-シン君とアコちゃん、どうかしらねえ。
-シン君、もう高校生でしょ。
-アコちゃんも、中学生なのよね。
井戸端会議の声が、胸に突き刺さる。
せまい故郷に帰ってきて、わずか二日目のこと。
夕立ちの雨が、激しく大地を叩きつける。
---------
西の空に、どんよりとした雲が浮かんでいます。
どうやら、雨を呼びそうな気配です。
今日は久しぶりのデートだというのに、なんとも意地悪な天気の神さまです。
不安げに見上げるシン公の顔には、それでもどことなく歓びの色があります。
しっかりと握りしめられたその拳には、どことなく大人が感じられます。
いつも肩をいからせて歩く姿は、まだまだ子供だったのですが、今こうして握りしめられた拳からは、確かに大人が感じられるのです。
シン公との身長差を、いつも気にしながら歩いているアコは、その握りしめられた拳を、うらめしく思います。
その大きな手は、アコの手をにぎってくれないのです。
うらめしげに見上げるアコですが、シン公にはそんな乙女ごころが、いっこうに通じないのです。
アコには、手に持った傘が、重たく感じられます。
家を出る時に、雨が降りそうだからと、母親に無理矢理もたされた傘なのです。
それが、妙に重く感じられるのです。
シン公が、「貸せよ、持ってやるよ」と、ぶっきら棒に言ったときには、軽いものだったのです。
小指一本でも持てそうな、軽いものだったのです。
それがいまは、ズシリと重いのです。
「もうすぐ、春だなあ……」
シン公の遠くの空を見る目を見つめながら、アコはうなずきました。
心では素直にうなずいているのに、口から発せられたことばには、険が感じられます。
「当たり前よ。カレンダー位、見てるでしょ!」
乙女心を解しないシン公に、アコは腹をたてているのです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます