのことのようですから、上のような考え方は不健全だとお考えだろうと思います。

 消費税を増税すれば、財政再建も不可能ではありません、しかし、それで国民と政府の間の「貸借バランス」は改善しても、日本経済の「国際貸借バランス」(経常黒字体質)が変わるかどうかはわかりません。
 逆に日本の財政が健全化の方向に向かったと、更なる円高の材料になるかもしれません。 サテ・・・


円高を止める具体的方法-1

2011年01月13日 12時14分35秒 | 経済
円高を止める具体的方法-1 
 昨日、財務省から次のような発表がありました。
・ 昨年11月の国際収支は前年同月比15パーセントの減少で3ヶ月ぶり。エコポイント終了前の駆け込み需要で、薄型テレビなどの輸入が増え、貿易黒字が47パーセント減少したのが主因。
・ 昨年の対外証券投資で、年間の中長期債の買い越しが、統計開始以来最高の22兆円となった。日本の銀行による米国債購入が増えたため。

 これをどう読むかですが、経常黒字の減少については現下の情勢の中では心配なことではなく、歓迎すべきことでしょう。できればゼロに近づくことが望ましいのですが、どうも減少は一時的要因のようで残念です。

 米国債については、経常黒字で貯めた金で米国債を買うしかない日本の銀行。日本人の貯蓄は日本の産業のために使って欲しいのですが、産業がダメなのか、銀行がダメなのか。これも、もともとは円高で、日本の産業も銀行もまともな仕事が出来なくなっているためです 。しかも持ち続けていれば円高で目減りするだけです。
 
 とめどない円高の悪循環が明確に出ている現象の中での「一断面」というのが正直な感想で、結局は、矢張り何とかして円高を止める方法を考えなければならないということでしょう。

 ということで本題に帰って、円高を止める方法ですが、すでに述べてきましたように、先ず日本経済の 万年経常黒字体質を変えることが前提でしょう。
 膨大な貯蓄と対外債権がある日本経済です、思い切って少し経常赤字を出してみませんか。国際投機資本の見る目も少しは変わるでしょう。

 政府経済見通しによれば、この所の年々の経常黒字幅は十数兆円です。これを減らす方法についてはすでにいろいろな意見が出ているように思われます。
 主なものを上げれば、
・ 思い切って国債発行を増やして、十数兆円の黒字を使いきる(一部の政治家)。
・ 賃上げをして消費を増やす、インフレになるだろうから、デフレ解消と一挙両得(内外の経済評論家)などです。

 これらは理屈はその通りでも、賛否両論があります。副作用も多いでしょう。その辺を検討しながら、もう少しよい方法を探してみましょう。


とめどない円高をとめる方法

2011年01月12日 11時05分30秒 | 経済
とめどない円高をとめる方法
 先ず、これは本来、日本の政策当局、経済学者などが考えるべき問題です。市井の一個人が取り上げるなど僭越の限りですが、その心意気に免じてご寛恕下さい。

 今日、日本経済・社会の直面する問題の原因は極めてはっきりしていると思います。一口でいってしまえば、「何かというと実力以上の円高 にされて、それによるコスト上昇で困っている」だけの話です。円高の原因は、プラザ合意の時はアメリカなどからの圧力、今回は国際投機資本の行動(思惑)によるものです。問題は、このままではこの動きはまだ続きそうだという事です

 ですから、日本の今の困難な状況は、「いざなぎ越え」の時のように、$1=¥105~125ぐらいになれば、ほとんど雲散霧消するものです。たとえそこまで行かなくても、とめどのない円高を阻止できることが解れば(これ以上の円高はないとなれば)、大方解決するといっていいでしょう。

 1995年、$1=¥89.75という円高の時は、日米協調介入で円安への切り返しに成功しています。日米自動車交渉も妥結し、アメリカにも「強いドルが必要」という意識があったからこその協調介入だったのでしょうが、今は、アメリカの指向は「弱いドル→輸出増強」でしょうから、協調介入はありえないでしょう。
 単独介入では、瞬間的な効果はあっても、国際投機資本にすぐ足元を見透かされてしまうことは明らかです。

