昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (六) マドンナ、早苗のことだぁさ

2014-11-21 08:54:57 | 小説

「こんばんわあ、遅くなっちゃってえ」
「盛り上がってるう?」
女性二人が、揃って入った来た。
「おぅ、これからだ。上がれよ、早く。乾杯するぞ」
「じゃ、改めて。ミタライ君、お帰りなさーい!」
佐知子の音頭で、皆コップを上げた。
「恥ずかしながら、御手洗武士は帰って参りましたあ」
おどけながら彼が答えた。一斉に拍手が起き、その後ググーっと一気に飲み干した。

「さあ、どんどん食べて飲んでくれよ」
「はあーい! お腹空いたあ」
照子の素っ頓狂な声に、一同大笑いした。
「ねえねえ、さっきさ。”狙ってる”なんて言ってたけど、何のこと?」
照子が、真っ赤な顔の広尾に問いかけた。

真理子も”うん、うん”と相槌を打ちながら、
「私も、知りたあい!」
と、隣の石貫の脇を肘でつついた。
「知らざぁ言って聞かせやしょう! 我らがマドンナ、早苗のことだぁさ」
やおら立ち上がった石貫は、身振り手振りを大げさに声を張り上げた。

「早苗ちゃんのこと? そうそう、ミタライ君、婚約したんだって? ショックだわあ」
真理子の声に続けて、
「そうよ、許せないわ! 私と言うものがありながら」
と、照子がおどけながら泣き崩れる仕種を見せた。

「やめてくれよ、もう。昨日聞いたばかりで、弱ってるんだから。
第一、早苗は妹みたいなものだから。そんな恋愛感情なんて、無理だよ」
と答えはしたものの、昨夜の夢が彼の脳裏に浮かんできた。

一糸まとわぬ裸体の早苗だった。中学生とは思えぬ胸の膨らみ、くびれたウエスト、スラリと伸びた足。
茫然とする彼に、
「全部お兄ちゃんにあげる」
と、傲然と早苗が言い放った。

後ずさりをする彼に、一歩一歩近づく早苗だった。
彼の背が壁に当たり、逃げ場が失くなった。
早苗が彼の眼前に来た時、母親の声で目が覚めた。
もしその時、母親の声がなかったら…。
考えたくはなかったが、理性を失った彼だったかもしれない。


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