昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十二)の一と二

2011-11-04 23:35:40 | 小説


朝方近くまで痛飲した武蔵は、酔いつぶれてしまった五平を残して、
そろそろ明るくなり始めた外に出てみた。
眼前に広がる海原を、感慨深げに見つめた。
一面に敷かれた芝生が、素足で歩く武蔵に心地よく感じられる。
海からの風も、武蔵に心地よい。

“俺も、ここまで昇りついたんだなぁ。
苗字のせいで、やれ厠だ、臭いだの、と揶揄されたもんだ。
蔑まされ続けたが、何くそ!と発奮してきたんだ。
運にも恵まれたが、スレスレの事もやった。
潰した同業も、数多あったなぁ。

テキヤ相手に啖呵も切ったし、暴力団と渡り合った事もある。
そう言えば、首を縊った奴もいた。
あの時は、若い者を外で待たせていたんだ。
すぐにどうこうと言うことはなかったが、支払いが滞り始めたからな。
しかしあの男も、納得ずくだったんだ。”



「社長!どう、ここらで楽になんない?
うまく立ち回ろうよ、ねぇ。
酷な言い方だけど、早晩行き詰まるよ、お宅は。
いや、分かってるって。頑張ってきた、ホントに。
頭が下がる、ホントにね。
でもね、これ以上粘ってみてもさ、良い目は出ない。
ジリ貧だ、もう。
そこでだ、こっちもね、苦しいのよ。
だからさ、お互い良い思いをしょうよ。
いい考えがあるの。
七掛けで買ってよ、商品を。
で、そっちの商品を五掛けで買うわけ。
相殺って、形ね。
いやいや、表向き七掛けな訳よ。
実際には、五掛けでいいの。
分かる?二割は、現金で払うからさ。
勿論、帳簿には載せない。
それでね、バンザイしちゃうの。
夜逃げしたって、良いじゃない。
勿論ね、そのまま頑張っても良いよ。
社長の力量なら、再起できると思うけどね。
どう、この話に乗るかい?
よし決まった!
あそこの角に、若い者を待たせてるから。
商品も、積んで来てる。
上代で、壱百萬だぁな。
ここに今、壱拾萬円あるんだ。
取りあえず、これだけ払うよ。
残金は、後で払うからさ。」


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