 矢張りこの問題は、基本的には日本経済の体質が健全である(あり過ぎる)ことに根ざす問題ですから、日本経済の健全な体質を少し変えてみるより他に抜本的な方法はないでしょう。
 因みに、「健全でなくするほうが望ましい」というのはおかしなことですが、今日の変動相場制 と横行するマネー資本主義 の並存の中では、日本のような真面目さは通らないのです。

 では、日本経済の体質をどう変えるかですが、簡単に言えば、国際投機資本を含め誰が見ても、「円を買ったら損するかもしれない」と「ビビる」ような日本に変えていくことでしょう。
 問題は、そのための条件であり、その条件実現のために何をするかの方法論です。

 先ず、日本経済が毎年大幅な経常黒字を出し、健全であり続けたら、その条件は満たされません。一方、日本の政府は世界でも稀に見る赤字累積の政府ですから、あとは、経常収支が赤字になれば、日本も「双子の赤字」に転落、世界の日本経済を見る目は変わるでしょう。

 多分このまま放っておいてもプラザ合意、リーマンショックに続いて、あと2~3回ぐらい同じような円高が起きれば、そのたびに日本経済は打ちのめされ、30~50年で日本経済は頑張る気力も失せて壊滅し、日本は見向きもされない国になり、円高問題は消えるでしょう。
 ここでの問題は、そうなる前に何とかしようという事です。


円高は止められないのか

2011年01月10日 11時21分48秒 | 経済
円高は止められないのか
 昨年8月末に、このブログで怪談噺 を書かせていただきました。
 無間地獄ならぬ「無限地獄」が来るという噺です。

 ご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、プラザ合意後の円高を、必死の思いで、雇用不安の拡大、企業倫理や労使関係の質の低下、格差拡大や日本社会の劣化などの犠牲を払って克服してきた日本ですが、さていよいよ立て直しにかかれるかと思ったところでリーマンショックでまた円高。

 産業空洞化は更に進み、雇用不安から新たな苦難の時期が始まる様相が見えてきています。日本の産業界は、健気にも、さらなる努力でこれを克服しようとしています。
 しかし克服したからといって、問題が解決するわけではありません。すでに予見されているように、その次には$1=¥50といった円高の可能性があり、それを克服しても、また更なる円高・・・・。

 つまり何時までたっても、日本経済は円高の苦難から抜けられないという構図、まさに「無限地獄」そのもの、という怪談噺です。

 問題は、円高が、$1=¥80で止まるとか、$1=¥50でとまるとかといった保証があるかです。今までの経験では、誰もそんな保証はしてくれません。

 それなのに、日本は、誰かが「もうこれ以上円高にはしないから安心してください」と言ってくれるのを待っているのでしょうか。いずれの国も、国際投機資本も、そんなに親切ではありません。
 頑張れば頑張るだけ円高、「もうダメ」と日本経済が壊滅して、やっと止まるのでしょう。政策当局や経済学者は成り行きまかせのようです。何処からも円高阻止の論議は聞かれません。

 円高の無限地獄から抜け出すには、日本人が自分で、「円高にならない手段」を考えて、実行するしかないのです。日本経済が壊滅するまで待つわけにはいきません。

 いつか「もうこれ以上の円高はない」という日が来て欲しいというのであれば、その日は、日本経済が壊滅した時ではなく、まだ元気が残っているうちに、早く来るに越したことはありません。

 これから考えるのは、「早くその日を来させるためには何をしたらいいか」という方法論です。
 いろいろな方法論がありえます。現実的なもの、非現実的なもの、あらゆる可能性を考えて、その中で何が出来るか探し出して試みるしかないでしょう。


円高と日本経済・社会、日本が茹で蛙にならないために

2011年01月08日 12時39分22秒 | 経済
円高と日本経済・社会、日本が茹で蛙 にならないために
 繰り返して書いてきた問題ですが、日本経済は、円高が進むたびにデフレ不況を強いられ、苦労に苦労を重ねながら、それなのに、円高を回避するための手段については、ほとんど本格的な論議がありません。
 多くの政策担当者も学者も、円高は「天からの与件」か「自然現象」のように考えて、それに抗うという認識がありません。$1=¥50の日本経済を考えるような本まで出ているようです。

