少年が老婆をじっと見つめます。別段のこともなく見つめています。ただじっと見つめるだけなのです。
「なんぞ、用かい? 坊や。このばばに、聞きたいことでもあるのかい?」
沈黙に耐えかねたように、老婆が少年に声をかけました。
「どうせ、親に言われてきたんじゃろ。お宝のありかを聞き出してこいとでも、言われたんじゃろ。
子どもになら口をすべらすかもしれんとな」
老婆が少年の目をのぞき込みます。
少年の目は、澄んでいました。どこまでも深く深く澄んでいました。
老婆の強い視線をただ黙って受け止めます。
そして、どんどんどんどんと吸い込んでいきます。
いつの間にかその場に老婆が居ません。
いえ老婆自身が、少年の目の中に吸い込まれてしまったような錯覚に囚われてしまったのです。
以後、老婆の口が重くなりました。
家々で歓待を受けても、無表情な老婆です。
老婆の前に並べられたご馳走を見ても、ニコリともしません。
そして、一膳の飯と一杯の汁物をすすって終わりにします。
ご馳走には、一切手を付けなくなりました。
「十分じゃ、もう十分じゃ」。小声で言うのです。
まるで呪文のごとくに唱えるだけです。
「十分じゃ、もう十分じゃ」
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