昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (七) 彼女が受け取りますから

2014-12-24 17:52:56 | 小説
アパートの管理人からデパートからの荷物を受け取る際、
「えゝ、聞いてますよ。“彼女が受け取りますから”ってね」
と、笑顔で声をかけられた。
貴子は顔を真っ赤にしながら、逃げるように部屋に駆け込んだ。

部屋に入るなり、すぐに窓を開けた。
ムッ! とくる男の匂いが、部屋中に充満していた。

「あぁ、やっぱり。キチンとしているようでも、男の人ね」
足の踏み場もない程にとは言わないまでも、CDやら雑誌類の散乱ぶりが、貴子を妙に納得させた。
貴子は、両手に抱えた荷物を玄関の上がり口に置くと、テキパキと片づけ始めた。

窓の外に目をやると、電車がひっきりなしに通っていく。
ゆっくりの速度故に、車内の人物がはっきりと見て取れる。
彼の言うように車内から、丸見えだった。

早速レースのカーテンを取り付けた。
しかし時折吹き込む風に、カーテンはすぐに用を為さなくなってしまった。
掃除機をかけた後に、窓を閉じた。

サイドボード上のCDラジカセのスイッチを入れると、聞き慣れない音楽が流れ始めた。
哀愁の漂う、何か心を掻きむしるようなメロディーだった。
「あぁ、これがアイヌ音楽なのね。たけしさんにとっての、癒しの音楽か」

暫く聞き入っていたが、「トン、トン!」とドアを叩く音に、“えっ!もう帰ってきたの?”と、慌てて立ち上がった。

「ごめんなさいねえ、ご実家からのお荷物が残っていたわ。
ここに置いておきますから、ね」
と、管理人がドアの外から声をかけてきた。

「はあい、わかりました。ありがとうございます」
すぐにドアを開けたが、既に管理人はそこに居なかった。
貴子はミカン箱の段ボールを中に入れ込むと、さあ、頑張らなくちゃ! と、自分に気合いを入れ直した。
そしてあらかた片づけが終わった時に、彼が帰宅してきた。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