明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(837)ベラルーシ・ドイツ・トルコを訪れて(2)・・・奈良測定所講演録から

2014年04月27日 08時30分00秒 | 明日に向けて(801)~(900)

守田です。(20140427 08:30)

3月30日に奈良市民放射能測定所の開設1周年記念企画でお話した内容の起こしの9回目です。今回はベラルーシ訪問の続きです。
ちなみに昨日は、チェルノブイリ原発事故が起こってから28年目の日でした。28年経ってウクライナは今、ご存知のように内戦が起こりかねない状況の中にあります。
ウクライナの新政権、およびそれを支持する人々はウクライナのEUへの参加を求めています。一方、ロシアを支持する人々はこの動きに反対し、むしろロシアへの帰属の強化を求めています。
ウクライナと国境を接し、東西対立のときは東側に属していた隣国のルーマニアがEUに参加したのは2007年。続々と元東側の国々が元西側に変わっていくことに、旧ソ連圏側の焦りがあるとも伝えられています。

こうした対立の激化に対して私たちはどうしたらいいのか。ウクライナの人々に直接できることはあまり多くないかもしれない。
しかしEU側対ロシア側という形での対立が深まることを憂い、あくまで武器を使った争いではなくウクライナの人々の対話の中であらなた進路が決まるように願っていくこと。そのためにできることを模索することが必要だと思います。
そのために私たちは、これらの国が置かれてきた歴史的社会的背景を理解する必要があります。解決の道は歴史の中に存在しているだろうからです。

そのような観点から見たとき、私たちにとってとても大事なことはベラルーシやウクライナも、旧ソ連邦の解体の矛盾の中に置かれていることです。
社会主義から、私たちが享受しているような社会保障制度なども作られてきた資本主義へではなく、弱肉強食の市場原理のみが支配する資本主義へと移行したのです。
そこではそれまでの国有財産のもぎ取り合戦が起こっている。それが大きく社会を歪めています。

やはり矛盾の多くはこの弱肉強食の社会体制にあるのではないか。新自由主義的な市場原理主義の蔓延こそが、さまざまな対立をもっとも深く規定しているのではないかと思えます。
日本も今、労働者の権利のさまざまな削減などによって、この過酷な弱肉強食の世界に転落しつつありますが、各国の現場でそれを食い止め、社会の暖かさを守っていくことが世界の平和と安定に寄与する一番の道です。
軍備の強化で自国の安全を守るのだとうそぶく人々は、この弱肉強食のあり方こそが世界を不安定化し、軍事的対立をも引き起こしていることを見ていません。
いやそんなことにはおかまいもなく、「弱肉」の側に置かれた人々の痛みなどまったく介さない冷酷な人々こそが、どこでも軍備強化を主張しているのです。おのが権益を守るためです。

今、私たちに問われているのは、そんな血も涙もない社会を生み出そうとするごく一部の世界的な金持ちたちに抗うことであり、そのための民衆的なネットワークを築いていくことだと僕は思います。
今回の報告からはそんなことをつかんでいただければ幸いです。

なおこの講演録は、奈良市民放射能測定所のブログにも掲載されています。前半後半10回ずつ分割し、読みやすく工夫して一括掲載してくださっています。
作業をしてくださった方の適切で温かいコメント載っています。ぜひこちらもご覧下さい。

守田敏也さん帰国後初講演録(奈良市民放射能測定所ブログより)
http://naracrms.wordpress.com/2014/04/08/%e3%81%8a%e5%be%85%e3%81%9f%e3%81%9b%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f%ef%bc%81%e5%ae%88%e7%94%b0%e6%95%8f%e4%b9%9f%e3%81%95%e3%82%93%e5%b8%b0%e5%9b%bd%e5%be%8c%e5%88%9d%e8%ac%9b%e6%bc%94%e3%81%ae/

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 「原発事故から3年  広がる放射能被害と市民測定所の役割  チェルノブイリとフクシマをむすんで」
(奈良市民放射能測定所講演録 2014年3月30日―その8)

 Ⅲ ベラルーシ・ドイツ・トルコを訪れて(2)

 【ミンスクの病院と孤児院】
ベラルーシの病院の医師たちのことを先にお話しましたが、病院見学はミンスクでの会議の翌日に行われました。参加者一行と研究施設や病院を訪問したのです。

