昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

にあんちゃん ~通夜の席でのことだ~(十一)

2016-02-05 11:26:47 | 小説
 先ずは冷やしたスイカが振る舞われ、和気あいあいと始まった。
部屋の電気が消され、ミニプラネタリウムが出現した。

とたんに歓声が起きたが、その中にかすかではあったが呻き声が聞こえた。
慌てて灯りが点けられ、声の主を探した。
一番後ろに陣取っていた老婆が、苦しげに突っ伏していた。

 孫娘が「お婆ちゃん、お婆ちゃん」と声をかけると「ごめんね、ちょっと胸がね…」と声をあげた。
意識がはっきりとしていることから
「大丈夫だ。先生がご自宅に送り届けるから。それまでの間、みんなで説明を続けてくれ」
と老婆を背負った。

 夜中の部活動を渋る教頭に対して「大丈夫ですから」と強く申し出た手前、救急車騒ぎは避けたい顧問だった。
老婆を背負って部屋を出ようとする顧問に、次男が噛み付いた。

「救急車だよ、救急車、呼べよ!」
「いや、それより…」

 と渋る顧問に
「わたしなら大丈夫だから。皆さんは、お星さまを観て下さいな」
と、老婆が力なく言った。

「だめだよ。今は元気でも、突然に悪くなることはあるんだから。急げよ!」
 生徒たちの非難の視線を感じた顧問が、渋々救急車の要請を行った。
ほのかはシゲ子のことが思い出され、体が硬直していた。
何かをせねばと気ばかりが焦るのだが、体はまるで動かなかった。

「ほのか。冷やしたハンカチ、持って来い!」
 次男の声にも体は動かなかった。
金縛り状態がとけたのは、救急車が到着してからのことだった。

老婆の状態を確認した後に、老婆の身内の生徒と共に顧問が付き添った。
結局鑑賞会は、そのまま解散となった。


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