明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(815)トルコ・シノップ原発建設を止めるために(2)

2014年04月06日 12時00分00秒 | 明日に向けて(801)~(900)

守田です。(20140406 12:00)

トルコでの講演禄の2回目をお届けします。

美しいシノップを写した短いビデオと、シノップでの原発反対運動の写真も紹介しておきます。ぜひご覧ください。

Sinop'a dokunma!
https://www.facebook.com/photo.php?v=272193619607712

シノップでの原発建設反対運動 2013年11月、2014年1月
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=10202511732772900&set=pcb.10202511747413266&type=1&theater

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トルコ・シノップ原発建設を止めるために(2)

4、福島原発は今なお瀕死の状態

さて、このような事故を起こした原子炉が今、どうなっているかです。安倍首相は「コントロールされている」と語りましたがとんでもない。ものすごく深刻な状態にあります。
まず1号機から3号機は、核燃料がメルトダウンしてしまったため、膨大な放射線が飛び出し続けています。どれぐらい強烈なのかというと、人間が近づいたらすぐに即死してしまうほどです。そのため1号機から3号機には人間が近づけないのです。
ではロボットや遠隔機材を使えばいいと思われるかと思いますし、事実、繰り返しそのようなことが試みられているのですが、放射線はロボットやさまざまな機器も容易に破壊します。すべての物質に影響するからです。
そのために決定的なことは、実は内部がどうなっているか、誰も見ることができないし、把握することができずにいるということです。
コントロールされているか、されていないかというような状態ではないのです。それ以前の状態です。そもそも内部がどうなっているかすら分からないのです。

とくにわからないのは溶け落ちた燃料がどのような状態になっているか。今、どの辺にあるかです。
圧力容器の下部に溜まっているのか。それともそこから抜け落ちて格納容器の下に溜まっているのか。さらに格納容器も突き破って、地中に潜りつつあるのか。それすらもわかりません。
ただ明らかなことは、ものすごい放射線を発しており、同時に、ものすごい熱を発し続けているということです。そのために冷却が必要で、1日に何百トンという冷却水が投入され続けています。
しかしそれがどれだけ確実に燃料にあたっているのかもわかっていない。冷却が安定的に行われているかどうかもわからない。とにかく状態が把握できていないのです。

このことが恐ろしいのは、今、1号機から3号機の中でどれほどの危機が進行しているのかもわからないということです。わかっているのは、安全だとはとても言えないということだけです。
いつどのような要因で、状態が悪化してしまうかもわからない。しかもそれをにわかに把握できないかもしれない。まるでいつ爆発するかもしれない人間に制御できない巨大爆弾があるようなものです。

一方で4号機は、核燃料が入っていなかったのでメルトダウンは起こりませんでした。しかし核燃料プールの下のフロアで爆発があったため、プールが宙吊りになっています。
東電も危険性を承知していて、下からつっかえ棒を入れていますが、どれだけの強度が出ているのかもわかりません。そもそも建設基準に沿ったプランとしては崩壊し、壊れているわけですから、これも安全だとはとても言えません。
もっとも恐ろしいのは、大地震の大きな余震がきて、建屋が崩壊してしまうことです。
いや福島原発はこれまで何百回という余震にさらされており、そのためにダメージを受けています。爆発のダメージも受けており、いつ燃料プールが壊れてしまうかもわからない。

もし何らかの要因でプールから水が抜けてしまったら、すぐに周辺の作業員は即死してしまうし、さらに燃料が溶け出して、最終的にはプールの下に穴をあけ、燃料体が落ちてしまいます。
プールの中には今もなお1300本近い燃料体が入っており、それが下に落ちたら、猛烈な放射能が大気中に出てしまうので、周辺には誰もいれなくなります。つまり福島原発のサイト全体から撤退しなければならなくなるのです。
ちなみにこの核燃料プールに事故発生時にあった核燃料の放射能総量は、セシウムだけで換算しても、広島に落とされた原爆で発生したセシウムのなんと16000倍もあります。それがすべて大気中に飛び出してきてしまうのです。破局の到来です。

5、福島原発事故が最悪化したらどうなるか。

もし事態が最悪化したらどうなるのでしょうか。実はこれには有力なシミュレーションがあります。2011年3月に、福島第一原発事故が進展しつつある中で、政府が行っていたものです。
どのようなものかというと、「福島第一原発1号機が再度の水素爆発を起こすなどして、現場での冷却などを基軸とする事故対処ができなくなり、結果的に1号機から4号機まで、次々と破たんする事態」です。
この場合、とくに4号機の燃料プールにある大量の燃料棒が大気に晒され、膨大な放射能が飛散することが予測されました。
これからの被曝を避けるため、なんと私たちの国の政府は、福島原発から半径170キロ圏を強制避難区域とせねばならないと判断していました。さらに東京を含む半径250キロ圏内が、希望者を含んだ避難区域になると想定していました。

実は私たちの国の軍隊である「自衛隊」に避難のための作戦の立案の指示が出されていました。その際の避難民の数は3000万人です。自衛隊の最高幹部は、後にある雑誌の取材に「命令を見た途端に絶望した」と述べています。
この想定の作成者は、政府に属する「原子力委員会」の近藤駿介委員長でした。このため政府内の対策チームで「近藤シナリオ」と呼ばれました。
最悪の事態を想定するようにと当時の菅首相が指示し、それに応じて作成され、2011年3月25日に政府に提出さました。これについては2011年12月に毎日新聞が報じているのでお見せします。
この「近藤シナリオ」の存在に政府関係者は大変なショックを受けました。この後に政府に呼ばれて首相補佐官に就任し、以降、事故対処にあたった民主党の馬淵澄夫議員が、このことを自著の中で触れています。以下、少し引用してみます。

