自宅に戻るやいなや、孝男の怒声が飛んだ。
「道子、ほのかはどこなんだ! そもそも、なんで介護士なんだ。
ほのかにはどこでもあるんだぞ。
銀行が良ければ入れてやるし、商社が良ければ話をつけてやれる。
公務員はどうだったんだ。なんで、なんで、あんな老人のばかりのところに…」
苦渋にゆがんだ顔を見せて、力なくソファにへたり込んだ。
そんな孝男を勝ちほこったような表情で道子が見おろす。
「あなたには分からないの、ほのかの気持ちが」
と、詰るように言った。どういうことだと顔を上げる孝男に
「お婆ちゃんよ、お婆ちゃんのこと。
それが引っかかっているの、今でも。
キチンとしたお別れをしていないでしょ」と冷たく言い放った。
「お別れしていないって、あれは、父さんが…。しかしそれがどうして、介護士なんだ」
「あなたから逃げ出したいという気持ちもあったでしょうね」
「どういうことだ、それは。ほのかには十分なことを、いや、子どもたちには不自由な思いはさせていない。
みんなそれぞれに好きなことをさせているじゃないか」
なんの不満があるのか、と道子をにらみ付けた。
「ま、ツグオは別だが。あいつはだめだ。どうしようもない奴だ」
「それよ、それ。ほのかはね、あなたのそんな偏執さが我慢できなかったの。
自分だけが特別扱いされて、特にツグオに対する冷たさが耐えられなかったの」
「馬鹿な! あいつはだめだ。
何をやらせても、ナガオの足下にも及ばん。情けない奴だ」
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