初めに訪れたのは、街の中にある放射線の研究施設です。「ベルラド研究所」という名前で、いろいろと説明を受けました。ここの施設は、放射性のセシウムの体内からの排出を促進するといわれているペクチンを作って、商品化しているとも言っていました。
有名な研究所だそうで、いろいろな日本人も訪れている様子がありました。訪問者がおいていった著書が並べてあることから分かりました。
部屋の中にはホールボディーカウンターが置いてあって、座ってすぐに計測できるのですが、正直なところ、計測体制がかなりいい加減に思えました。
ホールボディーカウンターの計測では、自然界からの放射線の影響をカットするために、鉛などによる遮蔽板の設置が必要なのですが、何の遮蔽もしていない。椅子に座ってほんの1分くらい経つともうそれで計測されたというのです。これではかなり高い値のセシウムが体内にないと、不検出にされてしまいます。

続いて病院を訪れました。小児白血病の子どもたちなどのための施設です。凄かったです。こどもに対する愛が行き届いているのですね。
今回同行させていただいた「関西医療問題研究会」方たちは小児科の医師が多いので、「うらやましいなあ」「こどもに対してここまでやっているのだなあ」とひたすら感心しておられました。
病院の中を、ぐるぐると一回りしました。いろいろな研究室を訪れ、さらに患児がいる部屋も見せてくれました。隔離病室なのですがガラス張りになっていて外からも中からも見えるのです。何度か子どもたちと手を振りあいました。
みんな白血病と闘病中の子どもたちで、頭の毛が抜けている子が多かったです。病になったのは不幸ですが、しかししっかりとした設備で看護されているのが分かりました。かなりお金が投入されているのだと思いますが、国家予算の他、ヨーロッパの国々からの支援が手厚く行われており、この体制が維持されていると聞きました。

びっくりしたことに、病院の周りの敷地内に家がたくさん建っているのです。何なのかと言うと、小児白血病になった子どもと付き添いの親が、地方の村から出てきて、ここに一緒に住めるのです。
住みながら1ヶ月間とか長い時間をかけて診察を受けて、手術をするとか長期入院をするとか治療方針を決めていくのだそうです。その経費がすべて無料なのですよ。無償提供されているのです。
実際に病院を出て、家々が立ち並ぶ場にも行きました。瀟洒な、素敵な家が立ち並んでいました。日本の感覚では割と大きな家に、一つか二つの家族が入ると言ってました。

その家並の中を歩いていたら、小さな子どもたちが駆け寄ってくるのですね。その子どもたちは病気の子どもたちではなくて、実はこの家々の中に孤児院もあり、そこの子どもたちなのだそうです。孤児たちを集め、仮のお母さんをおいて、そこで育てられている。
子どもたちは少しだけれど英語を話すのですよ。「カモーン、フレンズ」とか言って寄ってくるのです。その子たちに引っ張られていって家の中も見学させてもらいました。
高松先生たちと次のように話しました。「この現実はどうとらえたらいいのでしょうかね。すごく社会主義的ですね。ぜんぶ無料保証されていて」などなどと。

ところが非常に印象に残ったのは、孤児たちの家に行ったときに、通訳(ロシア語―英語)のベラルーシ人の女性がなんだか暗い顔をしてるのです。何故なのかと思って家を出てから聞いてみました。そうしたら次のように言うのです。
「あの子たち、みんな可愛いでしょう?でもあの子たちはここを出たら必ず刑務所に行ってしまうのです」と。「どうしてですか?」と聞いたら「あの子たちは間違いなくドラッグ中毒かアルコール依存症にはまります。それがあの子たちの運命なのです」と言うのです。
なぜなのかというと、ひとつはここにいる子どもたちの家族自身が、アルコールやドラックに犯されてしまい、DVなどで崩壊してしまっているということです。
そのために親と一緒に住めなくなって、引き取られてきている子どもが多いのだそうです。そういう子どもたちは高い確率で、自らもアルコールやドラックにはまってしまいやすい。

でもそれだけではなくて、そもそもベラルーシにはドラッグが蔓延しているのだといいます。こどもが12歳ぐらいになると麻薬売りが近づいてくるのだそうです。
通訳の女性も、「近づいてくるドラッグを拒絶しながら育ってきた」と語っていました。それがベラルーシの社会なのです。
だからせっかくここで温かく育てられても、多くのこどもたちが社会に出て行くと、ドラック中毒やアルコール依存症になって、20代で何か事件を起こし、刑務所に入ってしまうことが多いのだと言うのです。

