昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[青春群像]にあんちゃん ((20年前のことだ。)) (四)

2025-03-09 08:00:14 | 物語り

 孝道の懇意にする産婦人科医のはからいで、孝男・道子夫妻の実子としてとどけられた。
そして孝男によって、長男と書いてナガオと呼ぶ名前がつけられた。
いくらなんでもそんな字は、と周囲が反対したが、頑として孝男は「これでいい」と応じなかった。
孝男にしても、弟の尻ぬぐいをさせられたという思いが強かった。

 皮肉なことに、その2年後に次男がさずかった。
不妊治療にかようことをやめたあとの妊娠だった。
道子のきもちに余裕ができたゆえのことなのか、治療が功を奏したのか、孝男とシゲ子に「あの金はなんだったんだ(の)」と、イヤミのことばを受ける道子だったが、道隆の祝福のこえが救いだった。
そして名を、ツグオとつけられた。

 孝男の長男にたいする無関心さは、実子でないからという理由があった。
しかし次男にたいしてもむかんしんな孝男の心底が分からない。
名前からして「第一子が長男なら、第二子は次男にすべきだろうが」と、とどけられてしまった。

 子育ての手伝いなど期待するわけではなかったが、めったにいない休日にほんの少しの時間でも長男の遊びあいてをという道子にたいし、孝男のへんとうは冷たいものだった。
「おれは闘っているんだ。
お前たちの暮らしをまもるために、すこしでも早くたかい地位につきたいんだ。
たまの休日ぐらいはゆっくりさせてくれ」

  孝男の銀行における激務については、1年たらずとはいえ道子もまた銀行の窓口業務についていたのだ、よくわかっている。
しかし孝男の子どもたちにたいする愛情のすさには納得がいかない。
道子の知る父親像とはまるでちがう孝男に、とまどいを感じた。



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