 誰が円高を演出しているのかを見破り、その裏をかくような政策を考えないと、そのうち日本経済は、本当に茹で蛙になって死んでしまうかもしれません。

 円高になる理由は、国際投機資本が、何かといえば円を買うからです。「とりあえず円を買って置けば安心」だからでしょう。1ドルが、360→240円の頃はまだ余裕があったのですが、240→120円 、で「失われた10年 」を経験しました。 今120→80円で新たな苦難(日本経済の本格的空洞化)に直面しています。

 この円高は、小手先の為替介入のような事でどうなるものでもありません。日本経済の体質を変え、国際投機資本が、何かあった時(例えばリーマンショック)、「資本を円に逃避しても安全ではない」と思うようにしなければならないのでしょう。

 アメリカは自在にドルの価値を決定しています。中国は中国なりの方法で人民元の切り上げに 抗っています。日本にはあのような方法は取れないでしょう。ユーロの場合は、加盟国のソブリンリスクでユーロ安が実現 しましたが、これも日本では起こりえないことです。

 だからといって、黙って円高を受け入れていたら、日本は、この十何年のようにGDPは次第に縮小し(514兆円→475兆円)、国家財政も、地方自治体も、学校教育も産業教育も研究開発も、まさにジリ貧になって、高齢化社会のコスト負担もままならず、再起不能の茹で蛙でしょう。

 この所の、日本人の気力の喪失、指摘される若者の無気力など、部分的にも新興国に追い越される技術開発、商品開発などは、すでに、このプロセスが、かなり進んできてしまっていることを端的に示していると考えるべきでしょう。

 茹で蛙の特徴は本人(本蛙)が気づかないうちに、事態が進んでしまうことです。
 世界で最も通貨切り上げが進む国、世界で唯一デフレにさいなまれる国という現実の中で、この問題に早く気付くことが、いま、日本にとって、最も大事なことではないでしょうか。


国内経済活動活発化のための政策を問う

2011年01月05日 11時34分50秒 | 経済
国内経済活動活発化のための政策を問う
 明けましておめでとう御座います。
 今年の賀状には、新年の経済の動向を心配するものが多くありました。私も同感で、今年の経済は本当に心配です。

 基本的には、$1=¥80そこそこの状態で、多くの日本産業が何処までやれるかという問題です。製造業の多く、それにサービス業でも国際競争に曝されるところにとっては、かなり無理な状態が続かざるを得ないように思われます。

 すでに、自動車やバイクをタイや中国で作り、輸入販売に切り替えるケースが増えてきていますが、完成品、部品を問わず、製造業企業の海外移転は、今年は一層加速化するというのが一般的な予想です。

 こうした形で進む国内産業の空洞化が、国内の雇用不振、所得機会の減少を通じて内需を不活性化し、国内産業の活動全体にマイナスの影響を広げていくというプロセスが進行する可能性は高いように思われます。
 失われた10年に起きたことと同じことの繰り返しです。もし円が$1=¥60~70まで行けば、改めて「失われた10年」でしょうが、80円で止まっていてくれれば、もう少し短くて済むかもしれません。

 一方、株式市場関係者の予想は、かなり強気です。出遅れ日本株が見直されるといった予想が多いようですが、その可能性はあるように思われます。日本の技術を持って、適切に海外展開すれば、企業としての収益性は高まる可能性が大きいからです。
  企業収益と、国民経済との乖離は進まざるを得ないでしょう。ただ、株価の上昇は、「景気」という意味でムードを明るくしますから、資産保有者などの消費意欲を通じて、経済に、ある程度のプラス効果をもたらすかもしれません。

 しかし、本当に重要なのは、GDPが増えること、つまり日本国内で経済活動が活発になることです。今の日本に必要なことはまさにこれなのですが、政府経済見通しでも、経済成長率は昨年より低くなる予想です。 いくら「仕分け」を一生懸命やっても、仕分けは予算配分の正義感の問題で、経済効果とは、あまり関係がなくなってきています。

 経済学者や経済研究機関、政府、労使の中央機関などにお願いしたいのは、国内の経済活動を活発化するための政策の論議です。例えば、円高をこれ以上進めないための政策は可能なのか、言い換えれば「円レートを国際投機資本に任せて、日本の主体的な経済政策はありうるのか」といった問題です。

 次回から、こういった問題を少し考えてみたいと思います。