昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (八) 相変わらず足を踏み続けた。

2015-01-06 20:07:43 | 小説
久しぶりの部室には、十人程度が集まっていた。
キョロキョロと見回す彼に、「お久しぶりい!」と、皆が声を掛けてきた。
どうやら男は、彼だけのようだった。

彼の目が、のぶこを捉えた時にリーダーである耀子の声が響いた。
「それじゃあ、始めましょう。いつものように、男性役を交代でね。
今日は、久しぶりにミタライ君が来てくれました。
皆さん、順番にパートナーとなって下さい」

「どうしてたの、待ってたのに」
「どう? 少しはステップ出来るようになったかな?」
「まだ、寮に居るの? アパート暮らしなの、遊びに行こうかな?」

パートナーとなった女性達から、口々に声を掛けられた。
しかし全く進歩のない彼は、相変わらず足を踏み続けた。
それでも皆が皆、にこやかな顔で彼に相対した。

待ちに待ったのぶことのダンスは、まるでぎこちないものだった。
軽快なリズムに音楽が変わったせいもあるが、のぶこの動きにまるでついていけなかった。
足を踏むまいと意識すればする程、吸い寄せられるように踏んでしまった。

「こらあ、わざとじゃないだろうな」
そんな言葉が出る程に、数え切れない程だった。
甘い言葉の一つも囁いてみようか、などと考えていた彼の目論見は露と消えてしまった。

結局のところ、耀子の個人レッスンを受けることとなり、皆が帰った後も特訓が続いた。
彼としてはそろそろ終わりたいと思うのだが、耀子の真剣さに負けて言い出せずにいた。
「うーん…」
中々ステップが上手くいかない彼に対し、耀子は少しの間考え込んでしまった。
「すみません、どうもダンスはダメみたいです。昔から苦手でして、フォークダンスすら敬遠していたんです」


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