 
【ベラルーシという国の姿】
こういう話を聞くと、僕も周りの方たちも、ベラルーシという国をどうとらえたらいいのか分からなくなってきました。
一方で小児白血病は明らかに多いのです。しかしそれが原発のせいだとは言わない。言わないけれどもかなりの国家予算を投じて、なおかつ外国からの大きな援助があって、少なくとも一緒に行った小児科のドクターたちが、「これはかなりしっかりやっているなあ」と思うような医療体制がある。
しかし世の中にはドラッグやアルコールが蔓延していて若者が中毒や依存症になりやすい。わずか数日の訪問ですから、社会の一部を見たに過ぎないとは思うのですが、しかしそれでも混沌としたベラルーシの姿を垣間見たのではないかと思いました。

ミンスクの町は確かにとてもきれいです。しかしやはり非常に統制されているのですね。この統制された美しさの背後に、さまざまな中毒などがありながら、それが表に見えないようにされているのかと思うと、何とも言えないものがありました。
ちなみにベラルーシは、西欧諸国から独裁国家だと言われている国です。アメリカのブッシュジュニア元大統領など、一時期、「独裁国家ベラルーシを打倒せよ」などと言っていたそうです。

ベラルーシの社会はどうなっているのか。僕が感じたのは、社会主義の崩壊過程でprivatization=私有化がどんどん進んでいる激しい過程の中にあるということです。
どういうことが起こっているのかというと、今まで社会主義体制のもとで公共財産であったものの奪い合い、もぎ取り合戦が激しく行われているのです。誰がそれを奪っているのかというと、旧社会の政府高官、もともと公共財産を官僚的特権で牛耳っていた人たちです。
ロシアも同じと言うか、典型的なことが起こっていますよね。例えば今、大統領を担っているプーチンは元はソ連秘密警察のKGB(カーゲーペー)幹部でした。革命で倒されたはずの、旧社会の一番悪い部分にいた人物です。それが今も実権を握っています。

ベラルーシで、これは象徴的だなと思ったのは、ミンスクで泊まった宿泊施設の周りの住宅街でした。ちょうど高層マンションが次々と建設されている過程だったのですが、そのビルのオーナーは誰なのかというと、なんとモスクワ市長夫人なのだそうです。ミンスクの郊外に建っている高層マンションの所有者がです。
このことにも、ロシア資本がどんどんベラルーシーに投下されていて、もともとの公用地の上に、新しく作られている建造物が私物化されている現実が分かります。
そういう状況の中でベラルーシでは経済格差が開き、貧困が蔓延しているわけです。社会に対する絶望感の中で、若者の中にドラック中毒やアルコール依存症が蔓延してしまっている。そういう大変な状況にあることが見えてきました。 

ベラルーシはロシアによるクリミア併合に対しても、すぐに支持声明を出しています。完全にロシアに牛耳られてしまっているのだと思うのですね。もちろん、ベラルーシ政府高官自身も積極的にそのように動いているのだと思います。
例えば、自動車などはロシアのものしか買えないそうです。正確にいうと、ベンツやフォルクスワーゲンなど、ドイツ製の車も買えないわけではないのですが、購買に税金が100%もついてしまう。つまり、200万円の車を買おうとしたら400万円も支払わせられるのです。
そうやって明らかにヨーロッパの製品を排除して、ロシアのものを買わせるように仕向けられています。そのような社会のありかたがあって、その中で国立の病院の医師たちが、自由にものを言おうとしないのは、それはある意味、当然だろうなという気がしました。

ロシア自身は、核兵器をずっと保有している国だし、過去にたくさんの核実験もしてきました。チェルノブイリ原発事故にももともとの責任がある。当然、放射能の害についていろいろと言われたくないわけです。それで放射能の問題に強い圧力をかけてきたのだと思います。
実際には、先ほども述べたように、白血病の子どもたちが多いのです。だからお金をかけて治療はしている。しているのだけれども、それを放射能のせいだとは言わないという状況がある。その根拠が見えてきました。

続く

 

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