昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

初恋物語り [レモンの夕立ち] (一)

2023-01-08 08:00:25 | 物語り

-シン君とアコちゃん、どうかしらねえ。
-シン君、もう高校生でしょ。
-アコちゃんも、中学生なのよね。

井戸端会議の声が、胸に突き刺さる。
せまい故郷に帰ってきて、わずか二日目のこと。
夕立ちの雨が、激しく大地を叩きつける。
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西の空に、どんよりとした雲が浮かんでいます。
どうやら、雨を呼びそうな気配です。

今日は久しぶりのデートだというのに、なんとも意地悪な天気の神さまです。

不安げに見上げるシン公の顔には、それでもどことなく歓びの色があります。
しっかりと握りしめられたその拳には、どことなく大人が感じられます。

いつも肩をいからせて歩く姿は、まだまだ子供だったのですが、今こうして握りしめられた拳からは、確かに大人が感じられるのです。

シン公との身長差を、いつも気にしながら歩いているアコは、その握りしめられた拳を、うらめしく思います。
その大きな手は、アコの手をにぎってくれないのです。

うらめしげに見上げるアコですが、シン公にはそんな乙女ごころが、いっこうに通じないのです。

アコには、手に持った傘が、重たく感じられます。
家を出る時に、雨が降りそうだからと、母親に無理矢理もたされた傘なのです。

それが、妙に重く感じられるのです。

シン公が、「貸せよ、持ってやるよ」と、ぶっきら棒に言ったときには、軽いものだったのです。
小指一本でも持てそうな、軽いものだったのです。

それがいまは、ズシリと重いのです。

「もうすぐ、春だなあ……」
シン公の遠くの空を見る目を見つめながら、アコはうなずきました。

心では素直にうなずいているのに、口から発せられたことばには、険が感じられます。
「当たり前よ。カレンダー位、見てるでしょ!」

乙女心を解しないシン公に、アコは腹をたてているのです。


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