昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (六) 頭を畳にこすり付けて哀願

2014-11-23 14:12:16 | 小説
田口はふらつく足で真理子の後ろに回ると、頭を畳にこすり付けて哀願するように言った。
「止めてよ、田口くん。こんな所で言わなくてもいいでしょ、もう。
そう言うデリカシーさが無い所が嫌なの! 
それに、何かというと”キスしたい”とか”抱かせろ”じゃないの」

真顔で怒り出した真理子に、佐知子が同調した。
「そうなのよ、高木君もなの。どうして男共はこうなのよ。
女の気持ちなんか、全然解ろうとしないんだから。
照子、そう思わない?」
突然振られた照子は、まごつきながら広尾を盗み見しながら口ごもった。
「わ、わたしは…。好きな相手なら、いいけど…」

「ちょっと、照子。あんた、ひょっとして広尾君と。そうなの? 広尾くん」
呆気にとられた表情で、佐知子が二人を交互に見た。
広尾は、頭を掻きながら
「ごめん! 今年の初詣の帰りにさ。照子、黙ってる約束じゃないか」
と、呻くように答えた。

「全く、まあ。、虫も殺さぬような顔して。一番遅いと思ってた二人が。
あぁあ、私だけ取り残されたのか。
ねえ、ミタライ君どう? 私と。ミタライ君はまだでしょう?」
甘えるように真理子が、彼の首に手を回してきた。

「おいおい、田口くんに悪いよ。にらんでるぜ、彼」
彼はゆっくりと、真理子の手を外した。
真理子の胸の感触が心地よく感じられ、満更でもなかった。
酒の酔いも手伝い、悪い気はしなかった。

「あゝ、くそ! 俺はここを出るぞるぞ。豚の世話なんて、やってられるか。
休みも取れないなんて、冗談じゃないってんだ。
なあ、ミタライよ。都会じゃ、女の子は…」

「ストップ! それ以上は、言うなよ。田口くんの言うようなことは、ない。
断言できる。あれは、週刊誌が面白おかしく書いてるだけさ。
ほんの一握りの女性だけだよ。テレビなんかで騒いでいる女子大生にしても、口だけだよ。
そんな話、大学の中では笑い話だ」
と、田口を慌てて制した。

これ以上、性に関する話題が続かないようにしたかったのだ。
ユミとのことを口にしない自信がなかったのだ。
自慢話が嫌いな彼は、高木に話を振った。
「だけど、高木君。実際の所どうなの、農業は? 若者の流失は多いんだろうね」
「あゝ、多い。ここだけの問題じゃない。日本全国すべてだろうさ」
眉間にしわを寄せながら、居住まいを正した。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