「首都圏全体が避難区域となる」
「もし原子炉の一つが新たに水素爆発を起こし、冷却不能に陥ったとしよう。格納容器は破損し、中の燃料も損傷、大量の放射性物質が一気に放出される。
高線量により作業員は退避を迫られるため、これまで続けてきた注水作業を中断せざるをえない。冷却できなくなった他の原子炉でも、格納容器や燃料プールに残された燃料がやがて露出し、そこから新たに大量の放射性物質が放出される。
つまりどこか一つでも爆発が起これば、他の原子炉にも連鎖し、大規模な被害となるということだ。

シナリオで特に危険性が高いと指摘され、シミュレーションの対象となっていたのは1号機だった。
この1号機で水素爆発が起きた場合、高線量の放射性物質が放出され、人間が近づくことすらできず、全ての原子炉が冷却不能に陥る。その結果、八日目には2、3号機の格納容器も破損し、約12時間かけて放射性物質が放出される。
六日目から十四日目にかけては4号機の使用済み燃料プールの水が失われ燃料が破損、溶融し、大量の放射性物質の放出が始まる。約2か月後には、2、3号機の核燃料プールの干上がり、ここに保管されていた使用済み燃料からも放射性物質が放出される。
この場合、周辺に撒き散らされる放射性物質による被曝線量はどれほどになるのか。

最も大量の燃料を抱えているのは、4号機の使用済み燃料プールだ。
このプールに保管されている、原子炉二炉心分・1535体の燃料が溶け出ると、10キロ圏内における1週間分の内外被曝線量はなんと100ミリシーベルト、70キロ圏内でも10ミリシーベルトにも上ると推測されていた。
さらにチェルノブイリ原発事故時の土壌汚染の指標では、170キロ圏内は「強制移転」、250キロ圏内は「任意移転」を求められるレベルだった。
汚染の状況はひどく、一般の人の被曝限度である「年間1ミリシーベルト」の基準まで放射線量が下がるのに「任意移転」の場所でも約10年かかると試算されていた。
「福島第一原発から250キロ圏内」―それは首都圏がすっぽりと覆われるほどの広大な範囲だ。北は岩手・秋田、西は群馬・新潟、南は千葉や神奈川におよび、東京23区全てが含まれる。この圏内における人口は3千万人にも上った。
近藤シナリオにおける最大の衝撃はこの点にあった。」(『原発と政治のリアリズム』馬淵澄夫著 新潮社 p24~26)

日本政府は、国民・住民に当時から原発の状況はきちんと把握されているから安全だ、心配いらないと当時から繰り返し宣伝しました。多くの科学者やマスコミがこれに追従しました。
しかし政府内ではこのようなシナリオを手に対応を続けていたのです。破局寸前にありながらそれを国民にも世界にも教えなかったのです。
しかも最も大事なこと、私が強調したいのは、この破滅的な破局、チェルノブイリ事故をはるかに上回るカタストロフィーの可能性は、まだ完全に去ったわけではないということです。
とくに再度、大きな地震が来たら、この恐ろしいシナリオが実現してしまう可能性があります。私たちの国はまさに今、とんでもない大破局の瀬戸際に立っているのです。

6、危機に対する東電の対応

もちろん、東京電力とて、福島原発がこうした危機の前に立っていることを実はよく知っています。
そのため昨年から始めたのは、4号機の燃料プールから燃料を取り出して、地上のプールに移すことです。昨年11月半ばにはじまって、いままでで300体ぐらいの燃料を地上におろすことに成功しました。
私はこの作業が安全に完璧に進むことを心から願っていますが、しかし実際には大変困難な仕事です。プールの中にはガレキが散乱しているため、引き上げるときに間に挟まるとひっかかって抜けなくなってしまう可能性があります。

またさきほども述べたように、万が一、水から出てしまうと、たちまち作業員が即死してしまうほどの放射線が出てくるため作業には極度の慎重さが要求されます。しかもそれを放射線を浴びながら行わなくてはなりません。
さらに燃料を宙吊りしているときに地震に襲われて落下してしまう可能性はないか。非常に危険で辛く、不安が山済みの作業なのです。

ただし燃料プールからの燃料の抜き取りは4号機だけで終わるのではありません。ここにもっと大きな困難があります。燃料プールはすべての原子炉にあり、1号機から3号機を合わせるとやはり1500体はあるのです。
しかもこれらの原子炉はさきほども述べたように、放射線値が高すぎて人が近づくことができないのです。ロボットもすぐに壊れる。4号機はまだ人が中に入って作業ができますが、そうはいきません。
ここにある燃料プールの中の核燃料をどうやってプールから取り出して降ろすのか。おそらく東電にも算段がついてないと思います。
しかし燃料プールにある限り、倒壊の危機は続くのです。いったいこれらをどうするのか。福島原発の真の事故収束のための道には、本当に巨大な困難の山が次々と連なっているのです。

続く

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